風邪やインフルエンザが流行しやすい季節、のど飴やお茶、うがいで「のどケア」をしている人も多いでしょう。しかしその対策、果たして本当に効果的なのでしょうか?
感染症対策の最前線では、研究が進むにつれ、“のどの乾燥”が免疫低下や感染リスクに直結することが明らかになっています。
そこで今回、体調を崩せない人こそ知っておきたい「のどケアの新常識」について、感染症対策に詳しい耳鼻科医・内尾紀彦先生に聞きました。
そらいろ耳鼻咽喉科センター北駅前院 院長
内尾 紀彦先生
うちお・のりひこ 東京慈恵会医科大学卒。東京慈恵会医科大学附属病院の助教等を経て、2021年より現職。鼻やのどの不調に関する診療・啓発に力を入れており、テレビや新聞・雑誌の医療監修なども多数手がけている。
感染症対策のカギは「のど」!その理由は?
── 感染症対策として「のどを守ること」が重要だと聞きます。その理由を教えてください。
ウイルスや細菌は主に口や鼻から体内に侵入しますが、のどの奥は「線毛(せんもう)」と呼ばれる細かな突起がびっしりと生えており、異物をからめ取って体外へ排出する“防御の最前線”ともいえる場所です。
しかしこの線毛は乾燥にとても弱く、のどが潤っていないと動きが鈍くなり、ウイルスの侵入を許しやすくなってしまいます。
また、のどにウイルスや細菌が長時間とどまること自体が、感染のリスクを高める要因になります。のどが潤っていれば異物は、咳や痰(たん)とともに体外へ排出されたり、唾液と一緒に飲み込まれて胃酸で分解されたりするため、感染にはつながりにくくなると考えられています。
こうしたことから、日常的にのどを潤し、正常な状態に整えることが、感染症対策として非常に重要になってくるのです。
のどのコンディションと免疫機能の関係
── 秋冬は空気の乾燥に加えて、免疫機能も下がりやすいといわれます。「のど」と「免疫機能の維持」は関係しているのでしょうか?
はい。のどの粘膜には、体内に侵入しようとする病原体を排除する「粘膜免疫」が備わっています。そこでは唾液に含まれる免疫物質(IgA抗体)などが、ウイルスや細菌を無力化する役割を担っています。冬は気温の低下によって体温も下がり、この粘膜免疫の機能も低下しやすくなって感染症に罹りやすくなります。
年末年始や受験シーズンで忙しい方も多いと思いますが、睡眠不足やストレスも免疫機能を下げる要因となります。全身の健康を守るうえでも「のどのケア」は大切です。
── 感染症対策といえば手洗いやマスク、うがいを思い浮かべる人が多く、「のどのケア」はあまり意識されていないように思います。
その通りですね。これまで世間では「手洗い・マスク・うがい」が感染症対策の基本とされてきましたが、「のどのケア」はどちらかといえば症状が出た後の対処という印象が強く、予防手段としての意識はまだ十分に浸透していません。
また近年ではうがいについて、一時的な潤いを与えるものの、粘膜を継続的に保湿するには不十分であると指摘されています。
感染症対策で注目される成分とは?
── 近年、感染症対策で注目されている成分があると聞きました。
ラクトフェリンという成分のことですね。母乳や唾液、涙、鼻水など、体内のさまざまな分泌液に元々存在しているたんぱく質です。近年では、のどの保湿や、免疫機能のサポートなどにも働くことが分かってきていて注目されています。
── どのようにのどを保湿してくれるのでしょう?
のどには「ムチン」という粘液成分があるのですが、ラクトフェリンはこのムチンと結合することで保湿力を高めてくれます。
── 免疫機能のサポートもしてくれるということですか?
体全体の免疫機能を高める働きがあります。体内に吸収されたラクトフェリンは「プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)」という免疫細胞を活性化させることが分かっています。
── のどにも全身にも働くのですね。
そうです。ラクトフェリンは、のどの保湿によるバリア機能の強化と、免疫細胞の活性化による全身の免疫機能のサポートという2つの側面から感染症対策に役立つと考えられており、
ヨーグルトなどの乳製品やサプリメントからとることができます。
「のど飴」「お茶」は…セルフケアの意外な落とし穴
── のどを潤すために、のど飴やお茶をとる人も多いと思います。
のど飴やお茶を選ぶときは、少し気をつけてほしいことがあります。まず、のど飴には糖分が多く含まれているものが少なくありません。糖分は水分を引き寄せる性質があるため、かえってのどの粘膜から水分を奪ってしまうこともあるんです。保湿のつもりで舐めているのに、逆効果になっているかもしれません。特に甘いタイプののど飴は注意が必要です。
また、お茶も一見のどにやさしいように感じますが、カフェインの作用で利尿が促され、体の水分が失われやすくなります。実際、ウーロン茶などを飲むとのどが余計に乾くと感じたことのある方も多いと思います。
── のどの保湿という目的であれば、何を選ぶのがよいのでしょうか?
一番よいのは、やはり「水」です。常温の水を、こまめに少しずつとることを意識してみてください。冷たすぎると体温を下げてしまいますし、熱すぎると粘膜を傷つけてしまうおそれもあります。のどを潤すという点では、常温の水がもっとも適しているとされます。
── そのほかに、日常生活で気をつけたいポイントは?
のどの潤いを保つためには、室内の湿度管理も大切です。加湿器を使って湿度を50〜60%に保つことが、ウイルスの活性を抑えるうえでも有効とされています。また、マスクも飛沫を防ぐだけでなく、のどの保湿にも役立ちます。
加えて、睡眠・栄養・ストレス管理・入浴など、全身の免疫機能を維持する生活習慣も重要です。とくに乾燥しがちな冬は、「のどの保湿」と「免疫機能の維持」の両輪で、体調を崩しにくい状態を保つことが大切です。
寒い季節も適切なのどケアと体調管理に取り組んで、健やかに過ごしてくださいね。