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ケアの未来を拓く挑戦者が集結 「ケアテック・イノベーション・コンテスト2025」最終審査・表彰式を開催

「プロトタイプ部門」の受賞者ら

介護、障害、子育て、学習、メンタルヘルスーー。こうした様々な「ケア」領域に山積する課題を、テクノロジーを活用して解決する方法を探る「ケアテック・イノベーション・コンテスト2025」の最終審査と表彰式が、3月22日に京王プラザホテル(東京都新宿区)で行われました(主催:一般財団法人篠原欣子記念財団<以下、しのはら財団>、後援:厚生労働省)。

コンテストには、実用化を目指す「プロトタイプ部門」と自由な発想を対象にした「アイディア部門」という二つの部門があり、小学生から大学生、研究者やケア現場の実務者といった幅広い層から、プロトタイプ部門には165件、アイディア部門には102件の応募がありました。この日、プロトタイプ部門では、一次審査と二次審査を通過した16人が審査員を前に最終プレゼンテーション行いました。アイディア部門では事前審査で選ばれた受賞者8人が登壇しました。

コンテストを主催するしのはら財団は、「人々の可能性や幸せ=Well-beingの最大化」という理念のもと、様々な社会課題の解決に取り組んでいます。プレゼンテーションに先立って登壇した財団代表理事の篠原よしみ氏は、このコンテストについて「単なるアイディアの競い合いではなく、ケアテックで世界を救う第一歩」だとした上で、プレゼンターに向けて「みなさんの挑戦が、誰かの人生や社会の形を変える瞬間を見届けられることを心から楽しみにしています」と語りかけました。

認知症当事者に寄り添う卓上型AIロボット

プロトタイプ部門「分類1」を受賞した宮下拓磨さんと、宮下さんが開発した「ともり」

「ケア」の常識を塗り替えるーー。そんな信念を持ったプレゼンターが次々に登壇し、限られた時間の中で、それぞれの研究・開発の成果を熱く発表しました。最終審査の結果、プロトタイプ部門では10件が受賞しました。ここからは、両部門の受賞者の取り組みをいくつか紹介します。

助成金額が最も高額な2000万円の「分類1」は、2件が受賞しました。1件は宮下拓磨さん(北海道大学大学院修士課程2年、ReMENTIA株式会社)の、認知症当事者に寄り添う卓上型AIロボット「ともり」です。

宮下さん自身が、1年間ヘルパーとして認知症ケアに従事する中で、認知症世帯の過酷な現実を目のあたりにした経験が開発の原点です。「ともり」は機械学習とAIを活用して、当事者に対して「薬は飲みましたか?」「探し物は〇〇にあります」「〇〇から伝言が届いています」といった適切な声かけのほか、一人ひとりに合った雑談ができます。

最も取り組まなければならない課題が認知症に伴う行動・心理症状「BPSD」への対応だと、宮下さんは訴えます。 BPSDとは、認知症に伴ってみられる不安、興奮、徘徊などの行動・心理症状を指します。 将来的に「ともり」は、当事者との対話を通じてBPSDを予測し、緩和介入することを目指しています。「認知症が『問題』から『個性』に昇華される世界を作りたい」という宮下さんの言葉が印象的でした。

「AI×言語聴覚士」で失語症リハビリを変革

プロトタイプ部門「分類1」を受賞した石渡達也さん

もう1件は、石渡達也さん(スピーチリンク株式会社)の、失語症トレーニングサービス「Speech Link」です。

石渡さん自身が脳卒中で失語症になり、孤独なリハビリを毎日続けた経験が開発のきっかけでした。失語症は言葉を話す・聞く・読む・書くことが困難になる障害で、回復する可能性が高いものの、失語症を支援する言語聴覚士の人材不足と、その言語聴覚士が業務として失語症支援に時間を割きにくいという構造的な問題があるといいます。

Speech Linkは「AI×言語聴覚士」というハイブリッドのアプリで、24時間いつでも音声AIを相手に会話トレーニングができるとともに、月に1、2度、言語聴覚士による個別指導をオンラインで受けることができます。約50万人といわれる失語症患者と医療機関向けライセンスという二軸のビジネスモデルを構想し、将来的には発達障害やコミュニケーション障害の方に届けることも視野に入れています。「私たちはアプリを作りたいのではなく、失語症リハビリに医学的エビデンスを持ち込みたい」。自身、失語症を患う石渡さんのメッセージは、穏やかな口調ながら力強く響きました。

