絹谷私は大学卒業以来38年間、一貫して核医学治療に携わってきました。核医学治療とは、放射線治療の一つです。放射線治療と聞いて皆さんがイメージするのは、外部照射によるものだと思いますが、核医学治療は、放射性物質を含むお薬を静脈注射もしくは経口で投与し、体の内部から治療を行います。
角僕は10年前、58歳の時に前立腺がんと告知されました。世間に公表したこともあって知人からさまざまな情報が寄せられ、その中から最終的に選んだのが、外から360度高精度な放射線を照射するトモセラピーという治療法で、現在は完治しています。当時、核医学治療というのは聞かなかったですね。「核」と聞くと、ちょっと怖い気もしますけど…。
絹谷どうしても言葉のイメージがね。でも、いろいろと優れた点もある治療法なんです。最近、分子標的薬といって、がん細胞に的を絞って攻撃し、体への負担が少ない治療薬が出てきていますよね。核医学も同様で、薬が病変に集まりCTやMRIのように光るので、病巣が一目で判断できます。利点の一つは、そのように病変に集まることで、その患者さんが核医学治療に適応があるかどうか治療前に分かること。もう一つの利点は、従来の薬物療法と比べ、副作用が少ないことです。
天野一般的にはまだあまり知られていませんけど、核医学治療を必要とする患者さんの間では非常に注目されていますよね。
絹谷そうですね。近年、どの治療にも奏功しなかった前立腺がんに効果を示すなど核医学治療の効果が報告され、海外ではすでに承認されています。
角僕の前立腺がんの進行度は中間リスクで、最初の病院では手術しかないと言われました。でも、自分の仕事や生活を考えると、入院は避けたい。それで、別の病院で放射線治療の選択肢についても話を聞きました。その中でトモセラピーを知り、すぐに治療を開始できること、治療期間が短いことから自分に合っていると思い、切り替えました。
天野今、がん治療は手術と放射線治療、薬物療法と3つあります。私も薬物療法と放射線治療を経験しましたが、患者さんがよく言うのは、ある治療法を担当する医師が必ずしもほかの治療法に詳しいわけではないということです。医師ですから、もちろん私たちよりは詳しいけれども、やはりいろいろな意見を聞くことが重要かなと。
絹谷耳の痛いご指摘で、さまざまな治療選択肢があることを医療者がしっかり情報発信しないといけませんよね。核医学治療においても、認知拡大は課題だと感じています。それ以外にも、放射線治療病室の新設や維持管理に必要な費用が高く病床がなかなか増えないことや、治療薬の承認が遅れていることなども大きなポイントとして挙げられます。それでも、我々医療者や天野さんたち患者会の働きかけにより状況は改善されつつあります。
天野前立腺がん患者さんの中には、海外で核医学治療を受けている方もいますから、一日も早い実現が待たれますね。今、がん治療にはさまざまな選択肢があり、確かに患者さんはすごく迷います。でも、患者さんが自分の病状やQOL(生活の質)、治療費などを考えて一番適切な治療法を選択するには、手持ちのカードは多ければ多いほどいい。
角確かに治療費の問題もありますね。あと、僕らがいくら調べても所詮(しょせん)素人です。なので、やはりさまざまな治療選択肢について専門家である医師の意見やアドバイスをきちんと聞くことですよね。
絹谷今、医療はものすごいスピードで進歩しています。以前は治療法のなかったがんでも治癒できたり、がんがあっても健康に暮らせたりする時代です。経過観察中に新しい治療法が出てくるかもしれません。朗らかに暮らすのと嘆き悲しむのとでは、朗らかに暮らすほうが免疫力の面でもQOLの面でも良いでしょうから、がん患者の皆さんには「諦めないで」とお伝えしたいですね。
角「がんなのに、なぜそんなに明るいの」とよく言われましたが、考え方ひとつだと思うんです。僕が野球人だからかもしれませんが、ピンチの時にふさぎ込んでいいことなんてない。それなら、現実を受け止めて考え方を切り替えたほうがいい。皆さんもどうか前向きにしっかり考えて、自分に合った治療法を選んでほしいと思います。
天野この10年の間にも核医学治療を含め、どんどん新しい治療が誕生しています。診療ガイドラインも1年たてば古くなるような時代ですから、SNSなどの情報だけに頼らず、専門医とよく相談し、必要であればセカンドオピニオンも聞いて、どうか悔いのない選択をしていただきたいなと思います。
絹谷核医学治療は、今は限られたがんのみの適応ですが、近い将来、さまざまながんや、早期に利用できる治療になっていくことを期待しています。