PHSSRサミット2025 開催レポート
公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
アストラゼネカ株式会社
日本医療政策機構、フィリップス、IQVIA、ロシュ・ダイアグノスティックス
駐日英国大使館、英国総領事館、スウェーデン大使館、オランダ大使館、厚生労働省
「PHSSRサミット2025~より強靭な保健医療システムの共創」が6月30日、
大阪・関西万博のテーマウィークスタジオで開かれ、国内外の医療関係者や研究者らが意見を交わした。
がんや糖尿病、循環器疾患、呼吸器疾患などの「非感染性疾患(NCDs)」は、
日本人の健康を脅かす要因の9割近くを占めるとされる。
今回のサミットでは、「NCDs」の予防・早期介入と、医療DXの推進という二つの課題について、
海外事例から学びつつ、日本が抱える課題を掘り下げ、解決への道筋を探った。
医療政策・管理学教室 教授
大阪・関西万博
テーマ事業プロデューサー
取締役会長 社外取締役
開会の辞
開会にあたり、アストラゼネカのミシェル・デマレ取締役会長は、「世界の保健医療システムが抱える高齢化や慢性疾患の増加といった問題に連携して取り組み、持続可能な未来につなげたい」とあいさつ。大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーで慶応義塾大学の宮田裕章教授は、「政策を社会に根付かせるため、異なる立場の者同士が響き合い、共感して共に在る“Co-Being”の姿勢がまさに今強く求められている。本日の対話が多様な知と行動をつなぐ一歩となることを願う」と期待を寄せた。
NCDsへの早期対応
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野村 周平慶応義塾大学
グローバルリサーチ
インスティテュート
特任教授 -
鈴木 康裕国際医療福祉大学 学長
元厚生労働省 医務技監 -
林 玲子国立社会保障・
人口問題研究所 所長 -
古元 重和北海道大学大学院
医学研究院
社会医学分野
医療政策評価学教室 教授
元厚生労働省
がん・疾病対策課長
患者の生活の質を改善できているか
「結果」で評価する医療に
冒頭、慶応義塾大学の野村周平特任教授が「日本におけるNCDsの予防・早期介入に向けた政策提言」の要点を発表した。「日本人の健康を脅かす要因の9割近くを生活習慣病などNCDsが占めている。治療するだけでなく、病気にならない、重症化しないために社会全体で取り組む必要がある」と早期対応の意義を強調。「現状の医療は、検査や治療の内容、病床稼働率といった医療資源の投入量で評価されがちだが、患者さんの生活の質を改善できているかどうかの『結果』で評価する仕組みに変えていくことが大事だ」と話した。
パネル討論では、国際医療福祉大学の鈴木康裕学長が、「人材や財源の分配において急性期医療を重視する傾向が強いことが、予防対策にリソース(資源)が割かれない一因となっている」という認識を示し、「医師や看護師を養成する際に、予防がいかに重要で医療費の抑制にもつながっているかを理解してもらえる教育を重視すべきだ。また、健康保険でも介護保険のような予防給付を認めていく必要があるのではないか」と提言した。
国立社会保障・人口問題研究所の林玲子所長は、人口減少と医師の都市部偏在を課題に挙げ、「過疎地の医療をどう担保していくか、必要とされるところに必要な医療を届けられる新たな仕組み作りが必要だ」と指摘した。
北海道大学大学院の古元重和教授は、「健診・検診の重要性を理解しながらも、実際は受診していない市民に対し、当事者意識をどう持ってもらうか。行動変容を促す取り組みや環境整備が必要だ」と問題提起。野村特任教授は「例えば疾患を抱えることによる健康損失がどれだけ大きいか、具体的な数字をデータで示すことで課題を可視化できる」と応じ、「人材や財源などリソースが限られている中で的確な政策を立てるためにも、データは非常に重要になる。日本には特定健診やがん検診、人間ドックといった素晴らしいシステムがすでにある。そこで得られた情報・データを有効に使い、予防・早期介入に生かす努力を重ねていかねばならない」と強調した。
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津金 昌一郎国際医療福祉大学 大学院
医学研究科
公衆衛生学専攻 教授
元国立がん研究センター
社会と健康研究センター長 -
佐々木 淳医療法人社団悠翔会
理事長・診察部長
規制改革推進会議 専門委員 -
福永 興壱慶応義塾大学
医学部呼吸器内科 教授 -
轟 浩美一般社団法人
全国がん患者団体連合会理事
認定NPO法人
希望の会理事長 -
乗竹 亮治日本医療政策機構
代表理事・事務局長
健康課題や食文化は欧米と日本で異なる
日本独自の対策が必要
後半は、海外のNCDs対策の先進事例が紹介され、そこから学ぶべき点や日本での応用の可能性が議論された。
国際医療福祉大学大学院の津金昌一郎教授は、「科学的根拠(エビデンス)に基づき医療政策を展開する姿勢は欧米に学ぶべき。ただ、欧米と日本では健康課題や食文化などが違う。日本人のデータやエビデンスに基づいて戦略を考えていく必要がある」と述べた。
在宅医療クリニックを運営する悠翔会の佐々木淳理事長は、「日本の地域医療では患者さんが病気別や好みで通院先を変えることがよくあるが、電子カルテ化が進んでいないことでケアの継続性が担保されず、医療の質の評価も難しい」と課題を述べた。その一方で、「一人での通院が困難な高齢者が多いことから進展してきた在宅医療は、施設に依存しない医療の形として、ある意味先進的だ。離島や過疎地域など新たな医療投資が難しい場所をどう支えるのかを含め、日本がイニシアチブ(主導権)をとれるのではないか」と期待感を示した。
