「行こう。あきらめていた人と。」誰もが楽しめる万博へ ~LET'S EXPOの取り組み~
誰もが楽しめる大阪・関西万博の実現を目指し、関西イノベーションセンター(MUIC Kansai みゅーいっく かんさい)が運営する「LET'S EXPO」のサービスが利用者から好評を博している。「行こう。あきらめていた人と。」と掲げて取り組むのは、身体の不自由な人らを対象にした「会場内サポート」や「バーチャル体験サポート」、視聴者も参加できる双方向型「オンラインツアー」の三つのサービス。事業を牽引するのは、銀行から出向する元ラガーマンとスタートアップで旅行会社を立ち上げた元プロボクサーの異色のコンビだ。 「MUIC Kansai」は、三菱UFJフィナンシャルグループと三菱UFJ銀行が開設したイノベーション創出拠点で、プロジェクト「LET'S EXPO」には、MUICと介護施設向けに旅行やオンラインツアーサービスなどを提供する東京トラベルパートナーズ、住友電気工業が参画している。
「万博に行きたくても行けない人に支援を」
「MUIC Kansai」は、三菱UFJフィナンシャルグループと三菱UFJ銀行が開設したイノベーション創出拠点で、プロジェクト「LET’S EXPO」には、MUICと介護施設向けに旅行やオンラインツアーサービスなどを提供する東京トラベルパートナーズ、住友電気工業が参画している。
ユニバーサルサービスの浸透を志しながら、それぞれで活動を続けていた2人が結びついたのは、必然なのかもしれない。
MUICは、当初単独で取り組んでいた旅行に行きたくても行けない方へ提供するオンラインツアーの取り組み「リモート観光」をどう展開させるかでもがいていた。「自分たちだけでは無理だ。どこかと共創してすすめなければ」。リサーチの中で浮かび上がってきたのが、東京トラベルパートナーズ社長の栗原茂行だった。
栗原は大学在学中にプロボクサーの経験を持ち、大手旅行会社を経て、2016年に独立した異色の経歴の持ち主だ。栗原は言う。「コロナ禍に多くの会社がオンライン観光に乗り出したが、ほとんど残っていないのが実情だ。うちのようなスタートアップに大きな組織から声がかかるのは奇跡に近い」。
三菱UFJ銀行に新卒で入行し、2022年にMUICに出向した村上弘祐は、「リモート観光」を栗原と共に推進。オンライン観光でのノウハウに秀でる栗原は、村上にとってかけがえのないパートナーになった。
LET’S EXPOの原型は、栗原の書いた1枚の概念図にある。「万博に行きたくても行けない人に『リアルでもオンラインでも』支援を提供する」。知る限り誰も手を付けていなかった空白のエリアだが、自分たちがやるしかない。 2人が同じ方向を向き、目標は定まったが、すでに万博会場内の運営受託事業はほぼ固まっていた。
「新しいサービスを万博の中で実現させる」というハードルの高い壁が立ち塞がる。その壁をいかに超えていくか。村上の奮闘が始まった。 LET’S EXPOのプロジェクトリーダー村上は、幼稚園から大学までラグビーにのめりこんだ。ポジションはフォワードの最前列、プロップだ。「むちゃくちゃしんどく、圧倒的に誰もがやりたくないポジションがプロップ」だという。ボールを持たないところでのプレーが多く、目立たない縁の下の力持ち的存在だ。それでもバックスにきれいなボールを提供するために、「支柱」となって身体を張る。プレーの起点となってゲームを組み立てる。与えられたポジションでベストを尽くすという、村上の「自己犠牲」の精神はラグビーが培った。
村上の突破力は、間違いなくLET’S EXPOを引っ張っていった。その頑張りが原動力となり、チームの一人一人も、それぞれが自分の役割を確認し、共通目標に向かって一丸となっていくようになった。ゼロから立ち上がったプロジェクトが形を見せ始めてきた。
村上にも新たな学びがあった。「自分1人だけではこれだけの事業はできない。このチームがあってこそ。任せる所は任せていこう」。マニュアルのないプロジェクトだけに、個々の力で全力を尽くし、さらにチームで補っていく。「自立分散」型の組織として、チームとしての結束力も一段と強めながら、万博という大きな舞台に向けて突き進んでいけるようになった。
「これからの社会に影響を与えていく」という信念でスタートしたプロジェクトだが、「このチームだからこそできた」というそれぞれの頑張りがあり、万博の「運営参加(会場内アクセシブルサポート事業)サプライヤー」に任命され、賛同するボランティアは700人を超えるまでになった。
身体的不自由を抱える人を対象に車いすを押したり視覚障害者を誘導したりという移動支援を行う「会場内サポート」の利用者アンケートでも大きな手応えがあった。開幕2か月を過ぎた時点で利用者145人に聞いたところ、81・6%が「このサービスが来場するきっかけ」となり、92・3%が「参加して楽しかった」と回答した。また支援を担当したボランティアスタッフ398人への調査でも、98・5%が「万博にあってよかったサービス」だとした。
オンラインツアーも魅力
さらに将来の展開に向けても期待がかかるのが、会場へのアクセスが難しい人にも万博の魅力を楽しんでもらおうと、パビリオンの魅力をリポーターがライブ配信する「オンラインツアー」だ。スマートフォンなどで自宅からでも視聴が可能だ。早くからオンラインツアーに取り組んできた栗原のノウハウを詰め込み、楽しさを体感できる双方向性を重視する。
パビリオンのラインアップも予約困難な人気パビリオンがずらりと並ぶ。「三菱未来館」や「住友館」など注目の国内パビリオンだけでなく、ドイツ、シンガポール、スペイン、ブルガリアなど個性豊かな海外パビリオンも加え、多様な文化や最先端の技術を現地からオンラインで結ぶ。テレビと大きく違うのは、視聴者とナレーターとの直接のやり取りが可能で「まるで現地にいるかのような臨場感」が楽しめることだ。クイズ参加でのポイント獲得などの楽しみもある。栗原自身が「オンラインでしか体験していないのに、実際に行ったことがあると勘違いするほどの没入感」だという。10月13日の開幕最終日までライブ配信を予定しており、最終日も会場の様子をライブ配信する。栗原は「オンラインツアーの普及に向けて、万博という大きなグラウンドを舞台に10年かけてもできないような体験ができている。チャンスはもらった。ここからさらに広げていくにはどうすればよいのか。残っている課題を洗い出し、会期中に決着をつけて次につなげていきたい」と意気込む。
銀行員時代の村上は、デスクワーク中心の業務にやや物足りなさを感じていた。「当時は課題を感じて仕事をしていなかったのかな」とも言う。突然の出向命令ではあったが、今はLET'S EXPOに全身全霊でのめり込んでいる。「リアルな人の声に突き動かされる。高齢者の方から直接感謝の言葉を聞き、中には涙を流しながら握手してくれる人もいる。この体験は、ほかでは得難い」と笑顔を見せる。一方で、足元での利益を求めず課題解決に注力させてくれる銀行の懐の深さにも感謝の言葉を口にする。
「万博を一つのゴールとして捉えていたが、今は、それだけで終わるものではないと実感している」。村上の言葉に栗原もうなずく。大阪・関西万博のレガシーをどう将来につなげていくのか。「人の喜ぶ顔が見たい」。日々手応えを感じながら、さらなる無限の可能性を信じて、海図なき航海は続くが、情熱を追い風にして未来を開いていく。