正しい知識が力になる。患者さんと学ぶ CIDP 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎 ― 市民公開講座2026 in 関西 ―
慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)は、手足の筋力低下と感覚障害を主な症状とする脱髄性末梢神経障害で、国の指定難病の一つです。
近年、治療法の選択肢が増えてきて、治療を続けながら、学校や仕事などの日常生活を送ることもできるようになってきました。
CIDPに詳しい脳神経内科の医師による基調講演に引き続き、患者サポートグループや患者さんを交えてトークセッションを行い、CIDPとの上手な付き合い方について話し合いました。(総合司会:小島奈津子氏)



基調講演
~知っておきたい診断と治療~


手足に症状が出る神経障害
早期診断、早期治療がきわめて重要
慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)は、手足の筋力低下と感覚障害を主な症状とする脱髄性末梢神経障害で、国の指定難病の一つです。
症状は、つまずきやすい、階段を上り下りしにくい、ペットボトルの蓋が開けにくい、腕が上がりにくい、手足がしびれるなど、実にさまざまです。全国の推定患者数は4,180人、有病率は10万人あたり3.3人。女性より男性にやや多く、平均発症年齢は52歳、若年者から高齢者まで幅広く発症しています。※1
正常な神経は、軸索という芯の周りを保護する膜(髄鞘)が覆っています。CIDPになると、この髄鞘が炎症で傷つき(脱髄)、脳からの電気信号がスムーズに流れなくなって、筋力が低下したり、手足の感覚が脳に伝わりにくくなって感覚障害を起こします。
私たちの体にはウイルスや細菌などの外敵から身を守る免疫システムが働いていますが、CIDPは自分の体を敵だと認識して攻撃してしまう自己免疫疾患の一つで、自分の免疫が神経の髄鞘を攻撃してしまうと考えられています。
CIDPの経過は、慢性に進行する「慢性進行型」、再発・寛解を繰り返す「再発寛解型」、一度治療すれば寛解して症状が出ない「単相型」の3つのタイプがあります。単相型は全体の2割程度で、それ以外は再発寛解型または慢性進行型で、長期的な治療が必要になります。
どのタイプでも、脱髄したまま放置すると、髄鞘だけでなく神経そのものが障害を受けてしまうので、早期診断、早期治療がきわめて重要です。※2
- ※1
- Aotsuka Y et al. Neurology. 2024; 102(6), e209130.
- ※2
- 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2013. p. 8, 11-14.
広がる治療の選択肢
医師とよく相談し、
自分にとって最適な治療法の選択を
CIDPの診断、治療は脳神経内科で行います。診断には2ヶ月以上の経過が不可欠なため、症状が出てすぐには診断できませんが、手足に症状が出ることから、整形外科などで別の治療を受けてしまい、確定診断までに時間がかかるケースが多く見られます。
脳神経内科で問診、診察のあと、確定診断のため、神経伝導検査(手の先に電極をはって、腕に軽い電気を流し、末梢神経の脱髄による伝導の遅延がないかどうかを確認)を行います。他の病気と鑑別するため、腰から針を刺して脳脊髄液を採取する髄液検査、超音波検査、 MRI検査なども行います。※3
全国CIDPサポートグループの2025年の調査によると、8割くらいの患者さんは2件目くらいまでに確定診断がついています。なかには非常に多くの病院を受診している人もいます。診断までにかかった時間は、約6割が1年以内に確定診断がついているものの、残りは1年以上かかっているのが現状です。※4
治療は、まず悪化した症状に対して、寛解導入療法を行い、その後、悪化させないための維持療法を行います。治療には、免疫グロブリン静注療法(IVIg)、免疫グロブリン皮下注療法(SCIg) 、副腎皮質ステロイド薬、血漿浄化療法、FcRn阻害薬などがあります。SCIgとFcRn阻害薬は皮下注射による治療で、在宅で自己投与を行うこともできます。ライフスタイルや治療目標、仕事・学業・家庭との両立なども考慮しながら、医師と相談して治療法を選択していく協働的意思決定(シェアード・ディシジョン・メイキング)を行うことが大切です。※3
- ※3
- 日本神経学会監修:慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー,多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2024
- ※4
- 全国CIDPサポートグループ:慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)およびその類縁疾患の患者実態調査報告書

医師×患者セッション
- 桑原 基 先生 近畿大学 医学部 脳神経内科
- 山岸 裕子 先生 近畿大学 医学部 脳神経内科
- 鵜飼 真実 氏 全国CIDPサポートグループ 理事長
- 長坂 康徳 氏 全国CIDPサポートグループ
- 中嶋 千秋 氏 全国CIDPサポートグループ
小島 最初にどんな異変を感じて、診断に至りましたか?
長坂 建築現場で働いていたとき、足先が極端に冷たくなって、重い荷物を持って階段を上がるのがつらくなってきました。整体に通っても、よくならず、総合病院の脳神経内科で、CIDPと確定診断されました。
中嶋 階段の上り下りがつらくなり、足がつることも増えたのですが、年のせいだと思いました。症状が続くので、整形外科に行くと、変形性膝関節症と診断され、リハビリに通いました。そのうち、ペットボトルが開けられない、物を落としてしまうなど、手の方に症状が出てきました。ある時、横断歩道を渡っていて、急に膝に力が入らなくなり、そのまま倒れて救急搬送されました。その後、大きな病院の脳神経内科でCIDPと確定診断されました。
小島 何科を受診したらよいかわからないというのは、大きな壁になりますよね?
鵜飼 私も右手の手首から先がしびれて、整形外科で手根管症候群と診断され、手術までしました。CIDPは7年前に寛解し、現在は経過観察中なのですが、理事長を務める全国CIDPサポートグループのメンバーも、最初に整形外科に行く人が多いです。
山岸 人によって症状の出方がずいぶん違いますし、手足の症状はCIDPに限らず、整形外科の病気でも出ることがあります。それを区別するためにも、気になる症状があれば、早めに脳神経内科に来ていただきたいと思います。
小島 やはり、この病気に関しては脳神経内科を受診すればいいんだという知識を持つことは、本当に大事ですね。


