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自己免疫異常によって起こる 指定難病ITP(免疫性血小板減少症)を知っていますか? 自己免疫異常によって起こる 指定難病ITP(免疫性血小板減少症)を知っていますか?

CROSS TALK 山之内 純先生(愛媛大学医学部附属病院 輸血・細胞治療部 特任教授) 小浦 和也さん(プロゴルファー/ITP患者) CROSS TALK 山之内 純先生(愛媛大学医学部附属病院 輸血・細胞治療部 特任教授) 小浦 和也さん(プロゴルファー/ITP患者)

免疫性血小板減少症(以下「ITP」)は、免疫の異常により出血を止める役割を担う血小板が著しく減少してしまう自己免疫疾患で、指定難病に登録されています。かつては「特発性」と呼ばれ原因不明とされていましたが、近年、免疫の異常の関与が徐々に明らかになってきました。しかし、発症の根本的な原因はいまも解明されていません。出血症状やQOL(生活の質)の低下など、患者さんによって症状の現れ方がさまざまなITPへの理解を深めるため、医師で愛媛大学医学部附属病院 特任教授の山之内 純先生と、プロゴルフ選手でITP当事者でもある小浦 和也さんにお話をお聞きしました。

山之内 純先生 愛媛大学医学部附属病院輸血・細胞治療部 特任教授 山之内 純先生 愛媛大学医学部附属病院輸血・細胞治療部 特任教授
(やまのうち・じゅん)1995年、愛媛大学医学部医学科卒業。愛媛大学医学部附属病院第一内科を経て、松山赤十字病院や国立療養所南愛媛病院などで臨床医として勤務。2003年から2年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、愛媛大学医学部第一内科で助手・講師を務め、19年に附属病院輸血部長に就任。22年より現職。血小板や血液凝固の研究・診療にあたる。

ITPとは、どんな病気?

――ITPとは、どのような病気なのでしょうか。

山之内血液中には、出血を止める役割を担う血小板という成分があります。ITPは、自己免疫の異常によって、本来身体を守るはずの抗体が誤って血小板を攻撃・破壊してしまう病気です。その結果、通常は15万〜40万個/μL(マイクロリットル)ある血小板が大きく減少し、出血しやすい状態になります。ぶつけた覚えがないのに皮膚に紫斑(赤紫色のあざ)や点状出血(赤く細かい点状の内出血)がみられたり、鼻血や口の中の出血が止まりにくくなったりといった症状が現れるのが特徴です。発症の原因はわかっていません。
病型は二つあります。主に風邪などの感染症をきっかけに発症し、数ヶ月以内に自然に治る急性型と、原因不明のまま血小板の減少が長期間、ときには生涯続く慢性型です。急性型は小児に多く、慢性型は成人に多い傾向があります。
ITPは、自然に治る急性型や無症状の軽症例も多いうえ、他の病気との鑑別も難しく、正確な患者数は把握できていません。ただ、難病申請をしている慢性の患者さんを中心に、国内で約2万5000人~3万人(※)と推計されています。

――小浦さんは、すでにゴルフ選手として競技活動されていた大学生時代にITPを発症されたそうですね。

小浦大学1年の冬でした。打ったりぶつけたりした記憶がないのに、身体のあちこちにあざができて「なんかおかしいな」と。鼻血が止まらなくなって救急病院で処置してもらうこともありました。ちょうど翌月に大学の健康診断があり、その結果ですぐに精密検査を受けるよう言われました。
でも、ITPと診断されるまでに半年ほどかかりました。最初は白血病ではないかということで骨髄検査を受け、白血病ではないとわかると、今度はピロリ菌検査をすることになって……。

山之内血小板の数値が低下する病気は、いろいろあります。ITPは、他の病気ではないことを一つ一つ確認していく「除外診断」で診断されますから、どうしても時間がかかってしまいます。特に小浦さんのように19歳であれば、まず白血病を見逃すわけにはいきません。
紫斑が出る程度なら命に関わることはほとんどありませんが、最も注意すべきは脳出血です。ですから小さなお子さんの場合は、リスクを避けるために早期に血小板を増やす治療を始めることもあります。成人では薬の副作用の影響も考慮しながら、診断を見極めたうえで治療方針を決めていきます。ちなみに、小浦さんはその当時、血小板数はどのくらいでした?

小浦1万5000~2万個/μLでした。

山之内なるほど。症状の出方は血小板の数値だけでは測れず、人によってさまざまなのですが、一般的に2万個/μLあたりが治療するかしないかの目安になります。

小浦診断された時は、ナショナルチームに選出され、国際大会への出場も控えていた時期で、とにかく競技を続けられるかどうかが一番心配でした。治療によってドーピング規定に触れてしまうことも気がかりだったので、僕の場合は治療を行わず、経過観察することになりました。主治医も「ゴルフは接触スポーツではないので、続けていいよ」と。ただ、「頭への打球事故だけは気を付けるように」と言われました。
当時は、あざが出たり、肌を搔いた時に赤い点々の内出血が出たりといったことはありましたが、それ以外の自覚症状はほとんどなかったです。痛くも苦しくもないし、ごはんも普通に食べられる。それだけに、診断された時は驚きつつも「大した病気ではないのでは」ぐらいに考えていました。

山之内健康診断の血液検査で血小板の数値の異常を指摘され、そこで初めて気づく方は多いですね。あとは紫斑や点状出血が現れて皮膚科を受診し、「これは皮膚そのものの病気ではない」と分かって内科につながるケースもよくあります。海外では倦怠感けんたいかんやお仕事を長時間できなくなってしまうこと、治療中における心理的影響も症状の一つとして報告されていますが、日本人の場合は、日常の疲れと見分けがつかないのか、ご本人も気づかないことが多いようです。

(※)森下英理子: 炎症と免疫. 2022; 30: 186-191.

