読売新聞が創刊150周年を記念して始めたプロジェクト「人生適パ!」。心身の適切なパフォーマンスを目指す中、その土台となる「朝ごはん」を起点とした様々な取り組みが始まっている。読売新聞が農林水産省と連携して、2025年秋から始めた「朝から日本を考える。」企画もその一つ。「朝食抜き」のライフスタイルを改めることで、社会全体を健やかで前向きに変えていくことを目標にしている。この取り組みに賛同して、プロジェクトの特別アドバイザーに就任する柴田重信早稲田大学名誉教授(薬学博士)に、時間栄養学の観点から朝食を規則正しく摂ることの大切さについて話を聞いた。
「人生適パ!」プロジェクトで目指す未来は、人間らしい生活が回復へと導いてくれる元気いっぱいの適パフォーマンス社会だ。そのために注目したのが「朝ごはん」。忙しさに追われ、生活リズムが乱れ、疲れがたまっていく負の循環を、朝ごはんを食べることで断ち切り、正の循環に変えていく。朝ごはんを食べる→疲労感の軽減→パフォーマンス向上→好(い)い加減な状態=余白の回復→生活リズムが整う。これらの要素が、朝ごはんを起点に循環することで、適パフォーマンス社会の実現が可能となる。
一方、農林水産省も、身近な食生活を通して、日本の食や農業を巡る事情や課題について考える官民協働の国民運動「食から日本を考える。ニッポンフードシフト」を展開してきた。これまでコンテンツとして「カレー」「餃子」「おにぎり」を取り上げてきたのに続き、昨秋から「朝ごはんから日本を考える。」と題して、「朝ごはん」に関する様々な情報を発信。読売新聞はその推進パートナーとして、「朝から日本を考える。」プロジェクトを始めた。これらの取り組みに共感した旭化成ホームプロダクツ、カルビー、そして一般社団法人おにぎり協会がこのプロジェクトに参画している。
もっとも、朝食の大切さは広く知られていない。カルビーが2025年4月に発表した「朝食白書」によると、日本人のおよそ4人に1人が朝食を抜いている。「これでは多くの人が生活リズムを壊してしまいます」と柴田教授は話す。柴田教授は2013年に、体内時計と食と栄養の相互関係を明らかにする時間栄養学を提唱。健康のためには「何を食べるか」だけでなく、「いつ食べるか」も重要な要素と指摘する。
柴田教授によると、1日が24時間であるのに対し、生活のリズムを刻む体内時計は1日24・5時間の周期で動いている。そのズレを、体内時計をリセットすることで調整する。体内時計は、脳の視床下部にある「主時計」と、体の末梢臓器に存在する「副時計」からなり、主時計は光の刺激によってリセットされ、副時計を目覚めさせるためには食事が大きな役割を果たす。「朝食を抜いてしまうと、脳が朝の光で目覚めているのに、ほかの部分が眠ったままで、時差ボケのような状態になってしまう」と柴田教授は指摘する。さらにその状態を放置したままにすると、肥満や心疾患などの発症リスクが高まる可能性もあるという。
「そうしたリスクを避けるためにも、朝食は是非摂ってほしい」と柴田教授は話す。一日に必要なエネルギーを蓄え、体内時計のズレを調整するための重要な機会だからだ。その上で、食べる時間は起床後1時間がベストだという。そして、意外だったが、白米のような血糖値の上昇速度の速い食品が朝食にはよいという。血糖値が上がることで、インスリンが分泌され、末梢臓器にある副時計が動きやすくなるからだ。理由は不明だが、和食を摂る人に朝型が多いこととも関連するかもしれない。反対に、昼食や夕食では玄米や色の付いた主食を選び、血糖値の上昇を抑えた方が健康にいいという。
さらに牛乳や納豆のような良質なタンパク質を摂るのも朝食が絶好のタイミングだという。また、イワシやマグロなど、DHAやEPAなどが含まれる魚も体内時計の調整に効果的であることがわかっているという。「特 にごはんと一緒に食べることでリセット効果が高くなります」と柴田教授。朝カレーのように香辛料を使った料理も、体を目覚めさせてくれるのに向いているメニューだという。また、どうしても朝食にタンパク摂取が少ない人が多いが、高齢者に乳タンパク質10gを3ヶ月摂ってもらうと、夕に比較して朝では筋量が増大した。
柴田教授自身、毎朝5時前後に起きて散歩をし、それからご飯に味噌汁、そして納豆に生野菜といった和の朝食を摂ることがルーティーンとなっている。外出時の昼食は奥さんの作ってくれる弁当。麦を交ぜたごはんに肉のおかずや野菜がたっぷり詰められているという。夜は和食を中心に、午後6時半以降は食べないようにしている。「(時間栄養学の観点から)夕食から朝食の間を12時間空けるのが理想だからです」と柴田教授は話す。こうした食生活を続けていることもあって、70代前半の柴田教授は健康診断でこれまで一度も再検査の通知を受けたことがないという。
朝食を食べる習慣のない人は、朝起きて白湯やお茶を飲むことから始めてもいい。「それが胃腸のアイドリングとなります」。次はゼリー状の栄養補助食やミルクたっぷりのカフェオレを楽しんでもいい。朝、「飲む」から「食べる」に段階的に移行していくことが大切だという。朝食は体内時計をリセットしてくれるだけでなく、筋肉を付けるためにも大きな役割を果たしており、当然、午前中から仕事や勉強の生産性を上げてくれ、いいことずくめだという。「だから、もっと朝食の効用が広く知られてもいい」と柴田教授は話す。そのためにも「朝から日本を考える。」プロジェクトで始まった様々な取り組みに、柴田教授は大きな期待を寄せている。
柴田重信 1953年生まれ。早稲田大学名誉教授、広島大学医系科学研究科特命教授、愛国学園短期大学特任教授。時間栄養学を提唱し、日本時間栄養学会を設立。著書に『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門 体内時計が左右する肥満、老化、生活習慣病』(講談社ブルーバックス)など、多数。
