「中小企業による、中小企業のための金融機関」として知られる商工組合中央金庫(商工中金)。民営化を控え、新しい取り組みが注目を集める。4月末から始まった個人向け定期預金キャンペーン「中小企業のチカラ」もその一つ。キャンペーン期間中、1口300万円以上の定期預金を預けると、取引のある老舗すき焼き店、人形町今半(東京)のカタログギフトが贈られる。中小企業を応援し続けてきた商工中金ならではのユニークな企画で、今後、他の取引企業の商品やサービスへの拡大も検討している。
ここでは商工中金とキャンペーンの概要を紹介。キャンペーンに協力する人形町今半の髙岡哲郎社長と商工中金の担当者にも話を聞いた。
中小企業のための金融機関
日本にある企業数の99%以上、雇用の約70%を占めるのが中小企業だ。まさに日本経済の根幹を成す中小企業と、商工中金は1936年の設立以来、真摯に向き合ってきた。
商工中金は全都道府県に支店を構える広域ネットワークを誇り、中小企業組合やその構成員、中小企業関係団体などに株主を制限することなどによってマーケットに左右されない経営体制を築いてきた。経営改善支援やセーフティネット機能の発揮など、中小企業に特化した事業性評価に対する信頼も厚い。
民営化によって、そうした業務範囲はさらに拡大、多様化する。例えば、事業再生分野では、商工中金が行える出資上限が緩和され、より長期間に渡り、踏み込んだ支援が可能となる。また、これまでの知見をいかしてDX支援などにも力を入れていく予定だ。
支援する中小企業の素敵な特典
そうした中で、中小企業を応援することを目的に始めるのが、個人向け定期預金キャンペーン「中小企業のチカラ」だ。キャンペーン期間中(4月30日~6月30日)、インターネットバンキングにて1口300万円以上のスーパー定期または大口定期を預けると、人形町今半のカタログギフト「ミートグルメ」が届く。
商工中金は、人形町今半と1998年に取引を始め、商業施設への出店から、惣菜、ケータリングなどへ事業を拡大するたびに伴走してきた。その商品の魅力と中小企業のたくましさを多くの人に知ってもらいたいと、今回のキャンペーンで協働することに。
商工中金への預金のほとんどは、中堅・中小企業の支援などに活用されている。個人でも預金を通して中小企業を支援できるというわけだ。さらに支援する中小企業の商品やサービスが特典として手元に届く。
これまでは金利の高さで商品の魅力をアピールすることが中心だったが、今回のキャンペーンでは金利に限らない多様な価値を伝えていきたいという。その核にあるのが中小企業を応援する温かい想いということなのだろう。
商工中金と取引を行っている企業は約7万社にもなる。その中には誰にもまねできない精密部品の開発に夢中だったり、海外のファッションショーでも使われる化粧筆を作っていたり、テーマパークの開業に取り組んだりしている企業もある。見かけは小粒でも、いずれもピリリと存在感のある企業ばかり。今後、こうした企業の商品やサービスが手元に届くかもしれない。数字では計れない。しかし、こんなにワクワクさせる定期預金がこれまであっただろうか?
◆ 人形町今半
常に伴走 後押しで事業拡大
髙岡哲郎 氏
人形町今半は1895年、東京で牛鍋屋として創業し、1956年に人形町今半として分離独立。現在、東京に人形町本店を構え、炭火焼ステーキ専門店などを含め、全国に計45店を展開し、従業員数はグループ全体で1300人を超す。
「お客様の『欲しい』という声に応えながら、事業を拡大してきましたが、その傍らではいつも商工中金の担当者が伴走してくれた」と髙岡哲郎社長(64)は話す。
商工中金との取引が始まったのは98年のこと。ちょうど東京・新宿の商業施設に新業態となる炭火焼ステーキ・日本料理「今半万窯 新宿サザンタワー店」を開店した時と重なる。その後、惣菜店を開いたり、東海地方に初出店したり、事業が大きく展開していった。その際も、事業計画をじっくり聞いて後押しをしてくれたのが商工中金だという。
もっとも、すべてが順調だったわけではない。2000年代初頭に発生したBSE(牛海綿状脳症)騒動や、19年から23年にかけての新型コロナウイルスの世界的な感染拡大などによって、経営的な痛手を負っている。「そんな時でも商工中金の担当者は黙って寄り添ってくれた。取引先というよりパートナーに近い存在」と髙岡社長は振り返る。
今回のキャンペーンも中小企業を応援したいという商工中金の熱い想いに胸を打たれたのに加え、「全国的なPRにもなるから」と協力を申し出たという。
「目先の損得ではなく、地域に徹底的に溶け込もうとする商工中金の姿勢が、人形町今半の経営方針とも重なる」と髙岡社長。コロナ禍を脱した今、インバウンドの急増などを背景に、グローバル化を図っていくことも、大きな課題だという。「こうした課題解決も含め、商工中金とさらに踏み込んだビジネスができることを期待しています」
金利以外の価値で「支援の想い」循環を
佐藤雄太 氏
今回のキャンペーンを提案した時、同僚に「何言ってんだ、コイツ」という目で見られたことを佐藤雄太さん(43)は笑いながら思い出す。商品開発の担当者として、これからの商工中金らしい、金利以外の多様な価値を提供することができないかと考えたという。
中小企業を応援したいという想いが預金という形で事業者に届き、それが巡って応援した企業の商品やサービスとなって手元に届く。預金のほとんどを中小企業の支援に活用する商工中金だからこそ、説得力のあるキャンペーンになるのではないかと思った。「お金に色はないと言いますが、『支援の想い』というぬくもりがお金に乗って循環する世界ってステキじゃないですか」
支援する中小企業の商品やサービスが特典として届く定期預金は恐らく日本で初めて。「将来はお届けできる商品やサービスの選択肢を増やし、預金を通してぬくもりの循環の輪を拡げていきたいと思っています」
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