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※掲載の肩書は取材当時のものです。

歴史から読み解く 世界の中の日本
―なぜ話がかみ合わないのか?

井上 寿一 (学習院大学長)

 政治の話である。前回、政治の話をすると、場がしらけると書いたばかりだ。それでも政治の話をしなければならない時がある。

 2009年の民主党への政権交代から2012年の自民党の政権復帰へ、その先はどうなるのか。話していると、論点がずれる。議論の歯車がかみ合わない。そんなことが起きる。なぜだろうか?

 遠藤晶久+ウィリー・ジョウ「若者にとっての『保守』と『革新』」(『アステイオン』80号、2014年)が考えるための重要な手がかりを与えてくれる。保守的な政党は何党か。革新的な政党は何党か。ここで用いられている意識調査の結果によれば、世代によって認識が異なるようである。

 たとえば50歳代以上の世代にとって、もっとも保守的な政党は自民党で、もっとも革新的な政党は共産党である。ところが20歳代になると、大きく異なる。もっとも保守的な政党は公明党で、もっとも革新的な政党は、「維新」系の政党である。しかも50歳代以上の世代にとって驚くべきことに、20歳代は共産党・民主党・自民党は中道寄りで近接すると認識している。

 道理で話がかみ合わないわけである。とくに50歳代以上と20歳代との間では、政党観がちがいすぎる。議論のための共通の前提が失われている。世代間の認識のギャップの背景にあるのは、国際政治の変容である。50歳代以上の世代は人生の大半を冷戦とともに過ごしてきた。20歳代はちがう。米ソ冷戦終結の年にはまだ生まれていない人がいた。

 別の言い方をすれば、冷戦終結にもかかわらず、50歳代以上は今も冷戦思考に縛られていることになる。冷戦下、保守政党と革新政党の間で、政権交代はあり得なかった。保守の一党優位体制が長く続いた。対する20歳代は冷戦の影響から自由である。水と油のはずの共産党と自民党がこの世代にとっては近接しているのだから。

 ここから若い世代への期待が生まれる。冷戦思考に縛られている世代からすれば、想像もつかないような、政党の再編が可能になる。そうなれば新しい複数政党制が確立するだろう。

 ただし前途は楽観できない。この論考が示唆するのは、若い世代の政党政治離れである。共産党・民主党・自民党が近接しているということは、これらの政党に大きなちがいを認めない、どうでもよいということを意味するかもしれないからである。実際のところ、若い世代の政治的無関心と、一部の若い世代のデモへの参加といった直接的な行動が目立っている。代表民主制への懐疑が広がっているとすれば、日本の政治の未来は暗い。世代のちがいをこえて、代表民主制への信頼回復が重要なのである。

[2014.10.10]
プロフィール

井上 寿一 (学習院大学長)

井上 寿一 (学習院大学長)
1956年東京都出身。81年一橋大学社会学部卒業。86年一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。89年・法学博士(一橋大学)、同年学習院大学法学部助教授。93年より同教授。研究テーマは近現代日本政治外交史。95年『危機のなかの協調外交』(山川出版社)で吉田茂賞、政治研究櫻田会奨励賞受賞。近著に『第一次世界大戦と日本』(講談社現代新書)がある。2014年4月に学習院大学長に就任。

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