編集委員のキーワード解説 KEYWORD

ネイチャーポジティブ

 生物多様性の損失を止め、回復軌道に反転させる「自然再興」に向けた取り組みをいいます。遅くとも2030年までに生物多様性の損失を反転・回復させること、2050年には自然との共生社会を築くことが世界的に合意されており、地球温暖化対策や消費・廃棄物の削減などへの取り組みが、企業・個人レベルでも本格化していくことになります。

ネイチャーポジティブ グラフ

 われわれの生活は、食料、エネルギー、空気、水などの「自然からの恩み(生態系サービス)」によって支えられています。しかし、人類は今や、自然の回復力、生産力を25%も上回る規模で自然から搾取しているといわれています。

 開発によって森林は減少し、温暖化ガスの増加による気候変動が生育環境の急変をもたらしたことで、動植物の減少や絶滅を招いています。身近な例では、かわいいペットとして持ち込まれた外来種の動物や、花がきれいだと植えられた外来種の植物が野生化し、生態系に深刻な影響を与えつつあります。

 この結果、地球上から動植物が急減しています。世界自然保護基金(WWF)の報告書(2022年版)』によると、1970年から2018年の約半世紀で野生生物の個体群は平均7割、淡水生息域の個体群は平均8割も減ってしまいました。現在は過去1000万年間の平均より数十~数百倍の速さで種が絶滅し、今後も手を打たなければ、今後数十年間でさらに100万種の動植物が絶滅に直面するといわれています。

 気候変動により動植物が育たなくなると、農家はもちろん、食材を運んだり使ったりする輸送業界や飲食業界も打撃を受けます。森林の保水機能が失われれば水不足や水害の多発によって工場の操業も滞ってしまいます。外来種などの影響で天敵がいなくなれば生態系が崩れ、虫害などによる食料不足のリスクも高まります。

 2015年に国連加盟国が合意した17項目のSDGs(持続可能な開発目標)は、「環境・生物圏(Biosphere)」「社会圏(Society)」「経済圏(Economy)」の3つの層に分けられます。この3層構造はウェディングケーキのように見えることから「SDGsウェディングケーキモデル」と呼ばれますが、生物多様性の確保を含む環境・生物圏は、SDGsの基盤になっています。動植物の数を増やすだけでなく、生態系、種、遺伝子の3つの観点から生物多様性を維持できなければ、社会や経済の持続性も確保できないのです。

SDGs ウェディングケーキモデル

 2021年の国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)の閣僚級会合で、遅くとも2030年までにネーチャーポジティブを実現すると明記した「昆明宣言」が採択され、その翌年には「2030年までに陸と海の30%以上を保全する」という具体的な目標「30by30」も定められました。

 生物多様性などのサステナビリティ活動に取り組まない企業は投資や融資が受けにくくなり、株主や顧客の評価も下がってしまいます。中小企業も含め、生物多様性を含めた自然との共生が求められる時代になったといえるでしょう。

(読売新聞東京本社編集委員 丸山淳一)