慶応義塾大学の福永興壱教授は、「海外ではCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんに対し、教育プログラムを含め、多くのステークホルダー(関係者)が関わって治療に当たっており、この点は見習いたい。ただ日本では、COPDの認知度自体がまだ十分ではなく、まずは市民公開講座や今日のような会を通じて、病気についての知識を広めることが必要だ」と力を込めた。
全国がん患者団体連合会の轟浩美理事は、「当事者抜きで医療政策・制度を決めないでほしいという思いがある。最初から患者・市民の声を取り入れていくことが制度化されている海外の事例は、ぜひ学んでほしい」と強調した。反面、日本人は医療に対して受け身になりがちなところがあるとも述べ、「自分で考え、自らの意見をしっかり言い、選択できる。そんなふうに主体的に自分の人生を考えられるような教育をしていくことも大事なのではないか」との考えを示した。
日本医療政策機構の乗竹亮治代表理事は、「持続可能な医療政策を進める上で、データやエビデンスを基にすることは非常に大事だが、数字の裏にある一人ひとりに目を向け、健康を自分ごととして取り戻すことの大切さを改めて認識できた」と結んだ。
医療DXをどのように加速させるか
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津川 友介カリフォルニア大学
ロサンゼルス校(UCLA)
医学部(内科)・
公衆衛生大学院(医療政策学)
准教授/医師 -
堀井 貴史アストラゼネカ株式会社
代表取締役社長 -
内山 博之厚生労働省 大臣官房
医薬産業振興・医療情報
審議官 -
中室 牧子慶応義塾大学
総合政策学部 教授 -
福原 斉一般社団法人
心臓弁膜症ネットワーク
代表理事 -
市川 衛医療の翻訳家
武蔵大学社会学部
メディア社会学科 准教授
一般社団法人 メディカル
ジャーナリズム勉強会
代表理事
医療DXで
健康管理も業務効率も向上を期待
実効性の高いNCDs対策のために、医療DXをどのように進めていくべきか。国内外の先進事例と現場の視点を交えた議論が展開された。
海外からは、医療関係者だけでなく、患者も自由にアクセスできる共通の医療情報プラットフォームの構築やテレモニタリングの活用によって、患者の健康管理や医療関係者の業務効率が大きく向上している事例が紹介された。日本からは医療関連企業2社が、AIを活用することで患者のニーズに沿い、医療の現実にも合った診断・治療支援の開発に取り組んでいることを説明した。
医療データは公共財
適切な管理で利活用を
続く後半では、産官学民それぞれの立場から、日本における医療DXの現状と課題が話し合われた。
米UCLA医学部・公衆衛生大学院の津川友介准教授は、電子カルテの普及率が米国約90%、日本約55%という差に触れ、「普及にはフォーマットの共通化が必要なため、米国は多額の予算をかけて進めた」ことを紹介。ただ、「2022年以降のAIの急速な進歩により、今は、電子カルテのフォーマットを共通化する必要はないかもしれない。テクノロジーで解決できる状況が生まれてくる。制度設計のルールに柔軟性を持たせておけば、新しいプレーヤーも市場に入ってくるし、医療データの利活用も進んでくる」との見解を示した。
データの利活用については、アストラゼネカ日本法人の堀井貴史社長も言及。「最近、連携協定を結んだ自治体とは、COPDのリスクが高い人を特定するために自治体が地元医師会やアカデミア(大学や研究機関)のデータを活用できるようにしつつ、本人に行動変容を促すことはかかりつけ医や保健師にお願いするという、デジタルとヒューマンタッチを組み合わせたアプローチを検討している。実施に際してさまざまな規制が壁となって現れてくるかもしれないが、ぜひ国にも支援をお願いしたい」と要望した。
これに対して、厚生労働省の内山博之審議官は、「医療データの利活用は、政府全体で取り組む課題だと認識しており、来年にかけて内閣府でグランドデザインを作ることになっている」と理解を求めた。また電子カルテの統合についても、「AIを使って一本化できないか、大規模言語モデルの研究に昨年から着手している」と明かした。
米国では「データは公共財」の認識が浸透しているのに対し、日本では、個人情報を提供することへの忌避感が根強く残っていることも課題として挙げられた。慶応義塾大学の中室牧子教授は、「医療DXの進んでいる北欧の国々では、『何も隠さない』という理念が徹底されている。私たちのデータが何に、誰によって、どんな目的で使われているのかが、きちんと追跡可能になっていることが、国民の信頼を得るために必要なステップではないか」と指摘。心臓弁膜症ネットワークの福原斉代表理事は、「医療データは公共財だという理解を、広く市民の間で共有できればいいと考えている。日本人は安心や安全について深く求めすぎている。何かあったら是正して、また次のシステムを作るとか考え直すとか、そういうトライアンドエラーが認められる社会になってほしい」と語った。
モデレーターを務めた武蔵大学准教授でメディカルジャーナリズム勉強会の市川衛代表理事は、「国がグランドデザインを作っていこうとしている中、様々な立場の人が定期的に集まり、今どの状態にいて、これから何が必要になるのか、を話し合い続けることが大事だと感じた。社会をより良くしていくために、これからも考え続けていきましょう」と呼びかけ、閉幕した。