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ヨミドクター漢方ガイド

フォーラム がんと生きる ~こころとからだ 私らしく~
富山
 がん医療の最新情報を紹介するフォーラム「がんと生きる」が、10月21日(日)に富山県民会館ホールで行われ、多くの聴講者が参加した。医療の進歩で治療の選択肢や可能性が高まる一方で、治療に伴う痛みや、がん当事者とその家族も含めた生活の質をいかに維持していくかについては、いまだに様々な壁が立ちはだかっている。そうした困難に立ち向かい、がんになっても自分らしく生きるためにはどうすればよいのか。医療従事者とがん当事者が語り合った。
パネルディスカッション 第1部「がん治療の最前線」
難しいすい臓がんの治療にひとすじの光

富山大学大学院
消化器・腫瘍・総合外科 教授
藤井 努 氏
ふじい・つとむ/名古屋大学医学部卒業。米国マサチューセッツ総合病院(ハーバード大学)リサーチフェロー、名古屋大学准教授などを経て、2017年から現職。

町永 がんとはどういう病気ですか。

藤井 人間の体内には約37兆個の細胞がありますが、遺伝子の異常から、毎日5000個のがんの元ができるといわれています。通常は人間の免疫機能によって消えていくのですが、何かのはずみで生き残ったものが長い時間の中で増殖すると、痛みがあらわれ、体重が減るといった変調が起きてきます。

町永 治療にはどういうものがありますか。

藤井 がん細胞を切除・攻撃する「手術」「放射線治療」、血液を通じて薬を全身に行きわたらせ、手術で取り除けない小さながんや血液のがんを攻撃する「抗がん剤治療」が三つの柱で、これらを組み合わせて行う集学的治療が効果を上げています。以前は術後に抗がん剤治療を行うケースが多かったですが、術前に抗がん剤治療を行ったほうが効果があることがわかってきました。また、がんは我々の免疫機能から身を守るためにバリアを張るのですが、そのバリアを解く「免疫治療」が最近注目を集めています。第4の柱になり得る素晴らしい治療ですが、課題がないわけではありません。

町永 がんの生存年数は延びましたが、藤井先生が専門とする、すい臓がんは治療が難しいといわれます。

藤井 自覚症状がほとんどなく早期発見しにくいという特徴があります。胃や腸を包む腹膜に種をまくようにがんが転移する腹膜播種も治療の難しさの一因です。手術や放射線治療では手に負えず、腹膜には細い血管しか通っていないので抗がん剤もあまり効きません。ただ、新しい治療法も出てきています。私が取り組んできた「腹腔内化学療法」などは、臨床試験の段階ではあるものの、一定の効果があることがわかってきました。

がん当事者
富山肺がん患者会ふたば 代表
森田 裕子氏
もりた・ゆうこ/富山市出身。2013年に肺腺がんステージ3Aと診断され、手術・抗がん剤治療を受ける。14年から、がんピアサポーターとして活動を始める。

町永 抗がん剤は副作用のつらさを伴うと言われています。

藤井 抗がん剤はがんだけでなく、新陳代謝が盛んな正常な細胞も攻撃してしまい、それが吐き気や便秘、口内炎、皮膚障害といった症状であらわれるのです。効果や副作用については、まだまだ個人差があるのが実情ですが、がん細胞だけを狙い撃ちする分子標的薬という新しい抗がん剤も出てきました。

森田 2年前から分子標的薬を服薬していますが、私の場合は効果を感じています。

平田 私はホルモン療法の副作用に苦しみました。体重が増えたり、うつになって一か月くらい何もしたくない状態が続いたりしました。

VTR

すい臓がんのステージ4で治療の手立てはないと病院で告げられた群馬在住の女性(54)は、富山の藤井医師による腹腔内化学療法を受ける。その効果で腹膜播種はすべて消え、8か月後の手術ですい臓がんも切除できた。今では孫の成長に未来を重ねている。

より良い暮らしへ 緩和ケアでつらさ軽減

町永 手術後の後遺症に苦しむケースもあります。リンパ浮腫とはどういうものですか。

酒井 乳がんや婦人科がんなどの手術でリンパ節を切除することで起きることが多く、手足がむくむ症状です。リンパドレナージという、リンパが流れる道を作るようにやさしく撫でるケアを行いますが、一般的なマッサージとは異なり、やり方によっては悪化してしまうので注意が必要です。

町永 こうした治療の副作用や後遺症、心のケアを含めて、患者さんの様々なつらさを和らげるのが緩和ケアです。

酒井 終末期のイメージがまだまだ残っているようですが、最近では診断と同時に行います。

ものがたり診療所 所長
佐藤 伸彦氏
さとう・のぶひこ/富山大学薬学部・同医学部卒業。2009年に医療法人社団ナラティブホームを立ち上げる。10年に「ものがたり診療所」を砺波市で開設。

佐藤 私は「まるごとケア」といっています。患者さんがより良く生きることを支えるのが本質だと思っています。

藤井 副作用を抑えたり、体調を整えるという意味では、漢方薬がよく使われます。

佐藤 漢方薬は患者さんの状態を全体として見極めて、おなかの調子が悪かったり、食欲がない方には六君子湯、術後の腹部膨満感に対しては大建中湯といった形で処方していきます。

