「TOKYO強靭化プロジェクト」をご存じでしょうか?「2040年代に目指す強靭化された東京の姿」を明らかにし、その実現に向けて都が実施する防災関連事業の全体像を取りまとめた、2022年から始動している長期プロジェクトです。総事業規模は17兆円、うち当初10年間で7兆円を見込んでいます。これに相当する過去10年間の事業規模が4兆円であることを考えると、首都東京の一層のレジリエンス向上に向けた力の入れようを感じます。「首都防衛」を掲げ、「100年先も安心」を目指すこの巨大プロジェクトとはどのような内容なのでしょうか。まずは、全国をリードする東京都の防災力の「現在地」から見ていきます。
関東大震災から100年あまり 全国をリードする防災都市・東京の現在地
東京は、日本の人口の1割超が暮らし、約1,000万人のビジネスパーソンが行き交う世界有数の大都市です。その礎を築いたのは、1923年、約100年前に発生した関東大震災の被害を乗り越え、都市の復興に取り組んだ先人たちの努力にほかなりません。単なる復旧に留まらず、将来を見据えた復興計画に基づき、街路、橋梁、河川、土地区画整理等の事業が進められ、今日の東京にもつながる社会資本が整備されました。こうした中、東京は、激甚化する風水害や、いつ起きてもおかしくない大規模地震といった自然災害の脅威にさらされています。1時間に50mm以上の豪雨の発生回数は50年前と比べ約1.4倍に増加し、マグニチュード7クラスの首都直下地震は今後30年以内に70%の確率で発生するとされています。このような状況下で、都は各種インフラの計画的な維持更新、対策のレベルアップや前倒しなどにより、全国をリードする取組を展開してきました。首都直下地震等の東京の被害想定は2012年と2022年を比較すると、この10年間で大きく改善しています。建物全壊棟数は約3割減の約8万棟、揺れによる死者数は約4割減の約3,200人へと減少しました。住宅の耐震化率は2010年の81.2%から2019年には92.0%に、2024年には93.4%に上昇し、全国平均を上回る水準で推移しています。
さらに、災害拠点病院や避難所などの重要施設に接続する水道管路の耐震化率は91%、下水道管路の耐震化率は81%に達し、全国トップの整備率を誇るなど、耐震化の取組は着実に強化されています。
風水害対策については、護岸や調節池等の河川整備を計画的・段階的に進めたことで過去の同規模台風と比較すると浸水棟数が激減しています。また、雨水貯留施設など下水道施設の整備を着実に進めたことも、浸水被害軽減に大きな効果を発揮しています。
「TOKYO強靭化プロジェクト」とは
こうした取組を土台にし、風水害や大規模地震など様々な危機に直面する中にあっても、都民の生命と暮らしを守り、首都東京の機能や経済活動を維持するため、2040年代の強靭化された東京の実現を目指し、東京に迫る「風水害」「地震」「火山噴火」「電力・通信などの途絶」「感染症」の5つの危機に複合災害を加え、「TOKYO強靭化プロジェクト」を2022年に取りまとめました。翌年には、気候変動などの影響を踏まえ、ハード・ソフト両面から施策を強化し、プロジェクトをアップグレードしています。プロジェクトの特徴は、過去の対策の延長線ではなく、目指す姿から逆算して、現在からそこに至る道筋を定めるバックキャストの手法を用いて、施策をレベルアップしていることです。
「風水害」対策では、「激甚化する風水害から都民を守る」ことを掲げています。平均気温が2℃上昇した場合、降雨量は1.1倍に増加し、海面水位は2100年には最大約60センチ上昇することが見込まれていることから、洪水の一部を地下空間などに貯留する調節池の整備を加速し、2020年度には256万立方メートルだった貯留量を2035年度までに累計約365万立方メートルとすることを目指しています。この他、防潮堤のかさ上げによる高潮対策等にも取り組んでいます。これらに加え、今年の雨季に備えた短期的な取組として、都内全域を対象に止水板設置に対する区市町村への支援を新たに実施するなど、浸水対策を強化しています。
「地震」対策では、「大地震があっても『倒れない・燃えない・助かる』まち」を掲げています。大規模地震に備えたマンションの耐震化の推進に向けた支援の強化や、地震が発生した場合でも安全・安心に在宅で避難生活を送れるよう、家庭用の家具の転倒防止用器具を支援対象に追加する等、区市町村とも連携しながら様々な取組を展開していくこととしています。
「火山噴火」対策では、「噴火が起きても都市活動を維持する」ことを掲げています。降灰時に水質基準超過のリスクがある浄水場の沈殿池について、2024年度に覆蓋化を完了したほか、優先的に降灰を除去する道路等の選定を進めています。
「電力・通信等の途絶」対策では、「災害時の電力・通信・データ不安を解消する」ことを掲げ、災害時の電源確保にも資する太陽光発電等の再エネ導入を加速するとともに、昨年の台風第22号・第23号の被害を踏まえた島しょ地域等における対策強化として、衛星通信機器の追加配備等、通信施設等の強靭化を推進していくこととしています。
「感染症」にも強いまちづくりでは、新たな感染症の流行に対しても、密を避け、安心して集える空間で、都市活動を継続できるよう、様々な取組を展開しています。
「災害の脅威から都民を守る世界で最も強靭な都市」を目指して
東京都政策企画局計画調整部プロジェクト推進担当課長の古閑聖敏さんは次のように話します。
「都市の強靭化に向けては、インフラ整備等に非常に長い時間とコストを要することから、将来を見据え、中長期にわたり安定的・継続的に取り組んでいかなければなりません。集中豪雨や地震など、自然現象そのものを止めることはできませんが、様々な対策を講じることで被害を最小限に抑えることはできます。かつては被害が生じていた場所で被害が発生しなくなると、その変化には気づきにくくなり、「何も起きない」ことが当たり前になりますが、そうした状態は、これまでの対策の積み重ねの成果だと考えています。このような取組を強力に進めているTOKYO強靭化プロジェクトは、行政の力だけで完結するものではなく、今後、一層の対策強化を推進するためには、都民や事業者の皆様など幅広い方々のご理解、ご協力が不可欠であり、その中で自助・共助・公助の取組が効果的に行われることが重要です。多くの方々に本プロジェクトの意義や目的をご理解いただきながら、取組を着実に進めることで、レジリエントな都市・東京の実現に向け、力を尽くしていきたいと考えています。」
気候変動によってもたらされる自然災害などに対する都市のレジリエンスが世界の共通課題となっている中、東京の取組が国内外の防災事業の新たなヒントにもなりそうです。