先進治療の拠点へ
大森赤十字病院切除不能も諦めない。治療の新機軸東京・大田区の地域中核病院として、大森赤十字病院は肝胆膵疾患の高度な診療体制の充実を図っている。2025年度からの内科・外科一体となったチーム医療と、最新の治療方針に迫る。

肝胆膵外科部長
木谷 嘉孝
きや・よしたか/2011年香川大学卒業。日本外科学会認定外科専門医、日本消化器外科学会認定消化器外科専門医、日本肝胆膵外科学会評議員。

消化器内科医師
髙栁 卓矢
たかやなぎ・たくや/2013年浜松医科大学卒業。日本内科学会認定総合内科専門医、日本消化器病学会認定消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医。
大田区の地域医療を支える大森赤十字病院は、肝臓・胆道・膵臓(肝胆膵)領域の疾患において、高度な専門性と迅速性を兼ね備えた先進の診療体制の整備に努めている。
食生活の変化や肥満、診断技術の向上などを背景に、肝胆膵領域のがんは増加傾向にある。特に膵臓がんは国内のがんの種類別死亡者数で第3位だ。同院はこれらの難治性疾患に対し、診断から手術、化学療法までを一貫して提供する重要な役割を担っている。
2025年度、肝胆膵外科部長として木谷嘉孝医師が着任し、内科・外科がシームレスに連携する「チーム医療」が始動した。
消化器内科の髙栁卓矢医師は「内科・外科の一体化により、迅速性が飛躍的に高まった」と話す。患者が来院した時点で内視鏡診断と外科的視点での治療方針を同時に検討する。木谷医師も「熱心な看護師や技師も含め、当院には病院全体で一丸となり質の高い医療を提供する土壌がある」と語る。
早期発見・早期対応への取り組みも積極的だ。「2024年に開始した〈黄疸ホットライン〉は、開業医からの相談に専門医が直接応じる専用ルートで、従来に比べて1日以上早く患者の治療を開始できるようになりました。また、同年開始の〈すい臓ドック〉は、放射線科と膵疾患担当のドクターによる二重読影を行い、症状のない段階で5年生存率が80%に達する1㎝以下の早期がん発見を目指しています」と髙栁医師は語る。

診察中(左)、手術中(右)の木谷医師。肝胆膵領域の悪性疾患にいかに立ち向かい、いかに負担の少ない手術を行うかを追求している。
精密診断の要は、内視鏡と超音波を組み合わせたEUS(超音波内視鏡)だ。CTでは捉えにくい小さな膵臓がんを90%以上の精度で発見し、細針を用いたEUS‒FNAで組織を採取して確定診断を行う。
胆管閉塞にはERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)を用いた治療(石の除去やステント挿入)を第一選択とする。しかしERCPが困難な症例には、従来、体外からチューブを挿入するPTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)を行っていたが、チューブを体外に出さないEUS‒BD(内視鏡的超音波下胆道ドレナージ)で行うことで、患者の負担軽減とQOL維持を両立させている。
外科治療でも、体への負担を抑える低侵襲手術を推進する。木谷医師は「膵体尾部切除や肝部分切除において腹腔鏡手術を導入し、傷口の縮小と早期の社会復帰を実現しています」と語る。ロボット支援手術についても、がん治療のアプローチのひとつとして導入を考えている。
さらに、当初は切除不能とされた症例に対し、抗がん剤で腫瘍を縮小させて手術に繋げるコンバージョン手術にも注力する。木谷医師は「薬物療法と手術を組み合わせる集学的治療により、完治への道は拓ける」と説く。
最後に、不安を抱える患者に対し両医師はメッセージを寄せる。髙栁医師は「症状が出る前の検診を」と促し、木谷医師は「切除不能の状態でも決して諦めないでほしい。現在の医療技術では驚くほど良くなる方もいる。一緒に困難な病に立ち向かいましょう」と呼びかける。

内視鏡治療を行う髙栁医師。膵臓がんの早期発見に注力している。