広告企画・制作 読売新聞社イノベーション本部

タイアップ TIE-IN

「日本のスポーツ産業 成長のカギは?」
日本政策投資銀行 調査・研究本部 
産業調査部長 宮川暁世氏に聞く

スポーツ産業について語る宮川暁世氏
スポーツ産業について語る宮川暁世氏

 日本のスポーツ産業は各地でのプロリーグの活性化やアリーナ、スタジアム建設を背景に盛り上がりを見せている。とりわけ「みる」スポーツの成長余地は大きく、政府は日本全体のスポーツ産業の市場規模を2030年までに15兆円に拡大する目標を掲げる。投資の呼び込みや産業化の推進は、日本経済にとって新たな成長戦略の柱となりうる。日本政策投資銀行(DBJ)調査・研究本部産業調査部長の宮川暁世氏に、日本のスポーツ産業が成長するためのカギについて尋ねた。

■始まりは「地方創生」

――DBJがスポーツ産業に注目したきっかけは。

 出発点は地方創生の文脈でした。人口減少で税収が縮み、産業が痩せ、自治体の予算制約も強まっています。その中で、アリーナやスタジアムを核に周辺に病院やオフィスなどの機能を集約し、街の再編――いわゆるコンパクトシティ—を進める構想を練りました。

 アリーナは興行に加え、防災・避難所など公的機能も持ちえます。私たちは当時、そうした複合機能を「スマート・ベニュー」と名付け、地域インフラの再設計に資する装置としてスポーツに着目しました。

――「みる」スポーツをどう伸ばすか。

 日本のスポーツ産業の市場規模は2021年時点で10兆円とされていますが、測り方に工夫が必要だと受け止めています。国はスポーツ産業の拡大を掲げていますが、真の規模を捉えるには「生産・消費・雇用」の3面を揃えて評価する必要があります。DBJで統計を取っていますが、スポーツは教育や医療、観光、メディア、アパレルなど多産業にまたがり、統計の設計が大変難しい産業です。

スポーツ市場規模の推移

(出典)スポーツ庁・経済産業省「第2期スポーツ未来開拓会議とりまとめ」
(出典)スポーツ庁・経済産業省「第2期スポーツ未来開拓会議とりまとめ」

 DBJは、生産面の推計を継続しつつ、本来は消費や雇用も含めた計測を高度化すべきだと考えています。

 この観点では、海外のアプローチは示唆に富んでいます。例えば、英国では公的資金の投入先ごとに「消費は増えたか」「雇用は生まれたか」などを実証評価する動きが進んでいます。投資と効果のひも付けを定量的に示すことが、成長資金の呼び込みにつながります。

――米欧との産業構造の違いは。

 米国は規模が桁違いで、スポーツにファンドマネーが流入し、外部資金で成長循環を回しています。日本は依然としてマネタイズが難しく、間接金融・企業の投資の双方の資金流入が限定的です。

 英国では、サッカーのプレミアリーグの放映権の価値が高く、リーグ全体に収入を循環させ、競争環境を担保する仕組みが機能しています。人気チームの一点豪華主義に寄り過ぎず、価値を分配してリーグの魅力を底上げする構造が、ファンの拡大につながっています。資金の見える流れが、産業としての持続性を高めています。

■国内のリーグ改革とアリーナ新設、好循環の芽

――国内の動きは。

 ここ数年、改革が加速しています。バスケットボールのBリーグは次期シーズンに大幅な制度改革を行います。これまでの成績による昇降格をなくし、「観客動員数」や「事業性」を重視する方針へと転換します。SNSの活用やファンの獲得施策が事業成果や投資促進に直結する新たな枠組みが導入されます。

 サッカーのJリーグは秋春制移行で欧州と同周期になり、国際競争力やビジネスの接続性が高まる期待があります。バレーボールのSVリーグも世界最高峰を掲げ、東南アジアを含む広域人気が追い風となっています。

 プロの盛り上がりがジュニア層・審判・指導者など「支える人材」に波及し、裾野と質を同時に引き上げています。漫画・アニメなどカルチャー発のブームも競技人口やスクール需要を押し上げ、周辺産業の経済効果につながっています。

■愛知・IGアリーナに見る「民間の力」の設計

具体的な事例について説明する宮川氏
具体的な事例について説明する宮川氏

――DBJが関わる事例は。

 直近では愛知県の「IGアリーナ」で、PFIのBT方式(設計・建設・資金調達を民間が担い、完成後に自治体へ所有権を移転する仕組み)とコンセッション(運営権設定)を組み合わせる方式に関与しました。スポーツだけで365日を埋めるのは難しいものです。だからこそ、施設の収益性を高めるにあたり、人気コンサートなどを含む多用途のイベントを前提にした設計・運営ノウハウが必要です。

