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横須賀共済病院質の高い高度急性期医療を牽引し
地域の医療介護のDX連携も図る

「よかった。この病院で」。患者、家族、職員の満足度を高める攻めの経営ビジョンで、高度急性期に特化した病院を黒字化。AI導入で労働環境改善を図り、地域の医療介護DX連携にも先鞭を奮う長堀薫病院長にお話を伺った。

長堀 薫

病院長
長堀 薫

ながほり・かおる/1978年横浜市立大学医学部卒。専門は消化器外科。山梨医科大学第1外科、横浜市立大学第2外科講師、米国City of Hope研究員等を歴任。横須賀共済病院外科部長、副院長を経て2014年より現職。横浜市立大学医学部臨床教授、神奈川県病院協会副会長、一般社団法人さくらネット協議会理事長。



赤字経営を脱却し、地域で高度急性期医療の砦となる

 横須賀共済病院は、神奈川県の横須賀・三浦医療圏で高度急性期医療を担う基幹病院だ。病床740床、外来患者1840人/日、入院患者640人/日、救急車搬送件数は年間14026台と全国3位(※1)、中央手術室手術件数も年7500件を誇る。悪性腫瘍や脳卒中、心疾患、腹腔鏡やロボット手術など高度医療のシェアも極めて高い。
 院長の長堀薫氏は「私が院長に就任した2014年は、日本の医療界全体が『1病院完結型』から『地域完結型』へと向かう変革期に当たりました。病院間で機能分担し、連携することで経営効率を高め、同時に個々の患者さまが必要とする医療を、高度急性期から回復期・慢性期まで、地域が切れ目なく提供する。当院はその旗振り役となりました」と語る。(以下同)
 慢性期の分院を閉鎖し、回復期リハビリテーション病棟を一般病床に。リソースを急性期部門に集中し、後方機能は19病院と緊密なアライアンスを構築している。
「院長の一番の役目は病院の進むべきビジョンを示すことです。実を言えば当時の病院経営は赤字に転落寸前。小児科医補充の手違いで、周産期母子医療センターの存続も危うかった。医療スタッフ個々の技術は高く、大学病院を凌ぐ診療能力を恃むあまり、運営・財務面の危機意識は皆無だったのです」
 そこで掲げた理念は「よかった。この病院で」。患者さま、市民、職員、三者すべてが「よかった」と思える“三方よし”を経営哲学の要に据えることとなる。
 マーケットは三浦半島50万人。地域で急性期医療を担う8件のDPC対象病院を視野に、3C=Customer(顧客)・Competitor(競合) ・Company(自社)をデータに基づき定量分析。改革へのロードマップを具体的に示した。
 実務面では救急全応需、紹介チャネル拡充による手術症例獲得、在院日数適正化と全科病床一元管理、先進医療機器導入、研修医の積極育成など。活気ある職場環境は患者ニーズへの迅速対応につながり、地域の評価は鰻上り。経営基盤は軌道に乗った。
「人材育成にも力を入れました。離職率の高かった勤続5年前後の看護師を対象に、ディズニーアカデミーでのホスピタリティ研修。管理職にはシステミックコーチング受講。周囲を思いやり、丁寧に話を聞く。さらに個々のやる気を引き出し、目標設定と自律的な行動を促すことが目標です」
 志を共にできる職員の輪が広がれば、将来院長が交代しても、理念と変革は受け継がれていく。データ分析チームも組織し、希望者は国際医療福祉大学大学院Health‒MBAコースで2年間学ぶことが可能だ。医療の質と経営は決してトレードオフではない。
 長堀氏のチャレンジは2020年「日本経営品質賞」受賞に結実。自己革新を通じ、顧客の求める価値を創造し続ける組織に与えられる賞で、全国でも数少ない受賞医療施設の一つとなった。さらに、「Newsweek」誌の病院世界ランキングでも2019年から7年連続で選出されている。時代の求めに応え、医療における新たな文化を拓いたのである。
※1 全国順位出典:救命救急センターの評価結果(令和5年)について


“三方よし”のAIホスピタル始動!