小浦 和也さん プロゴルファー/ITP患者 小浦 和也さん プロゴルファー/ITP患者
(こうら・かずや)1993年宮崎県生まれ。日章学園高等学校から専修大学に進み、学生時代に朝日杯日本学生を2度制覇、日本オープンでは2年連続ローアマを獲得する。大学2年時にITPと診断される。2014年にプロに転向(15年ツアーデビュー)したが、19年に治療に専念するため休養。回復後は結果を出し始め、23年に初シードを獲得。24年には自己ベスト63をマークした。

ITPの治療法と、
小浦さんの病との向き合い方

――一般に、ITPの治療はどのようなものになりますか。

山之内大きく二つの方法があります。一つは、血小板を攻撃してしまう抗体の働きを抑える方法です。ITPは自己免疫の異常による病気ですから、この抗体を抑え込むことで血小板が壊されるのを食い止めます。もう一つの方法は、骨髄を刺激して血小板の産生を促す方法です。近年はさまざまな薬が開発されていますので、患者さんの状態や副作用の出方をみながら、適切な薬を選び、治療を進めていきます。

――小浦さんは、その後、どのような経過をたどったのでしょうか。

小浦大学時代は血小板数も安定していたので治療せずに済んでいたのですが、プロ入りして数年後の2019年に、血小板数が急に7000個/μLぐらいに低下しました。すぐに投薬治療を始めたものの、僕にはあまり効かなくて……。エントリーしていた試合も初日は出場できたのですが、翌日からはとても無理で、初めて棄権することになりました。その後も数値が下がり続けたため、地元である宮崎県の病院に入院して本格的に治療に専念することになりました。
当時はゴルフ選手として脂が乗っていた時期でもあったので、この時の治療は心身共に本当につらかったですね。顔や手がむくんだり倦怠感に見舞われたりと、思うようなコンディションを維持できない日が続き、引退も考えました。ゴルフ以外してこなかった僕にとって、ゴルフのない人生は想像もつかず、将来への不安は大きかったです。今の妻とは当時まだ交際中でしたが、先の読めない状況から別れを覚悟したこともありました。

――そんな厳しい状況をどう乗り越えられたのでしょうか。

小浦あれだけ遠征で飛び回っていた生活がピタッと止まり、時間だけはできたので、病気との向き合い方や、生き方について書かれた本をたくさん読みました。ゴルフを教えてくれた父から、どんな挫折も乗り越えて前を向くよう厳しく育てられたこともあり、「ここで逃げたらいけない」という気持ちはありました。
やがて、気を付けて付き合えば、ITPは必ずしも命に関わる病気ではないとわかってきて、「生きていれば何とかなる」と思えるようになりました。「こんな経験、なかなかできないぞ」と考え直したりもしましたね。病気になったことで人の痛みに気づけるようになり、ものの見方も変わりました。今では、僕にとって必要なことだったなと思っています。
現在も定期的な血液検査は欠かさず受けていますが、血小板数は2万~5万個/μLぐらいで安定しています。

ITPと上手に付き合い、
その人らしく生きるために

――日常生活において、ITP患者さんが気を付けたいことを教えてください。また、悪化のサインを見逃さないようにするにはどうしたら良いですか。

山之内日常生活では、まず出血につながるようなケガをしないこと。それから、風邪などの感染症が血小板減少の引き金になることがあるので、手洗いなど、できる範囲で予防を心がけていただきたいです。
血小板の数は、安定している時期でも急に減少することがあります。日常生活の中では、皮膚に点状の出血がないか、紫斑の出方、口の中の出血の有無、便の色などをご自身でチェックしていただくことが大切です。女性の患者さんの場合は、過多月経にも注意が必要で、私たち医師の側からも、貧血の症状がないかを定期的に伺うようにしています。

小浦ケガや頭への打球に気を付けるのはもちろんですが、僕の場合、意外と神経を使うのがマダニです。マダニが媒介するウイルスに感染すると、やはり良くないですよね。

山之内そうですね。マダニに限らず、感染症に感染すると、血小板が減ってしまいますので、ぜひ気を付けてください。

小浦なので、ゴルフコースでも山や林のほうにはできるだけ入らないようにしています。ボールが曲がっても深追いはしませんし、短パンもはかないようにしています。

――最後に、同じ病気と向き合う患者さんやそのご家族へ、お二人からメッセージをお願いします。

小浦治らないと言われている病気ですから、不安になるのは当然だと思います。でも、いいことも悪いことも、受け入れて前を向くしかない。僕の場合は、妻が「生きてるだけでいいやん」と言ってくれたことにも、ずいぶん救われました。
また、主治医とよくコミュニケーションをとることもすごく大事だと思います。僕のキャリアを考慮して、治療のタイミングなどを考えてくださったことは本当にありがたかったです。

山之内血糖値や血圧を手軽に測れるように、血小板数も患者さんご自身で簡単に測定できる機器があればいいのにと願っていますが、今のところ血液検査でしかわかりません。ですから、ご自身の身体を日ごろからよく観察して、出血のサインに気づいたら、いつでも早めに医師に相談していただきたいと思います。
ITPは、正しく付き合っていけば、日常生活はもちろん、小浦さんのように第一線で活動を続けることも十分に可能な病気です。まずは正しい知識を持っていただくことが、患者さんにとっても、周囲の方にとっても、大きな安心につながります。長く付き合っていく病気だからこそ、その人らしい生き方を続けられるよう、私たち医師もできる限りお手伝いしていきたいと考えています。

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