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デフレマインド

 「物価はこの先も上昇しない、またはこの先は下がっていく」と考えることで、「デフレ心理」「デフレ期待」とも呼ばれます。デフレ(デフレーション)とは、モノやサービスの価値よりお金の価値の方が高くなる、つまり、モノやサービスの値段が下がる状態をいいます。

 たとえば、財布のなかに1万円があって、店でお気に入りのカバンが1万円で売られているのを見つけました。いつほかの人が買ってしまうかわかりません。しかし、デフレマインドが定着していると、少し待てばカバンは9000円で買えると考え、すぐには買わないでしょう。世の中にデフレマインドが定着していれば、「他の人も同じように考えて、すぐに売れることはない」と考えますから、急いで買わないと売れてしまう心配もしないわけです。

 これは会社でも同じです。会社に余分な資金がある時、新たな工場を作るために設備投資をしても、そこで作った製品が売れなければ投資が無駄になって損をしてしまいます。デフレ下では損するかもしれないリスクを背負ってお金を使って設備を増やすよりも、金庫に入れておくだけでお金の価値は上がります。デフレマインドの下では何もしないのが一番賢いという雰囲気になって、投資は先送りされてしまいがちです。従業員の待遇でも同じです。物価は下がっている(お金の価値は高まっている)のだから、額面上の給料(賃金)も上がらないのが当たり前の時代が長く続いてきたわけです。

 しかし、デフレマインドが定着して消費や投資が先送りされると、値下げして割安感をアピールしないとモノやサービスは売れなくなります。価格が下がると消費者の間では一段と値下げ期待が広がって、さらに消費や投資が手控えられてしまいます。値下げが値下げを呼ぶ悪循環「デフレスパイラル」に至ってしまうと、企業の売り上げは減っていきます。政府や日本銀行が「デフレ脱却」を掲げるのは、デフレが続くと経済が縮小してしまうからです。

 これを防ぐには、世の中に出回るお金の量を増やして、お金の価値よりモノやサービスの値段価値が徐々に高まって、「持っているお金を寝かせておくより、消費や投資に振り向けた方がいい」とみんなが思うようにすることが必要です。

 世の中に出回るお金の量を増やせば、お金の価値がモノやサービスの値段より低くなるだろうと考えた日本銀行は、2013年からこれまでとは次元が違う「異次元の金融緩和」を行ってきました。それでも企業や消費者にいったん染みついたデフレマインドはなかなか消えませんでした。モノやサービスの値段が上がり始めたのは、主に海外から輸入している資源や食料の国際価格が大きく上昇し始めた2年ほど前からです。

デフレマインドと脱却へのイメージ

 先ほどの例でいえば、この2年で消費者からデフレマインドが消え、逆に「店にあるお気に入りのカバンはいずれ値上がりして、1万円では買えなくなってしまうかもしれない」というインフレマインドが生まれてきたわけです。

 もちろん、物価が上がっても給料(賃金)が上がらなければ暮らしを切り詰めることになって、カバンを買うこと自体をあきらめてしまいかねません。そうなると景気は冷え込んでしまいます。政府が賃上げをした企業の法人税を減らし、日銀も植田和男総裁が「物価上昇を上回る賃上げを見極めるまで、今の金融緩和を続ける」と約束しているのは、企業が従業員の賃金を大幅に上げて消費者のデフレマインドを完全に消し去り、物価と賃金がともに上がっていく好循環を生み出そうとしているからです。

 企業の経営者や消費者の心理がデフレからインフレへと切り替われば、企業は新しいモノやサービスをどんどん作り、消費者も買い控えせずにどんどん買うようになることが期待できます。そうなれば世の中にお金が回り、消費者が実感できる形で景気はよくなっていくでしょう。

 今の物価高は暮らしにとっては打撃ですが、デフレから脱却する大きなチャンスとみることもできるわけです。ただ、それには2024年の春闘で、消費者物価の上昇率(3~4%)を上回る率の賃上げが実現することが不可欠といえそうです。