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企画・制作 読売新聞社ビジネス局

市民公開講座/正しい知識が力になる。患者さんと学ぶCIDP 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎

共催:全国CIDPサポートグループ、アルジェニクスジャパン株式会社、読売新聞社 協力:yomiDr.

CIDP(慢性炎症性脱髄性多発根神経炎)とは、2か月以上にわたって進行する手足の筋力低下としびれを主な症状とする末梢神経の病気です。全国には約4,000人の患者がおり、「指定難病」になっています。5月10日、東京の日本橋ホールにおいて、CIDPの適切な治療方法や今後の見通しなどについての医療者による講演、ならびに患者会代表、読売新聞「ヨミドクター」編集長を交えてのトークセッションが行われました。

【総合司会】小島 奈津子氏 フリーアナウンサー
桑原 聡先生
三澤 園子先生
鵜飼 真実氏
利根川 昌紀氏
小島 奈津子氏

ごあいさつ

私は2004年にCIDPを発症した患者本人です。2006年に13名の患者・家族と共に、患者会である「全国CIDPサポートグループ」を立ち上げました。

CIDPは人口10万人あたり3.3人という希少難病であるため、私たちは、全国に散在する患者のネットワークを構築し、CIDPに関する医療と福祉の向上を目指して要望活動等を行っています。また、正しい情報を患者さんに届けるため、毎年1回、CIDPに詳しい医師による医療講演会と相談会を開催し、収録した動画を会員限定で配信したり、わかりやすくまとめて会報に掲載したりしています。

「楽しいことは体に良い」。これは患者同士の会話から自然に生まれた私たちの合言葉です。若い患者さんたちにもサポートグループのオンライン交流会やLINEのオープンチャットに参加していただき、世代と地域を超えて、楽しみを見つけながら、これからも共に励ましあっていきたいと思います。

鵜飼 真実氏
全国CIDPサポートグループ 理事長

基調講演

CIDPの診断と治療のポイント
桑原 聡先生 千葉大学大学院 医学研究院 脳神経内科学 名誉教授
末梢神経の炎症で どの世代でも起こる病気

人間の神経系には、脳・脊髄からなる中枢神経と、全身に広がる末梢神経があります。末梢神経は、中枢神経からの電気信号を体の末端まで伝える軸索(じくさく)と、これを包み込む髄鞘(ずいしょう)でできています。CIDPではこの髄鞘が障害を受けて、神経の電気信号がうまく伝わらなくなり、「立ち上がれない」「しびれる」などの症状が表れます。

両腕と両脚に同時に症状が表れる典型的CIDPが60%を占め、残りが五つの病型に分類されます。発症年齢の平均は52歳ですが、0~90歳のどの世代でも起こりえます。免疫システムの誤作動で、自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患の一種で、発症のメカニズムはまだ解明できていません。

再発と寛解を繰り返す人もいれば、慢性的に症状が進行する人、初回の治療のみで症状がほぼ消失し、追加の治療がなくても再発しない人もいます。

治療薬は日々進歩 普段から健康に良い生活を

しびれなどの症状は他の疾患でも表れるため、診断では、症状や経過に加え末梢神経の電気信号の伝わりを調べる神経伝導検査を行います。超音波検査やMRI、神経生検を行うこともあります。

CIDPに対する治療の第一選択は、免疫グロブリンと副腎皮質ステロイド薬であり、次の選択肢として血漿(けっしょう)浄化法が推奨されています。最近、分子標的治療薬が新しい選択肢として加わりました。いくつかの新規薬剤の治験も行われており、今後、さらに治療の幅が広がることが期待されます。

予防法は特にありませんが、風邪や過労やストレスは再発の引き金となることがあります。普段から健康に良いとされる生活を送るのが一番です。

トークセッション

専門家に聞こう!CIDPのこと。
登壇者
  • 桑原 聡先生 千葉大学大学院 医学研究院 脳神経内科学 名誉教授
  • 三澤 園子先生 東京科学大学 脳神経病態学分野 教授
  • 鵜飼 真実氏 全国CIDPサポートグループ 理事長
  • 利根川 昌紀氏 ヨミドクター編集長(現大阪本社科学医療部次長)
Q1.
「足の裏の感覚が麻痺し、スリッパが脱げても気がつかない」「手足の先がピリピリする」「足が重い」「指先の違和感やしびれがある」などはCIDPと関係あるのでしょうか?

