LNGで目指す持続可能な社会
「探検隊」の一行は7月28日、まずテキサス州南東部に位置するヒューストンに到着した。全米有数の大都市で、石油・天然ガス関連企業が多く立地するため「世界のエネルギー首都」とも呼ばれる。経済成長やAI(人工知能)の普及でエネルギー需要が世界的に高まる中、様々な角度からエネルギーの安定確保・安定供給に取り組む三菱商事にとっても、重要な拠点だ。
最初の訪問先であるヒューストン支店は、1959年に米国三菱商事会社の拠点として開設され、今では全米一の駐在員数を誇る。当初は資材や鉄鋼を中心とした事業展開をしていたが、2000年代後半の「シェール革命」を契機に天然ガス事業への取り組みが急拡大した。他にも化学品、電力から、将来的には宇宙ステーションまでも視野に入れ、事業のすそ野が広がる。松本鳳志郎さん(浦和高校2年)は、「社会の需要に応える企業として、成長を求めつつ、地球環境にも責任を持とうとする企業姿勢が学べた」と話した。
続いて、LNGの原料となる天然ガスを調達・輸送している三菱商事子会社のCIMA社を訪れた。同社は、高校生が翌日訪れるキャメロンLNGプラントにも天然ガスを供給している。CEOのトーマス・エドワード氏は、「三菱商事が手掛けるプロジェクトとの相乗効果で取扱量が増え、会社も成長している。カーボンニュートラル社会に向けた移行期の燃料として、天然ガスは今後も重要な役割を担う」と意気込む。平田真理さん(四天王寺高校2年)は、「天然ガスは石炭や石油と比べ、二酸化炭素だけでなく、その他化合物の排出量も少なく、環境への負荷が小さいエネルギーであることにあらためて気づいた」と感想を述べた。
安定供給を支える巨大プラントへ
翌日、高校生はヒューストン市街からバスで約3時間揺られ、ルイジアナ州南西部ハックベリーのキャメロンLNGプラントに向かった。LNGを日本に初輸入した1969年から50年以上にわたって天然ガス・LNG事業に取り組んできた三菱商事にとって、米国本土での初の大規模プロジェクトである。海沿いに続く湿地を抜けると、東京ドーム約43個分の広大な敷地に、巨大なLNG貯蔵タンク、熱交換器を含む複数の液化設備、排ガスの処理塔などからなるプラントが現れる。その迫力に6人は圧倒された。作業服に着替え、専用バスに乗ってプラント内部を見学した。
もともとはLNGの輸入基地として建設されたが、シェール革命を機に輸出基地に転じた。2019年5月に生産を開始して以降、日本をはじめとする顧客にLNGを届けている。一行が訪問する2週間ほど前に1000隻の出荷を記録し、訪問当日は1005隻目の船を見ることができた。年間400万トン超生産するプラントが3系列あるが、今後増設に向けた計画も協議されているという。
渉外担当マネジャーのスティービー・トラファン氏は、「この事業は地域と共にある」と語る。地域との共生を重視し、地元の雇用創出や教育支援などに注力するほか、累計で440万ドルを超える寄付を行ってきた。環境保全のための湿地帯の復元も継続的に実施している。安全対策にも余念はなく、プラント建設時には延べ8900万時間の作業を休業災害なしに遂行している。一本松健さん(甲陽学院高校2年)は、「このプラントに日本企業が関わっていることは、外交や経済安全保障にも重要な意味を持つのではないか」と感じたという。
地域のニーズに合わせた電力事業
ヒューストンでの視察を終えた一行は、マサチューセッツ州ボストンへ移動。脱炭素に欠かせない「再エネ」にテーマを移し、米国で電力事業を担うDiamond Generating Corporationを訪問した。三菱商事は、高まる電力需要に対応するため、米国でガス火力や再エネを含む発電事業を展開しながら、電力トレーディングやサービス事業などに領域を拡大してきた。
講義で学びを深めた後、同じ電力管内に設置した太陽光発電所から電気を供給する「分散型太陽光発電」事業のリーディングカンパニーである三菱商事の事業会社、Nexampの発電施設を視察した。施設は平坦で日照量に恵まれた地域に立地し、年間を通じて大規模かつ安定的な電力供給が可能だ。
Nexampは発電システムの開発から建設、運転保守までを一気通貫で手がけ、様々なマーケティングも活用し多数の顧客を獲得してきた。同社と契約した世帯や企業は、自ら太陽光パネルを設置する初期費用をかけることなく、太陽光で発電した電力による「クレジット」を受け取ることができ、さらにNexampが州政府から受け取る補助金等により電気代も節約できる。視察した高校生に対し、同社の共同創業者のウィル・トンプソン氏は「将来のため、わたしたちの子孫にクリーンな資産を残すこと。それがこの事業を始めた理由であり、やりがいだ」と力を込めた。宇野月唯さん(千葉高校2年)は「太陽光は発電量が安定しないという印象があったが、ここでは蓄電システムも使いながら安定供給に努めているのが印象的だった」と述べた。
太陽光パネルの周囲には野草や花が植えられており、養蜂も行われているという。生態系保全や農業振興など、地域社会と共生する取り組みに熱心な同社の姿勢にも、高校生は環境意識の高さを感じ取った様子だった。
世界に先駆けて電力自由化が進められてきた米国で、電力を市場で取引する詳しい仕組みも学んだ。三菱商事の事業会社であるBoston Energy Trading and Marketing社は、電力のトレーディングや顧客向けサービス事業を展開する。1980年代に設立された同社は、長年蓄積してきた膨大なデータや情報をもとに電力需給や価格の変動を予測し、24時間365日体制で電力の取引を行っている。また市場予測の知見を生かし、発電所や卸売電力事業者による電力販売・調達を支援している。
見学したオペレーションルームには多くのモニターが並び、まさに現在進行形で取引が繰り広げられていた。同社CEOのリーム・ファヘイ氏は「長年の経験とスキルを持つ人材を大切にし、日々変化する市場に挑んでいる」と胸を張る。川井彩愛さん(川越女子高校2年)は、「電力を安定的に届ける背景には、高度な知見と経験、そして冷静かつ柔軟に判断が出来るチームの存在があると知り感銘を受けた」と語る。
視察した現場や会社は、いずれも事業として動き出しているものだが、北米三菱商事ボストン支店では、いまだ社会実装されていない技術の発掘にも目を光らせる。マサチューセッツ工科大などとネットワークを構築し、社会課題の解決に資する先端技術を探索し、本社に向け発信している。郷古悠介さん(海城高校2年)は、「将来のエネルギー供給を根本から変える可能性を秘める技術があると知り、大きな希望を感じた」と述べる。
半世紀以上にわたって日本にLNGを供給するとともに、発電から電力サービスまで幅広く電力事業を展開してきた三菱商事。世界各地でエネルギー関連プロジェクトに関与し、エネルギーの安定供給と脱炭素化という社会的使命との両立を目指してきた。目の前で取り組んでいるビジネスを前に進めつつ、新しいエネルギー技術の発掘にも取り組む。持続可能な未来への挑戦に、これからも期待したい。
高校生は帰国後、取材内容を3か月かけて新聞形式にまとめ、11月6日に三菱商事本社ビル(東京・丸の内)で開かれた報告会で発表した。エネルギー事業の最前線で日本の企業が果たす役割を学んだ高校生6人は、「生活に欠かせないエネルギーの未来について考える貴重な機会になった」「将来、社会に価値を生み出し、海外で誇りをもって働ける人になりたい」とそれぞれの思いを語った。
