1992年の設立以来、国のがん医療および研究の基幹病院としての役割を担う東病院。
新しい医療をより多くの患者に届けるために、大学・研究機関、先端的な技術を持つ企業とも連携する。

院長
土井 俊彦
どい・としひこ/1989年岡山大学医学部卒業。2002年より国立がんセンター東病院(当時)内視鏡部。先端医療開発センター長等を経て24年より現職。医学博士。
当院は、がん専門病院としてがん全般の診断、治療等を行い、新薬や次世代医療機器の開発にも積極的に取り組んでいることが特徴です。併設する先端医療開発センターやNEXT医療機器開発センターでは、現場の医師や患者さんのニーズから逆算する「バックキャスト型」の開発を行うことで、臨床実用までの過程を加速させています。
新薬や次世代医療機器の開発は、産学医および医工連携が欠かせません。当院の近隣は大学・研究機関が多く、また、当院に隣接する三井リンクラボ柏の葉1には、高度ながん治療に不可欠な再生医療の先端的技術を持つ企業が集積。多様なプレーヤーが力を結集して革新的な新薬を生み出す、『創薬エコシステム』が構築されつつあります。
2027年には、革新的再生医療技術を持つ米国企業セラレスが、現在建設中の三井リンクラボ柏の葉2に開発・製造拠点を開設する予定です。
再生医療技術によるがん治療の代表例は、悪性リンパ腫に有効なCAR-T細胞療法です。患者さんの免疫細胞を再生医療技術で薬に変え、投与するという治療法で、世界中で開発が進んでいます。私たちの創薬エコシステムでは複数の新規CAR-T細胞療法を開発し、当院で早期臨床試験を行いました。
次世代のがん治療として期待される放射性医薬品の開発にも取り組んでいます。放射性医薬品は腫瘍だけに取り込まれ、放射線を放出して増殖を抑える効果があります。画像診断も同時に行うことができ、診断と治療の一体化は「セラノスティクス」と呼ばれ急速に進化しています。
次世代医療機器としては、腹腔鏡手術支援ロボット「ANSUR」がすでに製品化されています。
一昨年には、テキサス・メディカル・センター(TMC)とパートナーシップを締結し、有望なシーズ(新薬の種)を持つ企業を、TMCの米国事業展開支援プログラムに送り出す仕組みを整えました。日本のドラッグ・ラグ/ロス解消のために、世界とのつながりをさらに強化させていきます。

当院の多職種連携には多様な方々が参画しています。
例えば、新たな機能を備えた衣料品の開発を、服飾専門学校と患者さん、医療者が共同で行っています。患者さんがベッドから落ちたときに音が鳴る病衣など、ユニークなアイデアが出ているようです。
栄養管理室は、がん治療に伴う症状別レシピを考案して料理教室を開き、レシピ検索「CHEER!(チアー)」も展開。食事を摂取できれば薬を飲むことができ、また体力の低下を抑えることにもつながります。
こうした取り組みに患者さんが参画することにより、治療効果やQOLが向上します。
隣接するホテルには専任のケアスタッフが常駐し、当院と連携するなど、ケアの面でも先進的な取り組みをしています。

篠崎 剛
医長
弘前大学医学部卒。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会認定耳鼻咽喉科専門医、他。
当科は、内視鏡を用いた低侵襲手術、ロボット支援下手術、進行がんの拡大手術などを幅広く行い、光免疫療法(アルミノックス治療)も提供しています。
光免疫療法は、がんに特異的なタンパク質に集まる物質(抗体)と、光に反応する物質を組み合わせた薬を投与したのち、全身麻酔で局所にレーザーを照射してがん細胞を死滅させる治療法です。手術ができない頭頸部がんに対して2021年から保険診療下に治療が開始されています。他に根治が目指せる治療がなくなった患者さんに治療を行い、一部の患者さんで効果を認めています。
当科は臨床試験の段階から光免疫療法に携わり、保険適用後は約20人の患者さんに実施しています。頭頸部がんは治療が難しいものもありますが、機能温存と根治性を追求しながら頭頸部内科や放射線科、歯科などと連携し、患者さんの生き方を尊重した治療の選択肢を提供します。