桑原 しびれ=CIDPではありません。糖尿病やアルコール、薬剤によるものなど、しびれや手足の脱力には多くの原因が考えられます。高齢になると起こりやすい変形性脊椎症ではCIDPと同じような症状が出ることもありますので、早めに脳神経内科を受診していただければと思います。

鵜飼 かかりつけのお医者さんに脳神経内科への紹介状を書いていただくとよいかもしれませんね。

Q2.
CIDPの原因は何でしょうか?
遺伝やウイルス感染が関係しているのでしょうか?

三澤 CIDPは遺伝する病気ではありません。お子さんへの影響はないと考えていただいて大丈夫です。また、ウイルスの感染が原因であるとも示されていませんので、これについてもあまり心配されないでよいと思います。

鵜飼 家族の中に同じ症状の人がいるという相談を受けることが多いのですが。

桑原 CIDPは極めて稀な病気です。CIDPと同じような症状を起こす病気はたくさんあり、それらの患者数の方が多いと思われます。遺伝する病気でもありませんので、家族の方はおそらく別の病気ではないかと、通常、我々は考えます。

利根川 CIDPの原因が解明される可能性はありますか?

三澤 世界中で多くの研究者が成果を積み重ね、少しずつメカニズムがわかってきています。ピンポイントでCIDPを治療する分子標的治療薬も患者さんに使えるようになり、治験も進められています。これが効くのかどうかが病因の解明につながっていくと私たちは期待しており、5年後、10年後はさらに良い方向にいくと思います。

Q3.
CIDPの寛解と再発について教えてください。

桑原 症状がまったくない状態を「寛解」、病気の原因が取り除かれ、病気が完全に終わった状態を「治癒」といいます。治療を終了して症状が出ずに良い状態が続いていても、CIDPでは治癒という言葉はあまり使いません。というのも、CIDPのような免疫系の病気は数年してまた再発する可能性があるからです。良い状態がずっと続く「長期寛解」を多くの患者さんが得られることを目指して、医療者は診療・研究しています。

Q4.
免疫グロブリンの治療終了後、2週間ほどで再発し、不安です。

鵜飼 私も一番症状が重かった頃は、3週間後に再発していました。その時、私は違う治療法に変えました。

三澤 すごく不安なお気持ちだと思いますが、ここで大事なことは、一度は症状が落ち着いていたということです。その治療には効果があった訳ですから、しっかりと維持治療につなげたり、他のお薬と併用したりするなど、次の治療戦略を立てることができます。ぜひ前向きにとらえていただければと思います。

Q5.
手足のしびれだけが残る場合、どのような治療方法が考えられるのでしょうか?

桑原 しびれだけが残っている=病気が良くなっていない、とは必ずしもいえません。末梢神経には再生する能力があり、軸索にも伸びる力があります。伸びる時の神経は興奮性が高く、過敏になってしびれにつながるため、しびれがある=快方に向かっている、ということがあるからです。
疾患の活動性は抑えられているけれどしびれだけが残っている場合、免疫グロブリンやステロイドによる治療が適応にならないことがあります。しびれだけを緩和する治療を行ったり、神経の修復状態を判断するために慎重に経過をみたりする場合もあります。

Q6.
毎月、免疫グロブリンの点滴で治療を受けられている方の質問です。このまま治療を一生続けていくことになるのでしょうか?副作用も気になっています。

三澤 毎月、病院に通われるのは大変なことだと思います。おそらく典型的CIDPの方だと思われますが、このタイプは半数くらいの方が比較的短期間の治療で免疫治療が必要なくなり、残りの半数の方も数年でだいぶ病状が落ち着いてくることがわかってきています。
それにもかかわらず、免疫グロブリンを続けたいとおっしゃる患者さんが多いのが実情です。歩けなくなった時などの記憶がよみがえって不安になられるのでしょうね。
ですが、中には治療がいらなくなっている方もいらっしゃるので、治療を続ける必要があるかどうかを確かめるためにも、勇気を出して治療を休んでみる、ということが実は大事だったりします。主治医とコミュニケーションをとりながら、より良い選択をしていただければと思います。

利根川 ステロイドについてはいかがでしょうか?

