We Are Lilly―― ─描く未来と新たな挑戦、次の150年へ─
坂口 佐知(写真左)
日本イーライリリー株式会社
研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部
チーフメディカルオフィサー
宮田 裕章氏(写真右)
慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室 教授
世界同時の新薬開発。
――失敗を恐れずに挑む、健康長寿社会への投資
第3回は、慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏をゲストに迎え、研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部の坂口佐知チーフメディカルオフィサーとともに、リリーの研究開発への取り組みを語り合いました。
小児科の臨床医から転身。
根底にある「患者さんのために」
私は約15年間、小児がんを専門とする小児科医として臨床に携わり、うち3年はカナダの小児病院で勤務しました。そこで小児領域でも数多くの臨床試験(治験)が行われている現実を知り、「なぜ日本では小児薬の開発が進まないのか」と疑問を抱いたんです。そんな折、先に日本イーライリリーに入社していた元同僚から「小児用医薬品の開発を一緒に進めてみないか」と声をかけられ、飛び込みました。10年ほど前のことです。
さまざまな臨床医の先生とお付き合いがありますが、小児領域には、ほかの診療科とは違う切実さがあります。少子化のなかで患者数は限られる一方、社会からの期待は大きく、開発の難易度も高い。決して簡単ではない領域です。
まさにそのとおりで、小児領域では、海外ですでに使われている薬が日本では使えるようになるまで時間がかかる「ドラッグラグ」や、そもそも日本に入ってこない「ドラッグロス」の問題が大きく、リリーでもその解消に力を注いでいます。ただ、これは小児領域に限った話ではありません。どの領域でも、どの部門の社員でも、根底にあるのはいつも「必要とされる患者さんのために何ができるか」という問いであり、それがリリーの軸になっています。
その問いを全社で共有しているんですね。実は私自身も、データを生かして科学的に「社会をどう良くしていくか」を常に問いの中心に置いてきました。
宮田さんは、新生児手術の経験数と病院の規模との関係を調べるデータ研究にも取り組まれていましたね。新生児医療は、患者数がきわめて少なく、その多くを現場の医師の経験と勘に頼らざるを得ません。だからこそ、一人ひとりの経験のなかに埋もれてきた知見を、全国から集めたデータとして可視化していくことに、大きな意義があると考えています。現場の医師だけでは決して見えてこないパターンが浮かび上がることで、医療は着実に前へと進みます。
デジタルやデータには、これまで多数のなかで切り捨てられてきた少数者や多様な存在を、あらためて拾い上げ、つなぎ直す力があります。広範なネットワークを通じて多様な人々に寄り添っていくことは、医療の現場にとっても、その先の社会を築いていくうえでも、非常に重要だと思います。
世界同時開発の実現で
健康寿命延伸に貢献したい
日本は医療水準が高く、インフラも整い、治験の質も極めて高い。リリーにとっても最重要市場の一つです。とはいえ、日本法人の設立当初の20年ほどは、米国で生まれた新薬が、日本国内での治験を経て患者さんに届くまで、何年もかかっていました。そこで2004年から本格的に国際共同試験への参加を通じた同時開発の取り組みを始め、2011年に米国本社での開発プロジェクトには基本的にすべて日本も参画できている状態になりました。結果、開発プロジェクト数も増加し、昨年は国内2位となっています。
素晴らしいですね。全国4000以上の病院と連携するデータベースを長年運用してきましたが、日本の臨床現場のプロフェッショナリズムは際立っています。治験や開発の質が高く、力量のばらつきに結果が左右されにくいのも、その表れでしょう。ただ、その高い質が医療従事者一人ひとりの献身に依存している点は否めず、持続可能な体制づくりが欠かせません。日本の医療は病気になってから対処する仕組みが中心ですが、健康寿命と平均寿命との間には約10年の開きがあり、その差を縮める余地は大きいと考えています。
健康寿命の延伸は、まさにリリーが取り組みたい領域です。優れた薬があっても、疾患への理解や予防に社会全体で取り組まなければ、その真価は発揮されません。私たちは2030年までに製薬業界のリーディングカンパニーになると掲げていますが、これは売上1位という意味ではありません。病気になる前の段階から健康寿命を延ばせるような社会づくりを主導する――そんな存在になることを目指しています。
失敗を恐れずに挑める環境。
長期的な投資が生むイノベーション
リリーには創業当初から、「革新的な医薬品に思いやりを込めて」という使命があります。薬を製造・販売するだけではなく、あらゆる人の豊かな人生のために誠実に向き合う。150年間、変わらない姿勢です。たとえば、認知症の原因の一つであるアルツハイマー病では、約40年にわたり、大規模な治験の失敗も重ねながら研究を続けてきました。ダイアベティス(糖尿病)領域でも、世界で初めてインスリンの大量生産を実現して以来、改良を続けています。研究開発への投資を長期的に続け、やると決めたら簡単にはあきらめない。それがリリーらしさだと思います。
研究開発は、足元の利益だけを追っていては持続しません。大切なのは、何のためにやるのか、未来にどうありたいのかという強固なミッションを共有し続けること。それが、失敗を恐れず挑戦を続けられる強みになります。
本当に日々失敗の連続です。ですが、おっしゃる通り、何のためにこの苦労をしているのかと自らに問うた時、リリーの使命が私たちの立ち戻れる場所になっています。
「巨人の肩の上に立つ」といいますが、先人が積み上げてきたところに自分がどう石を積むか。良質な失敗であれば、担い手が変わっても次へとつながります。また、データの力は、失敗の共有にこそ生きるものです。個々の事例を集めて分析することで、次の未来へとつなげていけます。
そうですね。とりわけ、多くの患者さんにご協力いただいた治験で望む結果が出なかった時は、本当に胸が痛みます。今後は、テクノロジーの力で、そうした大規模な失敗を未然に防ぐことも可能になると考えています。治験の成功率を高め、開発を効率化することは、社会全体の負担を軽くする意味でも大切です。
より豊かで健康な未来をともに。
次の150年への挑戦
150周年を迎えた今、私たちが考えているのは「What we do next」――次の150年に何ができるか、ということです。薬を創るだけでなく、その薬が使われる環境や社会、患者さんを取り巻く人々にどう貢献できるか、そこまで担っていきたいと考えています。日本イーライリリーはドラッグラグを乗り越え、世界に追いついてきました。ですが、追いつくだけでは足りません。日本での治験や開発が世界の創薬を前進させ、世界中の人々への貢献につなげる。それが次の大きな目標です。
今、坂口さんがおっしゃった「社会にどう貢献するか」という視点は、私が提唱している「Better Co-Being」にも通じます。これは、個人の幸福を重んじるウェルビーイングをさらに押し広げ、多様な人々が支え合いながら、より良い未来をともに築いていこうという考え方です。この視点に立てば、健康の概念そのものも変わります。一人ひとりがその人らしく生きられるよう、病気になる前から支えていく。もちろん、生まれながらの疾患や障害が人生の妨げにならないよう支えることも欠かせません。リリーが150年続いてきたのも、目先の利益ではなく、社会とのつながりのなかで未来への貢献を問い続けてきたからでしょう。この理念を、医療の現場から社会全体へ広げていきたいものですね。
はい。課題はいろいろありますが、行政も学会も、私たちを含む民間企業も、それぞれの持ち場で力を尽くしています。世の中はまだまだ良い方向へ変えていけると信じていますし、リリーも一翼を担い、その歩みをけん引する存在でありたいと考えています。
2026年5月、イーライリリー・アンド・カンパニーは
創立150周年を迎えました。
創立150周年を迎えました。