新たな治療法にチームで取り組む
坂東 英明
医長
旭川医科大学医学部卒。日本消化器病学会認定消化器病専門医、他。
私は消化管内科で診療を行う一方、データサイエンス室に所属し、「ARCAD(アルカド)アジア」という国際臨床試験データシェアリング事業に携わっています。データシェアリングとは、臨床試験等のデータを、個人情報は削除したうえで1カ所に集めてデータベース化し、研究機関などで共有・利活用する仕組みです。
せっかく患者さんが参加してくださった臨床試験のデータを、1つの薬の開発に使用して終わりにするのではなく、新たな研究やエビデンス構築のために役立て、医学の進歩につなげることが目的です。
ARCADはもともと欧米で始まり、それを手がける機関と当院が共同研究を行っていたことから、アジア圏のデータシェアリング基盤の構築を依頼されました。すでに大腸がんのデータが欧米のデータと統合され、2024年からは胃がんのデータベース化に取り組んでいます。

生物統計の専門家などとも連携
伊藤 雅昭
副院長・科長
日本外科学会認定外科専門医、日本消化器外科学会認定消化器外科専門医、他。
腹腔鏡手術は通常、執刀医、助手(鉗子2本を操作)、スコピスト(内視鏡を操作)の計3人の医師で行います。現在国内外で普及している手術支援ロボットも、通常は助手が1人手術に参画することが多いのですが、「ANSUR」は執刀医1人で鉗子と内視鏡を操作できるため、助手を必要としません。また、短時間でセッティングができ、手術に要する時間は通常の腹腔鏡手術と同等です。本体や関連機材の購入費が抑えられることも大きなメリットです。
私が「ANSUR」の開発に着手したのは2013年。腹腔鏡手術とロボット支援下手術の“お互いのメリットを生かした”医療機器を作ろうと考えました。ロボットのいいところは、鉗子などの関節が自由自在に動き、ぶれないこと。当院NEXT医療機器開発センターで企業と開発を進め、23年2月に医療機器として承認されました。新たな医療機器の開発は、日本の医療の発展に不可欠です。

患者の傍で行う「ANSUR」の手術
吉野 孝之
副院長・科長
防衛医科大学校卒。国立がん研究センター 東病院医薬品開発推進部門長、他。
国際臨床腫瘍科は、日本でがん医療を受けたいと希望する海外の患者さんのために開設されました。
日本には有効性が確かめられた新薬や診断薬があり、当院には治療実績を持つ医師が多数在籍します。外科医の手術技術の高さも日本の医療への信頼につながっています。
先進的な医療の中でも、アジア圏の患者さんに関心が高いのは陽子線治療です。陽子線は、X線と異なって「止まる」という性質を持ち、「止まる深さ」をコントロールすることで、がん細胞に集中的に照射することができます。
当院は1998年に陽子線治療を開始し、近年は年間40~80人の外国人患者を治療しており、海外からその治療の質を高く評価されています。日本のがん医療には潜在能力があるのです。国内の病院とも連携し、海外の患者さんに対しても高品質ながん医療を提供していきたいと考えています。

日本のがん医療への期待に応える
国立がん研究センター 東病院
千葉県柏市柏の葉6-5-1
電話 04-7133-1111(代)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/

■診療科目/頭頸部外科、頭頸部内科、形成外科、乳腺外科、腫瘍内科、呼吸器外科、呼吸器内科、食道外科、胃外科、大腸外科、消化管内科、消化管内視鏡科、肝胆膵外科、肝胆膵内科、泌尿器・後腹膜腫瘍科、婦人科、骨軟部腫瘍科、リハビリテーション科、血液腫瘍科、小児腫瘍科、歯科、総合内科、循環器内科、麻酔科(橋本学)、集中治療科、緩和医療科、精神腫瘍科、放射線診断科、放射線治療科、病理・臨床検査科、先端医療科、感染症科、皮膚腫瘍科、脳神経外科、眼科、国際臨床腫瘍