救急・脳卒中治療に強い病院
脳卒中患者数は約174万人(厚生労働省「患者調査」2020年)と推計されており、特に高齢者層で発症が著しい。脳卒中とは何か、治療法・治療薬の進展、また予防法について、国立循環器病研究センター副院長、脳血管部門長の豊田一則医師に聞いた。
■ 取材協力
第50回日本脳卒中学会
学術集会会長(2025年)
豊田 一則 医師
脳卒中とは平易に言うと、脳の血管が詰まったり破れたりして、栄養を送るはずだった脳の部分が壊死してしまう病気です。脳は人間の働きを中枢で統括しているため、脳が壊死すると、急激に身体の動きが悪くなります。
脳卒中は脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に分けられます。
脳の血管が詰まって先に血液が行かなくなる疾患が脳梗塞です。血管が破れて血液が漏れ出て脳を圧迫し、脳の機能を障害するのが脳出血です。また脳の血管に脳動脈瘤というコブができ、それが破れてくも膜下腔に出血が起きるのがくも膜下出血です。
日本は人口減少に転じましたが、脳卒中の有病者数はこの10年で横ばいか少しずつ増えていると推測されます。高齢者に発症しやすく、高齢層の有病者数は増していると考えられます。
脳卒中の急性期の治療は時間勝負です。現在は全国972か所※の「一次脳卒中センター」で詰まった血栓を点滴で速やかに溶かすt-PA静注療法が実施されています。また、約300の「一次脳卒中センターコア施設」でカテーテルによる血栓回収療法が実施されています。
薬剤の開発も進んでいます。脳梗塞の新薬「テネクテプラーゼ」は現行の「アルテプラーゼ」よりも効果的で副作用が少ないと報告されており、またワンショットで投与するため、続けて血栓回収療法を行いやすいという利点があります。日本では現在、2025年度中の承認を目指して、当院を中心に全国の急性期病院の医師主導による臨床試験が行われています。
脳出血の治療では内視鏡手術によって頭部を小さく開けて血腫を除去する、身体への負担が少ない手術に期待が持たれます。また、止血治療として活性化血液凝固第Ⅶ因子製剤を使う医師主導による国際臨床試験が、国内では当院を中心に全国で行われています。
くも膜下出血は、出血の原因である脳動脈瘤を閉塞させるコイル塞栓術などの脳血管内治療が進歩しています。また、くも膜下出血は発症後、血管の減縮により脳梗塞を起こすことがあり、それを抑制するクラゾセンタンという薬が実用化されています。
再生医療の研究も医師、研究者、企業により行われています。一度死んだ神経細胞を蘇らせることができるようになれば治療も画期的に変化すると期待が寄せられています。


このように治療法や治療薬は年々、進歩していますが、読者の皆さんにとっては、やはり脳卒中にならないための予防が不可欠だと言えます。
まず、脳卒中の危険因子を取り除くことが重要です。高血圧、糖尿病、脂質異常症を指摘されている方は食事や減塩に気をつけ、適度な運動を習慣にしましょう。
なかなか生活改善が難しい場合は、最近はいい薬がありますから、医師の指導の下で服用することをおすすめします。処方された治療薬はきちんと飲み、自己判断で止めないことが大事です。
日本脳卒中協会では、脳卒中予防の知識を普及するため、「予防10か条」を作成しています。
これは10の短いフレーズで予防を喚起してあり、とても分かりやすいので、このページに掲載しておきました(下欄参照)。
これを参考に、暮らしの中で脳卒中を起こす危険性を下げていただきたいと思います。

脳卒中治療の進歩はめざましい。シミズ病院(京都市)の坂井信幸院長は日本の脳血管内治療に黎明期から携わり、現在も海外の学会に頻繁に参加し、新しい治療技術に精通する。同氏に日本と世界の脳卒中治療の最前線、また今後の課題などを聞いた。
■ 取材協力
2020年、㈳日本脳卒中学会は全国974の医療機関を「1次脳卒中センター(PSC)」に認定し、公表しました。これらはt‐PAという血栓を溶かす薬剤を使い、脳梗塞を治療することができる地域の中核施設です。2024年現在、全国で972か所※が認定され、どこに住んでいても近くに「1次脳卒中センター」があり、同じ水準の治療を受けることができるようになっています。また常に血栓回収療法を行うことができる「一次脳卒中センターコア施設」も310カ所※認定されています。
ただ、都市部と郡部では人口構成が異なり、医療従事者の働き方改革など社会的な変化もあるため、今後は都市部では医療機関の集約化を図り、郡部では病院間で連携するなどの体制構築が必要だと考えます。24時間365日患者を受け入れる態勢を維持するための工夫が必要でしょう。
脳出血、くも膜下出血については、国民への血圧コントロールや禁煙の呼びかけによって患者数は減ってきたと考えられてきましたが、社会の高齢化が進み、脳梗塞は減ったとは言えない状態にあります。
脳出血の治療はこれまでは救命目的の手術とリハビリテーションが主流でしたが、欧米では体に負担の少ない穿頭による血腫除去の治癒効果の検証が進んでいます。くも膜下出血に対してはコイル塞栓術の有用性が確認され、日本でも開頭手術より多く行われるようになりました。
血管内治療は日本においてある程度、確立されていますが、まだ明らかにしないといけないテーマがいくつかあり、常に世界の新しい医療情報を得て、治療法を進化させていく必要があると思っています。
脳神経外科領域のデバイス(医療機器・器具)は、さらに進歩しています。ステント型の血栓回収機器は第2世代になり、吸引カテーテルはサイズのバリエーションが増え、細い口径から大型口径までが揃い、患者さんの状態により選択でき、あらゆる血栓に対応できるようになりつつあります。
最近、超大口径のスーパーラージボアと呼ばれるカテーテルが開発されていますが、世界の研究者・医師間でその有効性、安全性が検証されている途中で、最終結論に至っておらず、日本にはまだ導入されていません。
私自身、年に数回、欧米で開かれる学会に参加して新しい医療情報に触れていますが、今後も世界の学会の動向を常に見守る必要があると思っています。
回復期のリハビリテーションの進歩も目を見張るものがあります。一人ひとりの症状や生活環境に応じた綿密な療法に加え、歩行アシストロボットなどの介護ロボットが開発され、現場で活用されています。
回復期リハビリテーションには設備と人的資源の充実が必要です。進歩した技術を誰もが利用して享受するためには、医療従事者だけでなく、行政を含めた体制づくりが今後の課題ではないでしょうか。
脳卒中の医療がこれだけ進んでいる現在、皆さんのすることは症状が出たらすぐに救急車を呼ぶことだけです。
これまで脳卒中の初期症状はFASTという言葉で提示されていました。顔のゆがみ(FACE)腕に麻痺がある(ARM)、言葉の障害(SPEECH)があれば時間(TIME)をあけずにすぐ119番通報してください。最近では、Bつまりバランスが取れない(BALANCE)、物が二重に見える(EYE)を加え「BEFAST」が提唱されています。かかりつけ医や家族ではなく救急車を呼ぶことです。もし、検査の結果、脳卒中ではなく空振りに終わったとしても、あなたを責める人は誰もいません。
※出典:日本脳卒中学会 認定期間:2024/4/1~2025/3/31の件数