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ヨミドクター漢方ガイド

漢方のチカラ vol.6
新たな科学的根拠に注目集まる

胃痛や胃もたれ、胸やけなどの症状があるのに検査では異常が認められない──。そうした病気は「機能性ディスペプシア」と呼ばれ、近年患者が増えているといいます。しかし今年、この病気に対する漢方薬の作用について、新たな研究結果が報告されました。二神生爾先生に、その意義や内容を聞きました。

胃痛などの症状がある「機能性ディスペプシア」

日本医科大学消化器内科学 教授/日本医科大学武蔵小杉病院 消化器内科 部長
二神 生爾 先生

 私は消化器の病気の中でも、特に「機能性消化管障害」を専門としています。これは、胃痛や胃もたれ、便通異常、胸やけなどの消化管症状があるのに、内視鏡検査や画像検査では異常が見つからない病気のことを指します。大きく分けて、胃痛や胃もたれなどの症状が見られる「機能性ディスペプシア」、便通異常や腹痛などの症状がある「過敏性腸症候群」、胸やけなどがある「非びらん性胃食道逆流症」の三つがあり、いずれも近年、患者さんは増加傾向にあります。私自身、なかなか症状の改善が見られない患者さんからのご相談を受ける機会は多いですね。

 前述の症状は検査で異常が認められないため、治療方針を立てづらく、かつ患者さんの症状や不安も解消されづらいのが現状です。しかし、機能性ディスペプシアによる諸症状の治療法に関しては、診療ガイドラインに漢方薬の「六君子湯(りっくんしとう)」が明記されています。作用や効果に関する科学的根拠も数多く報告されているため、私も治療の選択肢の一つとして採用しています。

 漢方薬は複数の生薬を組み合わせたものですから、一つの漢方薬にはさまざまな成分が含まれています。例えば六君子湯には八つの生薬があり、それらの相乗効果で患者さんに多彩な作用をもたらす可能性があります。こうした特徴は、複数の症状を抱えていることの多い機能性ディスペプシアの患者さんに対して、有効な対処法になり得ると思います。

※六君子湯・・・構成生薬(ソウジュツ、ニンジン、ハンゲ、ブクリョウ、タイソウ、チンピ、カンゾウ、ショウキョウ)

ハイレベルの臨床試験で効果が報告

 六君子湯はこれまでに、胃の緊張をとる、胃に食物を溜めておく機能を改善する、食欲を増進させるホルモン「グレリン」の分泌を促すといった作用が報告されています。これらに加え、2018年には機能性ディスペプシアに対する作用に関して、新たな科学的根拠も報告されました。

 この臨床試験は、機能性ディスペプシアの患者さんに対して、50以上の施設で六君子湯と偽薬の比較試験を行ったもので、「DREAM Study」と呼ばれています。試験の結果、六君子湯を服用した患者さんの多くに、消化管の運動機能の改善が見られました。さらに、患者さん自身も症状改善を実感した、すなわち治療結果に満足したと報告されています。

 科学的レベルが高く、サンプル数も多い試験でこうした結果が出たことは、非常に意義深いことだと思います。

一つの薬でさまざまな症状に対応可能

 「DREAM Study」の試験結果は、診療ガイドラインにも次回の改定で反映される可能性が高いでしょう。現在、機能性ディスペプシアの諸症状に対する漢方治療は西洋薬に次ぐ第2の選択肢となっていますが、この報告により、これまで漢方薬を使ってこなかった医師にも漢方治療への興味を持ってもらえるのではないでしょうか。

 機能性ディスペプシアでは、胃もたれだけでなく便秘や下痢、胸やけ、不安など複数の症状を訴える患者さんが少なくありません。西洋薬は通常、一つの症状に対して1種類の薬を処方するため、症状の数だけ薬の種類も増えてしまいます。一方、漢方薬は一つの薬のみで多彩な症状の改善が期待できますし、服薬管理の観点からも注目しています。

 一昔前は、漢方薬は漢方医だけが使える謎めいた薬でした。しかし現在では「生薬の秘密」の科学的解明が進み、西洋医を含めたすべての医師が使える環境が整いつつあります。今後も確かな根拠をもとに患者さんに説明を尽くし、納得できる治療、満足度の高い治療を目指していきたいと思います。

二神 生爾 先生
日本医科大学消化器内科学 教授/日本医科大学武蔵小杉病院 消化器内科 部長
1990年、日本医科大学卒業。専門分野は胃、機能性疾患。研究テーマは胃癌進展機構の解明、癌幹細胞とMCP-1、機能性胃腸症と遺伝子多型。日本内科学会認定医・専門医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。日本消化器病学会機能性消化管障害ガイドライン作成委員。

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