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ヨミドクター漢方ガイド

漢方のチカラ vol.5
呼吸器疾患への有用性を実感

 近年、漢方はぜんそくや喉の炎症といった呼吸器疾患の治療にも使われ始めています。特に、呼吸機能の低下から虚弱状態になりやすい「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」では、食欲や体力の回復にも役立てられています。呼吸器・アレルギー内科医の相良博典先生に、その現状を聞きました。

虚弱状態へと進みやすい「COPD」

昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 教授
相良 博典 先生

 平均寿命が延びている今、健康に問題のない状態で日常生活を送れる「健康寿命」の重要性が叫ばれています。医療の現場でも、要介護状態になることを防ぐ手立てに注目が集まり始めました。高齢者の多くは、健常な状態から筋力が落ちてくる「サルコペニア」、そして体力や生活機能全般が衰える「フレイル」という状態を経て要介護状態になります。しかし、これらは早期の対応によって予防や回復が可能とされています。

 サルコペニアやフレイルの要因には加齢やうつ、孤独などが挙げられますが、病気が原因になることも少なくありません。その一つが、呼吸機能が低下していく「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」です。これは長年の喫煙習慣などから肺が炎症を起こした状態を指し、息をスムーズに吐き出せないのが特徴です。

 症状が進むと少し歩いただけでも息苦しくなるため、患者さんは外出や運動を避けるようになりがちです。また、食事をすると胃が膨らんで肺を圧迫するので、やはり息苦しさから食が細くなります。こうした状態は筋力や体力の低下、閉じこもりによるうつなどにつながり、放置するとサルコペニアやフレイルの状態へ進行してしまう恐れも高いと言えるでしょう。

重症ぜんそくの治療に漢方薬を処方

 COPDの治療では、気管支を広げる薬の投与や腹式呼吸トレーニングなどを行いますが、食欲・体力の回復や活力の向上も重要です。こうした点については、近年は漢方薬がよく使われるようになりました。漢方薬には、せきを改善するとされる「清肺湯(せいはいとう)」や、食欲・活力の亢進作用がある「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」など数多くの種類があり、患者さん一人ひとりの状態に合わせた処方が可能になっています。

 私が漢方に出会ったのは30年以上前、ぜんそくに対してもっと良い治療法はないかと悩んでいたときです。恩師の勧めで「柴朴湯(さいぼくとう)」を処方したところ、それまで難渋していた治療に新たな選択肢ができ、深く興味を持つようになりました。この漢方薬については当時、炎症抑制機能の検証とその結果報告も行っています。

 以来、漢方薬を治療の選択肢の一つとして取り入れるようになり、近年ではせきや喉の炎症に「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」などを処方することもあります。ただし、漢方薬は複数の生薬を組み合わせてできているため、処方する医師はそれぞれの特性をよく理解しておかなければなりません。ここを理解した上で使えば、漢方薬は西洋薬ではできない部分をしっかり補ってくれると実感しています。

個別化治療の実現に大きく貢献

 漢方薬のこうした特性は、前述のサルコペニアやフレイルに対しても有用とされています。活力を与えて体を動かし筋力をつけてもらう、食欲を亢進させて体力をつけてもらうといった目的には、とても適していると言えるでしょう。近年は漢方薬の研究が進み、医学的根拠も数多く報告されるようになりました。大学の医学部に東洋医学が導入されたことから、漢方の研究者も着実に増えつつあります。これは、私にとっても非常に喜ばしいことです。

 東洋医学では、患者さんと話し、直接診て触って診断をつけていくことが重要とされます。検査の数値だけを見るのではなく、患者さん本人をしっかり診る──これは私の医師としての原点であり、今なお大切にしていることでもあります。きちんとした診断は、きちんとした問診や触診から。その上で最適な治療法を考え、漢方薬という選択肢も含めて提案していくのが医師の務めだと考えています。

 漢方薬は、ぜんそく一つとっても急性期、慢性期、炎症抑制など時期や目的によって使い分けることが可能です。近年の医療では、患者さん一人ひとりの個性に合わせた「個別化治療」が重視されていますが、漢方薬はその実現に大きく貢献するものです。多くの医師に、また多くの患者さんに、漢方薬という選択肢があることを知っていただきたいと思います。

相良 博典 先生
昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 教授
1987年獨協医科大学卒業、93年同大学院修了。同大准教授、同大越谷病院呼吸器内科主任教授などを経て2013年より現職。専門分野は呼吸器内科、喘息、COPD、免疫学的呼吸器疾患、臨床アレルギー学、関節リウマチ。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本アレルギー学会アレルギー専門医・指導医。

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