学校法人日本女子大学は、日本女子大学附属豊明幼稚園・同附属豊明小学校(以下、附属幼稚園・附属小学校)の園児(年長)・児童の希望者を対象に、ネイティブによるオールイングリッシュの夏休み5日間プログラム「JWU Homei Summer School」(以下、豊明サマースクール)を昨年から行っている。幼稚園から大学までの一貫した教育理念をベースに、大学の教授陣が監修したプログラムは、子どもたちの未来につながる大切なものを楽しみながら育む内容になっている。今年の豊明サマースクールは7月22~26日に行われたが、2日目となる23日のプログラムを見学した。
伝統校の一貫教育をベースに大学教授が監修
日本女子大学と日本女子大学附属中学校・高等学校は1901年に、附属幼稚園と附属小学校はその5年後の1906年に創立された。幼稚園から大学・大学院まで擁する国内有数の伝統校は、一貫教育としてグローバル教育、キャリア教育、STEAM教育という三つの柱を据えている。グローバル教育は国際的な視野や異文化を理解する力を、キャリア教育は将来の仕事について考える力を育む。STEAM教育はScience、Technology、Engineering、Art、Mathematicsの頭文字が、その名の由来で、近年文部科学省が推進している学びだ。文系理系を問わず、多岐にわたる学びを横断的に行うことで、AI(人工知能)やロボットが身近なものになる社会で大切な問題解決力や創造力を育むことを目的としている。
豊明サマースクールも、この一貫教育の三つの柱を土台とし、発達心理学や応用言語学、化学などを専門とする大学の教員がプログラムを監修している。ただし、主体は年長から小学6年までの園児・児童であり、あくまで「楽しむ」ことが主眼となる。何かに夢中になる体験の中で、英語で会話するおもしろさやサイエンスの不思議、将来の仕事に対する好奇心などに子どもたちが触れることが重視される。
歌、モノ作り、お絵描きを英語で楽しむ
約120年前の設立時と変わらぬ文京区目白台の地に立つ日本女子大学附属小学校の校舎が、豊明サマースクールの舞台だ。児童にとってはもちろん、園児にとっても幼稚園に隣接する小学校は日頃から親しむ環境だろう。一方、オールイングリッシュのプログラムに子どもたちが気後れしないように手厚い指導体制がとられる。各クラスには児童教育のプロフェッショナルであるネイティブの講師のほか、バイリンガルのスタッフが複数人付き添い、子どもたちを陽気に盛り上げながら、英語がわからない時には丁寧にフォローする。普段の子どもたちをよく知る附属幼稚園・小学校の教員が付いていることも心強い。
プログラムは参加園児・児童180人が体育館に集う「Team Assembly」でスタートする。「Good morning!」というあいさつの後、体の部位の歌「Head Shoulders Knees & Toes」を使ったウォーミングアップを行った。歌いながら歌詞が示す部位に触れるのだが、その時々で歌わない部位を決めるなど、楽しい工夫が凝らされていた。子どもたちの英語の習熟度は学年や個人によって差があるものの、講師の指示に一生懸命耳を傾けながら活動に取り組んでいた。
その後プログラムはクラスに分かれて進行したが、英語を理解しようと試行錯誤しながらも、前向きにコミュニケーションをとっている子どもたちの姿が印象に残った。3年「Career Education」では、自分たちで作った色とりどりのネックレスをもとに、「I like this」「It’s pretty」「How much is it?」と、店員と客のロールプレイングを生き生きと演じていた。4年「English」では、自分たちが描いたモンスターを「It has a purple body」「It has six green tails」などと元気に表現していた。講師やスタッフのきめ細かいフォローあってこそのことではあるが、歌やモノづくり、お絵描きなど、子どもたちが夢中になれるものの中で自然に英語に親しむ効果がやはり大きいようだ。
理数教育に強み、サイエンスの不思議に触れる