酒井 緩和ケアを受けるには、主治医の紹介が一つの方法ですが、がん診療連携拠点病院などにあるがん相談支援センターでも相談に応じています。通院中の病院でなくても相談できます。

VTR

乳がんによる右胸の全摘手術後、腕が腫れ上がるリンパ浮腫に悩まされた女性(79)は、日常生活にも支障をきたすように。だが、乳がん看護認定看護師の酒井さんから正しいケア法を教わり、自分でも根気よく続けたことで、以前の暮らしを取り戻すことができた。

パネルディスカッション 第2部「暮らし支える医療」
人生は物語 ナラティブ医療

がん当事者
富山県がんピアサポーター
平田 暁子氏
ひらた・あきこ/滑川市生まれ。娘が小学1年生の時に乳がんと診断され、全摘手術。現在もホルモン治療を続ける。患者会に足を運んだことをきっかけに、がんピアサポーターに。

町永 全人的苦痛(トータルペイン)とは?

酒井 がんに伴う「身体的苦痛」、仕事ができないことや経済的な問題などからの「社会的苦痛」、不安やうつなどの「精神的苦痛」、死への恐怖に代表される「スピリチュアルな苦痛」。こうした様々な苦痛が相互に絡み合って患者さんを苦しめているという考え方です。

町永 患者さんに全人的にアプローチする「ナラティブ医療」が注目されています。

佐藤 科学的な根拠に基づいた従来の「エビデンス医療」の進歩によって、私たちはがんとともに生きる暮らしを手に入れました。その人生をどのように生きるのかという部分に、ナラティブ医療は関わります。人生をナラティブ(=物語)と考え、医師というより、一個人として患者さんと向き合い、世間話をする感覚で患者さんがご自身を語ることに寄り添います。患者さんはどうしても、がんだけに向き合うことになってしまう。しかし、家族や友人など、いろいろな関係の中で生きているはずで、もう一度、そうした自分の物語を取り戻してもらいたいというのが目的です。

VTR

前立腺がんと胃がんで治療の手立てがなくなり自宅療養に切り替えた男性(83)の暮らしを、佐藤医師が訪問診療で支える。診察後の佐藤医師との雑談を楽しいという男性。仲間を交えた集まりでは、「このなんてことない充実感を大切にしたい」としみじみ語る。

藤井 通常の診察では患者さんに向き合う時間は限られています。こうしたサポートは本当に素晴らしいですね。

町永 家族には話しにくいことも、第三者だからこそ話せる場合もあるかもしれません。

平田 乳がんの告知を受けた時、娘はまだ小さかったのですが、私は自分のことで精一杯で……。娘に悪かったというその時の思いが残っています。

佐藤 なかなかお子さんには伝えられない思い、いいことばかりでなく、そうしたことを語れる場が必要なんです。

仲間同士で支え合うがんピアサポーター

富山県立中央病院 看護部主幹
乳がん看護認定看護師
酒井 裕美氏
さかい・ひろみ/1979年から富山県立中央病院に勤務。2006年に乳がん看護認定看護師資格取得。がん相談支援センターを経て、看護専門外来で乳がん患者や家族の精神的サポートを行う。

町永 森田さんと平田さんは「がんピアサポーター」として、経験者同士で体験を語り合う活動をされています。

森田 5年前に肺がんの手術をして2年前に再発しました。しかし、治療によって今こんなに元気に過ごせているという自分の経験が、誰かの希望になればという思いから活動を始めました。患者さんには、「同じ経験者だから安心して」という対等な立場で接しています。

平田 どんなに良くしてくださる医療者でも「このつらさはわからない」という思いがぬぐえないことがあります。そんな中、同じ思いを抱える者同士で話をしたり、一緒に時間を過ごすことは、とても力になると感じています。

藤井 がん医療は長期戦。支え合う仲間がいるのは非常に大きなことです。

酒井 患者会やサロンなど、患者さんをめぐる活動はほかにもあります。その中から自分が居心地よく話ができる場所を探せるといいですね。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト
町永 俊雄

佐藤 がんに関わる方々、それぞれの立場を尊重しながら、より良い社会を作っていきたい。その中でも、私は物語の力を信じて医療に取り組んでいきたいと思います。

藤井 日進月歩のがん医療ですが、まだまだ課題はあります。様々な患者さんの声も取り込みながら、また一層、がん克服のために力を尽くしていきたいですね。

VTR

乳がんの手術後の喪失感から引きこもりがちになった女性。ラジオで聞いた乳がん経験者の言葉をきっかけに前向きになり、自分も力になりたいと入院中の患者の相談活動を始めた。初めはとまどっている患者も、女性が話す経験談に少しずつ心を開いていく。

主催:読売新聞社、NHK厚生文化事業団、NHKエンタープライズ
後援:NHK富山放送局 厚生労働省 富山県 富山市 社会福祉法人富山県社会福祉協議会 社会福祉法人富山市社会福祉協議会 公益社団法人富山県医師会 一般社団法人富山県歯科医師会 公益社団法人富山県薬剤師会 公益社団法人富山県看護協会 一般社団法人富山県理学療法士会 公益社団法人富山市医師会 一般社団法人富山市歯科医師会 公益社団法人富山市薬剤師会 富山県民生委員児童委員協議会 富山県自治会連合会 富山県がん診療連携協議会
協賛:株式会社ツムラ

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