 近年は「AIホスピタル」のパイオニアとして脚光を浴びている。
「2018年、内閣府がAI開発を目的とする戦略的イノベーションプログラム(SIP)の『AIホスピタルによる高度診断・治療システム』を公募。サブテーマ『AIを用いた診療時記録の自動入力化、インフォームドコンセント(IC)時の双方向コミュニケーションシステムの開発』に申請し、採択されました。AIへのタスクシフトは、医療スタッフの働き方改革推進に欠かせません」
 音声入力が可能になれば、診察室における医師の治療方針説明は即時電子カルテに反映され、患者の目を見てしっかりコミュニケーションが図れる。各現場の看護師の報告書作成も省力化。タブレットを活用した入院前や手術前麻酔のICは、患者の疑問への応答に予想以上の効果を上げた。
 現在は端末にスマートフォンを活用し、音声入力に加えAI薬剤鑑別機能を搭載。院内で使われる約2000種のうち1300種が撮影画像で検索・鑑定でき、電子カルテに同時入力が可能。入院患者への配薬所要時間は大幅に短縮できた。さらに放射線画像参照、スタッフ間のチャット、院外からの閲覧・入力など現場の要望に応じた機能が拡充し、必要不可欠なインフラとなっている。
「SIP終了後は、厚生労働省のSBIR(中小企業イノベーション創出推進事業)に参画。電子カルテから生成AIによる診療情報提供書(紹介状)や退院サマリー作成を始めました。看護師のサマリーやリハビリテーション科のFIM評価など、様々に応用を進めていきます」
 ルーティンワークのデジタルシフトによって、医療のマンパワーは患者本位を徹底できる。

AIを活用したスマホにはカルテ音声入力、AI薬剤鑑別、放射線画像参照など様々な機能が搭載

AIを活用したスマホにはカルテ音声入力、AI薬剤鑑別、放射線画像参照など様々な機能が搭載。

心臓のカテーテルアブレーション治療と経皮的冠動脈形成術は年1,468件

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手術支援ロボットは新しいダヴィンチに更新。2台体制となる。泌尿器科、外科、産婦人科、呼吸器外科で活躍

手術支援ロボットは新しいダヴィンチに更新。2台体制となる。泌尿器科、外科、産婦人科、呼吸器外科で活躍



地域の医療介護リソースをDXで効率よく結ぶ

 新たな課題は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活かした医療介護連携ネットワークの構築だ。2024年8月、長堀氏を理事長に、横須賀・三浦二次医療圏を中心とする「さくらネット」がスタートした。
 目的は住民に自分の健康や医療情報をしっかり持ってもらうことと各医療・介護施設の間で診療情報を共有し、活用することだ。
「自宅や外出先、介護施設等において事故や病態急変が起きた時、あるいは大規模災害に巻き込まれた時、搬送先の病院で適切な医療を受けるには、本人の正確な診療履歴が欠かせません。情報の有無は生命予後にかかわります」
 プラットフォームの参加施設は病院、医科診療所、歯科診療所、薬局、訪問看護ステーション、介護事業所。電子カルテをベースに、疾患履歴、画像を含む検査履歴、服薬履歴などが住民同意の下、適時電子入力され、共有される。
 一方住民のためのプラットフォームにはPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)「さくポ」があり、個々人が登録すれば、さくらネットと連動し、自身の健康管理に役立てることができる。
「さくらネットの有用性と拡張性を神奈川県から評価され、藤沢市を含む湘南東部二次医療圏、横浜南西部医療圏も加入。県や地域医療介護総合確保基金からの支援規模が拡大しています」
 住み慣れた地域で多くの人々と心を通わせ、助け合い、健やかな生をまっとうする。DXの進化を捉え、未来を見据える横須賀共済病院の挑戦に、これからも目が離せない。


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