小島 主治医とのコミュニケーションはスムーズでしたか?
長坂 最初の主治医とは、あまりコミュニケーションがとれずに不安でしたが、転院した大学病院の先生から「この病気とうまくお付き合いしながら生きていきましょう」と言われ、ようやくこの病気と「つきあう」ということが腑に落ちました。
中嶋 夫も診察に付き添い、客観的な症状を医師に伝えてくれましたし、自分でも、できるだけ症状を具体的に伝えるようにしました。主治医は、CIDPの専門ではないのですが、一緒に向き合ってくださるので、とてもありがたいです。
鵜飼 患者さんの中には、診察室に入ると頭が真っ白になって、何を言ったらいいかわからないという人もいます。そういう場合は、あらかじめ伝えたい内容の優先順位をメモに書いて、診察室の中でそのメモを見ながら先生に伝えるのが良いと思います。
山岸 何か変わったことがあった時は、カレンダーや手帳に記録して、診察のときに伝えていただくと、診療もスムーズになります。医師は診察室での様子しかわからないので、患者さんから、ふだんの様子を伝えていただけると非常に助かります。
鵜飼 今後どんな生活をしたいのか、例えば、電車通勤できるようになりたい、子供を抱っこしたい、犬の散歩に行きたい、ゴルフをしたいなど、具体的な希望を伝えることも大切ですよね。
山岸 治療目標が明確になると、治療法も選択しやすいです。社会福祉サービスなども含めて総合的に考えながら、より自分らしい生活が維持できるよう我々医療者がサポートしていきたいと思います。
鵜飼 慢性の難病なので、慌てず焦らずあきらめず、治療をどう進めていくのか、何を目指すのか、先生と対話していくシェアード・ディシジョン・メイキング(協働的意思決定)は、診療ガイドラインでも推奨されていますし、サポートグループでも推奨しています。


小島 治療を続けながら、どのように日常生活を送っていますか?
長坂 建築現場の仕事は続けられなくなりましたが、やはり生活していかないといけないので、27歳で専門学校に入り、製図を勉強しました。現在、頓服のステロイド内服で症状の悪化を防ぎながら、デスクワーク中心の仕事をしています。電車通勤が大変で、最初のころは、満員電車や階段の上り下りに慣れず毎日クタクタでしたが、何とか工夫をしながら生活しています。できないことばかりに目を向けずに、どうすればできるかを探すようにしています。
中嶋 年齢のこともあって、現在も求職中です。正直なところ、難病患者の就労は厳しいと痛感しています。日常生活は、夫がいるので、大きな不自由はありませんが、階段は下りるのが怖いので、よく利用する施設はなるべくエレベーターやエスカレーターの位置を覚えて利用するようにして、カバンや衣服もなるべく軽く、ヘルプマークも使っています。2ヶ月ごとに合計4回入院してグロブリン点滴を受けたあと、自宅での自己注射による維持療法に切り替えて、 2年半以上経過しました。
鵜飼 就労に関しては、多くの方が本当に困っていらっしゃいます。2024年に全国CIDPサポートグループが行った患者実態調査では、発症した時点で働き方を変えていない人が31%、変えた人が43.4%、仕事を辞めてしまった人が25%いました※5。維持療法の種類が増えてきたことで、病気のコントロールをしながら働くことが可能になってきました。さらに、現在、障害者枠での雇用は障害者手帳がある人に限られているので、他の難病の患者団体の方々と一緒に厚生労働省に要望を続けてきました。その結果、障害者手帳を持っていない難病患者も法定雇用率の対象に含める方向を目指すことが示されました。今後は採用される方も増えていくことが期待されます。
- ※5
- 全国CIDPサポートグループによる慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)およびその類縁疾患の患者実態調査報告書
3つのメッセージ
小島 最後に皆様から一言ずつメッセージをいただけますか。
長坂 今CIDPと疑われている方々、まずは何らかの確定診断が受けられることを願っております。CIDPの患者さんは、ものすごく頑張っていらっしゃると思います。無理をすると、事故や怪我の原因にもなりますので、あまり頑張りすぎずに生活していただけたらと思います。
中嶋 診断を受けてない方が多分一番不安だと思うので、1日も早く確定診断を受けて、前向きに治療していただければと思います。治療は日進月歩なので、新しい治療法が出てくることを信じて、一緒に頑張っていきたいと思います。
鵜飼 何かわからないことがありましたら、遠慮なくサポートグループにお聞きください。ぜひ私たちと繋がって共に頑張ってまいりましょう。
山岸 何か変わったことがありましたら、メモを取ることを始めていただきたいです。自分らしい生活が維持できるように、一緒に歩んでいきたいと思っていますので、何かありましたら脳神経内科にお越しください。
桑原 正しい知識を持って病気と付き合っていただきたいと思います。主治医にご自身の考えを伝えて、一緒に治療を決めていくことが本当に大切だと思います。皆様、本日はどうもありがとうございました。
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- 本記事で紹介する発症・診断の経緯、症状や治療効果は個人の経験に基づくものであり、すべての方が同様の経過をたどるわけではありません。
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- 参考:慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2024