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責任ある積極財政

 高市首相が自身の経済政策「サナエノミクス」の柱として推進する政策です。政府支出を抑えて財政赤字を削減するより、財政の健全性に配慮しつつ、政府支出を増やして成長が期待できる分野に投資し、経済成長を目指しています。
 これまでのように規制緩和や税制上の優遇などで民間の投資を促すのではなく、政府が自ら成長分野に投資するのが特徴です。投資先としては、半導体やAI(人工知能)、エネルギー、防衛など、経済安全保障や危機管理に関する17分野があがっており、分野ごとに成長に向けた問題点の洗い出しや官民協力のあり方、工程表作りなどが進んでいます。

 17分野を成長させるには重点的かつ継続的な投資が必要になります。政府の予算は単年度主義で、しかも財政健全化の指標として「プライマリーバランス(PB)」が重視されてきました。PBは毎年の予算でさまざまな政策に使う支出を、新たな借金をせずに賄えているかどうかを示す指標で、年度をまたいだ継続的な投資がしにくくなるという声がありました。
 
 高市首相はPBを財政健全化の指標とせず、「政府債務の対GDP比」の複数年度にわたる推移を指標とする方針を表明しました。政府債務は国が抱える借金の総額、GDP(国内総生産、名目値)は国民が稼いだお金の総額です。政府債務の対GDP比は国の借金をGDPで割ることで算出され、小さいほど財政が健全ということになります。「責任ある積極財政」の「責任」は、この数字を一定の限度内に収めることを意味します。

 この数字を低く抑えるには、分母のGDPを大きくするか、分子の政府債務を小さくすることが必要です。財政規律を重視する人は、まず分子を小さくすれば財政は安定し、先行きの不透明感が消えることで投資や消費は増えると主張します。しかし、高市首相ら積極財政派は、まず分母を大きくすれば経済成長によって税収が増え、いずれ財政は安定すると考え、成長分野への重点投資によってGDPを押し上げようとしています。
 財政規律を重視するあまり、打つべき手を打たずに先細りになるより、財政に配慮しつつ成長分野に投資して経済成長のエンジンにしていくべきだ、という考え方はただちに間違いとはいえません。ただ、目論見どおりに成長分野が育たなければ財政がさらに悪化するだけです。投資の効果が出ずに追加投資を続ければ傷口はどんどん広がります。GDPが拡大する前に、急激な金利上昇や円の暴落などが起きてしまいかねません。

 高市首相は「政府債務」のうち、政府の債務の総額から、公的年金の積立金や外貨準備など政府が管理する金融資産を差し引いた「政府純債務」を指標に使う方針です。主要7か国(G7)の中で日本の政府総債務のGDP比は突出して高くなっていますが、純債務のGDP比はイタリアと大きく違わず、「財政支出を増やしても問題ない」と説明できるからでしょう。
 しかし、年金積立金や外貨準備には別の使い道があり、政府の借金返済に流用することはできませんから、これらを国の借金から差し引くことには疑問の声があります。成長17分野への投資が適正に行われるかどうかも含め、高市首相が本当に「責任ある」財政運営をしていけるかどうか、注視していくことが必要です。

(読売新聞東京本社編集委員 丸山淳一)