人口減少、少子化などの社会構造の変化への対応は、あらゆる業界で求められています。大学教育でも同様で、なかでも女子大学においては共学化をはじめとした様々な動きがあり、建学以来、女性の社会参加をめざし、道を切り拓いてきた存在があらためて注目されていると言えます。「女子大学宣言」を公表した京都女子大学の竹安栄子学長、先人たちのチャレンジ精神を受け継ぐ津田塾大学の髙橋裕子学長に聞きました。
女子大学のミッション
竹安 学長になる前から、女子大学教育の意義を社会にしっかり発信する必要があると考えていました。共学化される女子大学が目立つようになり、「『京都女子大学はどうなんだ』と父に聞かれた」と話す学生の声を耳にしました。本学が今後も女子大学であり続けることを明言する必要があると考え、まず学内メッセージを出しました。学生たちは「先生ありがとう」「うれしい」と応えてくれました。卒業生や同窓会からも問い合わせが来ていると聞き、これはもう社会的に公表しなければと、大学ホームページに「女子大学宣言」を載せたのです。反響の大きさに驚いています。
髙橋 宣言は、関東にいるわたしたちにも聞こえてきました。女子大学の“不人気説”がありますが、そんなことはありません。女子大学で学んだことも、教えたことも、働いたこともない人たちが、志願者数などの表層的な数字を見て口にしているのだと考えています。日本の高等教育が今どうなっていて、女子大学がこれまで何を成し遂げ、これから何をめざそうとしているのか、もっと俯瞰的に見てほしいと思っています。
竹安 “不人気説”は実態がないと感じています。男女がいる社会では、知らないうちに内面化しているジェンダーイメージに従わないといけないという、女性としての生きづらさがあります。このふわっと女性を包み込んで押さえつけているものから自由になれる女子大学は、なくてはならない空間なのです。これは経験者してはじめて実感できます。女性だけの学び舎の教育的な意義をこれからも言語化していこうと考えています。
髙橋 学生たちはキャンパスで、女性が常に中心に置かれる経験をします。一方、社会に出ると何度も周縁に置かれる経験をし、中心に入るために男女の壁を破らないといけない。学生だったころの自分を振り返ると、女性に焦点をあわせた本学での学びが、その後のキャリア展開にいかにポジティブな影響を与えたかを実感しています。
京都女子大学・津田塾大学の特長
髙橋 創立者の津田梅子は女性の経済的な自立が何より大切だと考え、教員資格や広い教養を持つオールラウンドな人材づくりをしました。2代目塾長の星野あいは戦中戦後の逆境のなか、塾の発展に心血を注ぎました。卒業生では「男女雇用機会均等法の母」と呼ばれる赤松良子さん、国立女性教育会館理事長を務められた内海房子さんら、先人の歩みが学生たちに良い刺激を与えています。
女子大学は「女性の、女性による、女性のための」大学であり、さまざまな世代のロールモデルがいます。威厳に満ちた60代のすてきな先生、親の介護をしたり子育てしたりの50代・40代の先生、博士論文を書いている20代の大学院生――。身近なロールモデルたちとの日々の出会いが学生をエンパワーしています。
竹安 ジェンダー平等のビジョンを2020年に掲げました。開学から50年間、文学、家政学という典型的な学部構成でしたが、2000年に現代社会学部をつくり、産業界に出ていく人材を育てる方向に転換しました。アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)の一つとして「ジェンダー・スタディーズ・プログラム」を設け、本学の源流のひとり、大谷籌子(かずこ)の精神を学びます。籌子は男尊女卑だった時代に、仏教の平等思想から「男女平等、機会均等の社会のため女性の高等教育が必要」と述べています。
本学スローガンは「Be the change! 女子大学がわたしを変える。女子大学で社会を変える」。教員の40%以上が女性で職員や管理職の女性比率も高い。意識的に「先駆的な女性をつくろう」と教育をしてきたわけではないですが、それでも先駆的な女性たちが生まれています。
日本社会でのジェンダー課題
竹安 男女雇用機会均等法、女性活躍推進法と制度的には男女平等・機会均等が実現しました。しかし格差は制度だけで埋まりません。ジェンダー・イメージは空気のように社会に染み込んでいて、たとえば日本語には女性語、男性語があって女性語は命令や指示になじみにくい。女性は無意識のうちにまとっているイメージに能力をふくめて縛られているのです。
髙橋 アメリカでは、国務長官を務めたマデレーン・オルブライト、ヒラリー・クリントンら女子大学出身者が多く活躍しています。社会に潜在的に残るジェンダー役割を意識せずにすむ高等教育環境がリーダーシップと主体性を磨き、伸びしろを広げます。
竹安 女性は自分を覆っている“女性らしさ”という衣を脱ぐと伸びやかになり、知的な能力も伸びます。労働人口は2040年に1000万人以上減り、今の学生たちが60歳になるころ高齢化率は40%近くになります。そんな社会を生きてゆく学生たちに今、何が大切かを教える責務がわたしたちにあります。総額が約80兆円とされる男女の賃金格差を埋め、ジェンダー平等を達成する。それが人口減少社会を生き抜くベストアンサーなのです。
未来を切り拓く人材を育てる
髙橋 2028年度からの新学部「国際数理データサイエンス学部(仮称)」設置構想が、国の大学・高専機能強化支援事業に選ばれました。厳しい時代を生き抜くための数理力、国際的な舞台で発言ができる英語力を高めます。奨学金としては、1都3県(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)以外からの学生のための予約・給付型の「<津田スピリット>奨学金」をはじめ、多くの独自制度があります。
竹安 2023年度にデータサイエンス学部を設置しており、27年度に食科学部をつくります。さらに経営学部など30年度までに3学部2大学院研究科を設けます。奨学金制度は26年度の入学者から新たに3つ始まります。すべての入試の成績優秀者が対象の「京女スピリッツ」「京女チャレンジ」、そして京都・大阪・奈良・滋賀を除く全国の学生対象の「京都で学ぶ特待生」です。
髙橋 女子大学では、学生に「女性の力を信じなさい」、“believe in women!”というメッセージを常に送っています。ジェンダーバイアスを取り払うことは個人のためだけでなく、日本や世界を変革することにつながっていきます。道を切り拓いてきた女性リーダーたちに学び、推進力に自分もなっていくんだ、というインスピレーションを得てほしいと思います。
竹安 わたしが高校生の頃、4年制大学に行くという選択は珍しく、大学院に進む際も母に反対されました。その後、就職、結婚して子どもができた頃、母に反対した理由を聞くと「そんなことあったっけ」と。価値観ってかわるんです。道を選ぶときに周りの価値観にとらわれず、未来の自分がどうすれば幸せになれるかで選んでください。高校の先生方には、現状ではなく、生徒たちが何十年か先の社会を彼女たちの手でどうつくるかという視点でご指導いただくことを願っています。