「Science」も、好奇心をかき立てる内容だった。1年のクラスでは、目の錯覚を利用したゾエトロープ(回転のぞき絵)などを体験した。スリットが入った筒状の紙を竹串につけて手で回すと、アニメーションのように絵が動いて見えるというもので、つかの間に現れる像を、飽きることなく眺めている子どもたちの表情が印象的だった。
日本女子大学は私立女子大学では唯一理学部を有し、理数教育に力を入れていることで知られる。小学校では大学施設の電子顕微鏡に触れる授業も行われているというが、6年のクラスでは手のひらにおさまる「ハンディ顕微鏡」を使って砂粒や種、貝殻などを観察した。身近なものが見せる普段とは異なる様相に、子どもたちは目を見張り、大きさや色、質感も丁寧に観察していた。プログラムの意図について、監修した理学部化学生命学科の宮崎あかね教授は次のように語った。「サイエンスの根本を追求したうえで、家に帰った後、ハンディ顕微鏡でいろいろなものを観察してみるなど、子どもたち自身で応用できることや、このクラスについて自分の言葉で親に報告できることなどを重視しました。サイエンスの『ワンダー(不思議)』を感じてくれたらうれしいですね」。
AIのメリットとリスクを体感する
「Programming」はAIをテーマに含めていて興味深かった。6年のクラスでは「Mug」「Drum」といったお題に対して、絵を20秒で描いてAIに答えさせるというゲームを行った。挑戦者5人全員が見事に正解を引き出し、AIの優れた面を体感した。一方でアナログ時計の表示を間違うなど、AIが完璧でないことも学んだ。メリットとリスクを知ることで、身近なものになり始めているAIとどう向き合えばよいかを考える大切さに触れたに違いない。
3年「Career Education」は、先述したようにお店の人としてアクセサリーを売ることを疑似体験する内容だったが、高学年のクラスでは、大学生、大人、高齢者という三つのターゲットを設定して、各々どういうアクセサリーが売れるかを考えて発表するプログラムを行った。仕事というものをより実践的に体験することで、自分の好きなことや得意なこと、将来社会にどうやって貢献するかということを考えるきっかけの一つになったのではないか。
ほかにも「P.E.」、いわゆる体育のプログラムでは、大学の施設を利用してクライミング(ボルダー)を体験するクラスがあった。「SDGs & Art」では、すごろくで自分たちが地球に対してできることを考えた後、廃材を使ってアート作品作りに取り組んだ。園児と1年のプログラムは午前中までだが、2~6年は午後もあり、その後希望者には、英語の遊びや学びに重点をおいたアフタースクールも用意されている。
考える力を育み、自信をもってキャリアを描いていく人に
オールイングリッシュの5日間という普段の日常とは異なる時間を、子どもたちは過ごす。一方プログラムが行われるのは、日頃から親しむ小学校である。子どもたちが自然に、そして思いきり、実り多い「非日常」の学びを楽しむことができる理由の一つだろう。子どもたちを送り出す保護者にとっても安心感につながっているに違いない。
「英語がしゃべれて楽しい」「普段とは違うことができておもしろい」。子どもたちからはそんな感想が聞かれた。昨年参加した子どもの保護者にも好評で、「積極性や探求心が高まった」「家でも英語で話している」などという声があったという。日本女子大学の今市涼子理事長は豊明サマースクールの意義について「『勉強』というと子どもたちは構えて、嫌いになってしまうこともあります。楽しみながら未来につながる様々なことに興味を持つことがまずは大切です。この5日間がそのきっかけになればと思います」と語る。
楽しむことを通じての学び ──。附属小学校の日常においても重視されているものだ。そのうえでグローバル教育、キャリア教育、STEAM教育という一貫教育の支援体制のもと、子どもたちの未来の可能性を拡げる教育が行われている。「自分のことをよく知り、将来社会で自分は何ができるのかを自分で考えられようになることを重視しています。ITや世界情勢の変化に伴い、今後そうした力はますます必要になるでしょう。本学園の学びを通じて、そうした資質を養い、自信をもってキャリアを描いていく人になってもらいたいと思っています」(今市理事長)。