三澤 長期に内服していると免疫グロブリンよりも副作用が少し問題になりやすいということがあります。ですが、治療にはなくてはならない薬剤で、適切に使用すれば副作用をコントロールしながら効果を得ることができます。どの治療薬でも、病気が落ち着いてきたら適切に調整していくことが大事です。主治医とよく相談をして決めていただけると良いですね。

Q7.
ストレッチ、筋トレに治療効果はありますか?

桑原 ストレッチや適度な運動は回復に向けて重要になってきます。関節可動域を広げるストレッチなどは、理学療法士がいるリハビリ施設でやれば大丈夫です。問題なのはやり過ぎです。治療がうまくいって末梢神経の再生や修復が始まった時に筋トレをし過ぎると、負担がかかりすぎて回復が遅れる場合があります。軽い運動でリハビリしていただくのは良いと思いますが、鍛えるつもりで筋トレを長時間するのは避けていただきたいです。

鵜飼 私も入院中に理学療法士さんにリハビリをしていただき、退院前に自宅でのメニューを考えていただきました。

Q8.
治療を続けていますが、病状が進行して歩けなくなったり、車椅子の生活になったりすることがあるのでしょうか?

三澤 とても難しい質問ですね。まだCIDPに治りにくいタイプがあるのは確かで、杖や車椅子を利用されている方もおられます。大切なのは、主治医とコミュニケーションを取りながら、必要な治療を続けていただくことです。
今、新しい薬の治験も始まっています。もし治験が実施されている病院に通院されているのであれば、治験に参加していただけると薬の承認が早まる可能性があります。みなさまにお伝えしたいのは、日本では指定難病患者への医療費助成制度により、CIDPの方は医療費の面ではとても恵まれている状況にあるということです。しっかり治療が受けられる国であることを、心の片隅に置いていただけるといいなと思います。

鵜飼 車椅子の生活になってもお勤めを続けている方もいれば、ご自宅でできる仕事を開業された方もいらっしゃいます。悲壮感を持たないで頑張っていただきたいと思います。

Q9.
病気の不安でついつい怒りっぽくなってしまう時に、笑顔になる秘訣はありますか?

鵜飼 何かに夢中になっている時は、症状をあまり考えずに過ごすことができます。自宅でドラマや歌番組を見る、スポーツ観戦やゲームをする、音楽を聴くなど、いろいろな楽しみを持つのが一番ですね。私の場合は、治療で自宅から出られなくなった時は、野鳥観察をすることで癒されておりました。よく言われている言葉ですが、病気と仲良くうまく付き合っていくことが大事です。

Q10.
最後にみなさまへメッセージをお願いします。

桑原 ここ10年でCIDPの治療法がとても進歩しました。全国CIDPサポートグループなどと協力しながら、これからも医療者・研究者として、病気の克服に向けて力を尽くしていきたいと思います。

三澤 医療者が患者さんの視点に立ち、患者さんが大事にしていることを尊重して医療を提供する、「患者中心」という考え方が、最近のトレンドになってきています。CIDPには様々な治療の選択肢があります。ぜひ患者としての価値観や希望を主治医に伝えてみてください。

鵜飼 今回はたくさんのご相談をお寄せいただきましてありがとうございました。ご不安なことがありましたら我々サポートグループの相談会も是非ご利用いただきたいと思います。

利根川 CIDPに限らず難病の患者さんは、ご本人にしかわからないつらさを抱えておられます。その方たちを支えるためにも病気に対する正しい知識と理解を広めることが大切だと思います。本日はありがとうございました。