中学生の受賞も、VRを活用してゲーム感覚でリハビリ

試作品を前にプレゼンテーションする疋田隆史さん

ほかにも多くの興味深い受賞作品がありました。疋田隆史さんは、「後方重心」を防止できる椅子や歩行器を発表しました。後方重心とは椅子の背に深くもたれかかることで、高齢者の歩行困難につながりやすいといいます。疋田さんは作業療法士として高齢者施設で体操指導する中で、後方重心で椅子に座っている人の多くが歩けなくなっていく実情に触れて開発を思いたったそうです。舞台上に試作品を持ち込んでのプレゼンテーションには説得力がありました。

中学生の坂元有星さんも受賞

太田昌景さん(株式会社ドリギー)は、食事を撮影するだけで詳細な栄養管理ができるサービス「めしパシャ」を開発。人材不足がさけばれる高齢者施設職員の負担を軽くするものになる可能性をひめています。山田拓海さん(慶應義塾大学 )は、PCと3Dプリンターで手軽に点字を生成できるシステムを発表。点字の知識や高価な機材がなくても点字を簡単に作れる、画期的なイノベーションといえます。小学生から応募できるのが本コンテストの特徴ですが、中学生の坂元有星さんは、VRゴーグルを使ってゲーム感覚で楽しくリハビリできるシステムをプレゼンテーション。大人顔負けの内容でした。

アイディア部門でも、当事者性や生活実感に根ざした提案が目立ち、若い世代ならではの発想も会場の注目を集めました。 倉光悠晴さん(神奈川工科大学)は、漢字を読むことが困難なディスレクシアの人のために、ARグラス(眼鏡)で見ている場所を検出して、自動で漢字にフリガナを表示してくれるインターフェースを考案。倉光さん自身がディスレクシアであることが発想の原点でした。 清水千春さん(日本リハビリテーション専門学校)が考えた、子育て中の母親のためのカウンセラーアプリも、自身の子育て体験がベースになっていました。一方、小学6年生の藤本陽菜さんのアイディアのもとになったのは、大好きな深海生物の知識。暗闇に生息する深海生物、オオグソクムシの特徴を備えた、災害時に活躍するロボットという独創的な発表でした。

多様な視点から「ケアの未来」が提案された本コンテスト。ここで芽吹いたイノベーションが世界にどのようなインパクトを与えるのか。受賞したプロジェクトは今後、助成やフォローアップを受けながら開発・実証を進めていく予定で、ここからどのような社会実装につながるのか注目されます。

受賞者の声

プロトタイプ部門「分類1」受賞/宮下拓磨さん

新しいものに抵抗感がある認知症の方に受け入れてもらうのが大変でした。そのために細かい調整を続けました。この受賞が認知症の世界を変える、最初の起爆剤になればいいなと思います。将来的には介護にとどまらない、新しいケアの形を作りたいですね。

プロトタイプ部門「分類1」受賞/石渡達也さん

チームのみんなに心から「ありがとう」と伝えたい。ここに至るまでに紆余曲折がありましたが、クラウドファンディングで268人もの方が支援してくれたことが背中を押してくれました。多くの方を巻き込みながら、医療分野での展開を目指したいと思います。

◆コンテストを終えて

小学生から大人まで、熱量の高いプレゼンテーションが相次ぎました。「今のままではいけない」「誰かのために変えたい」——。ケアする人、ケアされる人のことを真剣に考え、自分の言葉で訴える姿に、会場全体が何度もうなずいていたのが印象的でした。

審査は非常に難しく、まさに紙一重の判断でした。審査員の講評に「誰が受賞してもおかしくなかった。受賞しなかった方が今後大きく伸びていくこともある。皆さんは同じ仲間です」という言葉がありましたが、今回のコンテストの本質をよく表していると感じています。

本コンテストは、ここで終わりではなく、ここから始まりです。今回出会った多くの方々とのつながりを大切にしながら、その輪をさらに広げていきたいと考えています。そして、そのつながりを起点に、ケアに関わる多様なプレイヤーが連携し合える土壌づくりを進めていきます。

しのはら財団 ケアテック・イノベーション・コンテスト
プロジェクトマネージャー/田村 孝子氏