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有事の金買い

 米国とイスラエルがイランを攻撃したことで、株価や金の価格が乱高下しています。田中貴金属工業の金地金の店頭価格は3月2日、一時1グラム3万円を超え、史上最高値をつけました。しかし、3月4日には一転して、一時前日比で1200円以上下げるなど、価格は乱高下しています。これは日本の需給に連動したものではなく、世界の金相場を決めているロンドンとニューヨークでの金相場が反映された結果です。

 希少性が高い金は世界中でその価値を認められた「無国籍通貨」ともいわれています。世界情勢が不安定になると、手持ちの資金を一時的に安全な資産である金に避難させる「有事の金買い」と呼ばれる動きが強まります。
 為替相場では、「有事のドル買い」も進みます。米国のイラン攻撃以降、ドルは円やユーロに対して値を上げています。どちらも有事には買われますが、今回の米国のイラン攻撃以降、ドルが買われて金が売られる局面もありました。有事に金よりドルが買われたのは、米国の強さの表れというより、金利動向が影響しているようです。
 金は究極の安定資産といわれますが、債券や預貯金とは違って金利がつきません。米国のイラン攻撃で原油価格が高騰し、インフレ懸念が高まった結果、米国では利下げが遅れるという見方が強まりました。利下げが遅れれば、金利がつかない金より高い金利で運用できるドルの方がもうけやすい、という見方が投資家の間に広がったとみられます。
 ただ、インフレが長期化すれば、再び金が買い直される可能性もあります。インフレで通貨の価値は目減りしますが、実物資産の金は、インフレによる価値の目減りがない「価値の保管庫」でもあるからです。
 金の国際調査機関「ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)」によると、2025年の金の総需要は過去最高の5002トンでした。貴金属店で売られる金の延べ棒(金地金)や、金で資金を運用する投資信託などの「投資」の需要が前年の約1.8倍に達しています。

 このあおりで中央銀行が外貨準備のために購入した金や、宝飾品の需要は減少しましたが、産業用需要はほぼ横ばいでした。
 金は腐食に強く、電気伝導性と耐久性に優れていることから、スマートフォンの基板やICチップ、医療機器などに幅広く使われています。AI(人工知能)の普及で、産業用需要は今後も高まるとみられ、投機的な投資が収まっても根強い需要があります。長期的な視点で見れば、さらに金価格が上昇する可能性は十分にあります。個人で資産として金を持つ場合は、短期的な価格の乱高下に惑わされず、余裕資金を使って長期保有を想定しておくべきでしょう。

(読売新聞東京本社編集委員 丸山淳一)