2025年6月の配信開始から瞬く間に大ヒットコンテンツとなったネットフリックス映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』。そのサントラも、収録曲4曲が一挙にビルボードのトップ5入りするなど人気を集めている。音楽ライターの辰巳JUNK氏が解説してくれました。
英韓ポップソング、収録4曲が世界トップ5入り
2025年、アメリカのハロウィンで前代未聞の光景が広がった。子どもから大人まで、さまざまな人種の人々がアジア系キャラクターの格好に身を包んでいたのである。この現象は、グーグルが発表したコスチュームランキング※1にも反映されている。スーパーマンといったおなじみのキャラクターをおさえてトップ5を独占してみせたのは、韓国を舞台にした米国制作のネットフリックス映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』に登場するアイドルたちだった。
このアニメーション映画の人気は米国にとどまらない。たとえばセルビア出身のテニスチャンピオン、ノバク・ジョコビッチは、試合に勝利した際に劇中歌「ソーダ・ポップ」の踊りを披露した。この曲は、BTSのジョングクにもカバーされている。これほど世界的な旋風を起こしたアニメーション映画は、2013年の『アナと雪の女王』以来とも言われている。
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』は、人気ガールズグループ、ハントリックスが、悪霊の化身たるボーイズグループのサジャ・ボーイズと戦う物語。ハリウッド作品としても異色の設定だけに、ヒットが見込まれていたわけではなかった。
しかし、6月の配信開始と同時に口コミが爆発。リリースから二カ月足らずでネットフリックス史上もっとも視聴された映画となり、秋には再生数が三億回を超えた。
※1 https://frightgeist.withgoogle.com/costumes
幅広い人気を支えているのは、劇中でアイドルたちが英語と韓国語をまじえて歌うポップソングである。キュートなポップからハードなラップまで揃ったサウンドトラックと看板曲「ゴールデン」は、ビルボードの世界チャートで18週連続一位を達成するほどのメガヒットとなった。さらに「ハウ・イッツ・ダン」などの合計4曲が一挙に世界トップ5入りを達成。同様の記録※2を達成したのはテイラー・スウィフトとドレイクのみで、K-POPはもちろん、グループとしても史上初の快挙である。
同じく大ヒットを記録したアメリカでは「ゴールデン」を主軸にグラミー賞で五部門ものノミネートを受けた。映画の祭典たるアカデミー賞での受賞も期待されている。
※2 https://www.billboard.com/music/chart-beat/huntr-x-golden-global-charts-number-one-fifth-week-1236046527/
「本物のK-POP」を志向、BLACKPINKのプロデューサーも参加
なぜ『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』はこれほどの現象となったのか。鍵の一つは、日本アニメも参考にされたアニメーション自体にある。従来の児童向け作品よりも高速で刺激的な映像表現は、YouTubeやTik Tokに慣れた今の子どもたちを飽きさせない。
強固な世界観の構築も大きい。長年のK-POPファンたるマギー・カン監督を筆頭に、北米育ちの韓国系が揃った制作陣は韓国文化への敬意を徹底。現地調査に加えて審査委員会まで設けたほどだ。その成果は、細かい描写にも表れている。ソファを背もたれにして床に座る習慣、違法駐車が多いソウルの街並みといったリアルな韓国らしさこそ、この映画に奥ゆきを与えている。
なかでも制作陣が心血を注いだのが「本物のK-POP」を志向した音楽。ディズニー映画にも関わったベテラン、イアン・アイゼンドラスの統率のもと、韓国の本場クリエイターと連帯する大規模なグローバル制作体制が構築された。BLACKPINKの名曲を手がけたプロデューサー、テディ・パークの参加のみならず、人気グループ、TWICEのメンバーとのコラボレーションも結実した。
重要な存在となったのが、主人公ルミの歌唱を務めたシンガーソングライターのイジェである。韓国語の歌詞を一手に担った彼女は、まさに文化の架け橋といえる経歴を持つ。
1991年、韓国・ソウルで生まれ、アメリカ・ニュージャージーで育ち、11歳で歌手を志して渡韓。K-POPアイドルの名門SMエンタテインメントの練習生として10年ほど厳しいトレーニングを受けたが芽が出ず、米国に戻ってニューヨーク大学で音楽を学び、作詞作曲をはじめた。以降、プロのソングライターとして、RED VELVETやaespaといった有名グループに楽曲を提供してきた。
そして『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』の楽曲制作チームに入ると、デモ音源用の歌唱を認められ、主人公の歌唱キャストに任命された。
輝くこと願う、リード曲「ゴールデン」は世界的アンセムに
大ヒットした「ゴールデン」も、イジェ自身が作曲してリードボーカルを担当した。ミュージカルにおける「アイウォント・ソング」にあたるこの曲は、ディズニー映画『リトル・マーメイド』の「パート・オブ・ユア・ワールド」のように、主人公の願いを示すナンバーだ。
パワフルに高揚していく「ゴールデン」は、影のある内容でもある。主人公のルミは、グループを率いる完璧主義のデーモンハンター。しかし、自身が人間と悪霊のあいだに生まれた秘密をメンバーにも明かせず、不安に押しつぶされそうになっている。曲中、本当の自分として生きて「黄金」に輝く、と歌われるが、これは自信に満ちた宣言というより、ルミ自身の必死な願いなのだ。
泣きながらレコーディングしたというイジェが込めたのは、練習生時代の経験だ。完璧を目指すあまり「アイドルらしくない」と言われたハスキーボイスを隠そうとして喉を痛め、プレッシャーに追い込まれていった苦しみを反映させた。サビで披露される張り詰めた高音は、不安を隠しながら苦境を抜け出そうとする絶望と希望の象徴なのだ。
こうした不完全な人間らしさこそ「ゴールデン」を世界的なアンセムたらしめたのかもしれない。自信を失って個性を隠してしまう経験は、子どもから大人まで共通するものだ。だからこそ、曲を聴くうちに自分自身を重ね、歌い手とともに「本当の自分として生きたい」と願うようになる。
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』は悪霊と戦う女性ヒーローの物語であると同時に、ちがいをこえて団結をもたらす音楽の力をテーマにしている。そのパワーは、現実でも世界を照らしていっている。
いま、イジェが目指すのは、ソロ歌手としての成功ではない。ハントリックスとして2026年に待ち受けるグラミー賞を勝ちとり、音楽業界で自信を失いがちなアジア系女性たちに勇気を届けることだ。その黄金の輝きは、きっと日本にも届くことだろう。
辰巳JUNK
ライター。音楽や映画など、アメリカのポップカルチャーを中心に「文春オンライン」や「ELLE JAPAN」に寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ オリジナル・サウンドトラック 』
3,300円(税込) 品番:UICU-9121
https://umj.lnk.to/KpopDH
映画のキャラクター〈ルミ、ミラ、ゾーイ〉の歌声を担当するEJAE、Audrey Nuna、REI AMIによるユニットHUNTR/Xが歌う『Golden』、Saja Boys『Soda Pop』を含む全12曲収録。