 ファンデータを基に適切なタイミングでサービスを提案し、観戦以外の消費機会を設計する体制が整えば、外部資金が入りやすくなります。DBJとしても投融資や情報発信で産業構造の転換を後押ししたいと考えています。

――クラブチームに資金をどう供給できるのか。


 従来の日本は、親会社スポンサーによる広告費負担が中心でした。黒字を前提とせず、宣伝・CSRの一環というモデルです。しかし、近年は変わってきています。横浜DeNAベイスターズはファンサービスの強化や観戦体験の向上などの構造改革を図り、30~40億円規模の黒字を球団単体で計上するまでになりました。

 ファンマーケティングやデータ活用に投資し、観戦以外の消費行動も設計しています。こうしたクラブには外部資金も入りやすいです。海外では、クラブやリーグ自体が成長資金を獲得し、それを再投資する循環ができています。日本も同様に、クラブ単体の収益性を高めること、そして外部の成長資金を供給する仕組みを整えることが課題です。

――スポーツ産業の地域経済への影響は。

 試合が開催されると遠征してきたサポーターが宿泊や飲食、交通機関を利用します。物販やお土産の消費も加わり、地域に直接的な経済効果をもたらします。クラブチームがあればスクールや下部組織が整備され、地元の子どもたちが参加する機会も生まれます。

 こうして「地域に根差すスポーツ」が経済循環と人材育成の双方を支えます。スタジアムやアリーナは、単なる競技空間ではなく街の拠点になりうる存在です。周辺エリアと連携し観光、教育、医療、防災といった機能と結び付けていくことが、地域の活性化に直結します。

■スポーツ市場規模15兆円を目指すには。

――産業成長に必要な条件は。

 まずは「経済的価値」の見える化です。観客動員数や放映権収入、スポンサー収入など直接的な数字はわかりやすい指標です。加えて、スポーツが地域に多くの社会的な効果を生み出していることも重要なポイントです。

 DBJでは、スタジアムやアリーナがもたらす幸福度を「いくら払う価値があるか」という観点から測定するアンケートなどを通じて、「社会的価値」の定量化に取り組んでいます。回答者の主観に基づくという課題はありますが、今後はより客観的に定量化し、利用者が活用しやすい形でまとめていきたいと考えています。

 また、健康増進による医療費削減や教育効果なども含め、経済的価値と社会的価値の両面を可視化することで、投資家・金融機関・企業の理解が深まり、資金循環の強化につながります。

――さらに投資を呼び込むには。

 まず、日本の課題を共通言語化することです。議論の土台が整えば、資金や人材の動きが変わります。スポーツに関わっていない企業にも、スポーツは一つの産業として十分にビジネスの可能性を持っていることを知ってもらいたいと考えています。

 DBJは自らの投融資に加え、他の金融機関や事業会社が「スポーツは投資に値する」と判断できるよう統計・事例・資金循環の情報発信などに力を入れています。最終的には、チームやリーグが自立的に成長資金を調達・活用できる市場を育てることが目標です。

――政府目標の15兆円市場に向けて。

 現状は2021年時点で10兆円規模でありまだ道半ばですが、伸びしろは大きいです。「みる」スポーツの成長がカギを握ります。リーグの制度改革やスタジアム・アリーナの高度化など、ソフト・ハード両面での挑戦が始まっています。

 重要なのは、スポーツが「儲かる産業だから投資する」だけでなく、「経済と社会に幅広い価値を生む存在」として認識されることです。そうなれば資金は流れ込み、成長は加速するでしょう。DBJとしても、調査・投融資・情報発信を通じて、この循環を後押ししていきたいと考えています。

■書籍「スポーツビジネス成長論」を刊行

発刊した本を手にする宮川氏
発刊した本を手にする宮川氏

――新刊について紹介してください。

 今年8月にDBJとして、「スポーツビジネス成長論: 各国の歩みと資金循環構造の分析から日本のスポーツビジネスの成長可能性を考える」という書籍を刊行しました。本書では、日本市場と欧米各国市場との比較や、各国でスポーツビジネスがどのように発展してきたのかを紹介しながら、今後の日本の成長可能性を考察しています。

 また、ここまで話してきたような日本のスポーツ産業界の課題についても提言をさせていただいています。ぜひ、スポーツに興味がある方に幅広く手に取っていただきたいと思います。

判型:A5判、ページ数:294p、編著:日本政策投資銀行、発行:ダイヤモンド・ビジネス企画
判型:A5判、ページ数:294p、編著:日本政策投資銀行、発行:ダイヤモンド・ビジネス企画