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梅山 いつき(うめやま・いつき) 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館助手 略歴はこちらから

アングラの真話・反神話
—「国際研究集会・60年代演劇再考」開催にあたって—

梅山 いつき/早稲田大学坪内博士記念演劇博物館助手

「革命の季節」から40年、シンポジウム『60年代演劇再考』

 10月17日(金)から19日(日)にかけて早稲田大学演劇博物館グローバルCOEプログラム「演劇映像の国際的教育研究拠点」は「国際研究集会・60年代演劇再考」を開催する。開催に先立ち、実行委員を代表して本研究集会の特徴や見どころを紹介したい。

「国際研究集会・60年代演劇再考」チラシ

 1968年のフランス5月革命に象徴される「革命の季節」から40年。「国際研究集会・60年代演劇再考」は、神話化でも回顧録でもない今日的視座にたった具体的検証を目指す。60年代演劇を本格的に取り上げる研究集会は本邦初であり、蜷川幸雄氏、唐十郎氏や佐藤信氏、別役実氏といった60年代演劇の旗手と、宮沢章夫氏、平田オリザ氏、岡田利規氏ら後続の演劇人が一同に会するこのような集会は、またとない貴重な機会である。演劇界を代表する演出家や劇作家の方々の対談やパネルディスカッションもさることながら、本研究集会では当時から活躍する四名の演劇評論家の方々の基調講演も予定しており、それも見どころのひとつである。大笹吉雄氏、佐伯隆幸氏、扇田昭彦氏、菅孝行氏、それぞれのアングラ論を一挙に聴ける刺激的な場ともなるだろう。また、アメリカからは、半世紀の間前衛演劇の拠点であり続け、日本の現代演劇とも深いつながりを持つラ・ママ実験劇場の創立者エレン・スチュワート氏を招聘する。三日間のプログラムはパネルディスカッションや対談、基調講演、研究発表で構成されるが、三日間以外にも、日本近現代演劇研究者デイヴィッド・グッドマン氏による連続セミナー(10月21日~23日)と、アングラ演劇ポスター展(10月15日~20日)も同時開催する予定である。

「60年代」をめぐる今日の現状

「紅テント概観」状況劇場編『唐組:状況劇場全記録写真集』(パルコ出版、1982)

 2008年現在、フランスの多くの書店には1968年5月革命を取り上げるコーナーが設けられている。党首交代による社会情勢の変化のなかで、60年代的精神を継承するか否かといった、当時を抜本的に再考する動きが起きているのはフランスだけではなく、おそらく日本も含め世界規模の動向だと言えるだろう。また、日本では昭和30年代は「文化」という観点から注目され、雑誌等で特集を組まれることもしばしばだ。演劇の領野では、60年代から70年代にかけて台頭した小劇場演劇、通称アングラ演劇は現代演劇の転換点と位置づけられ、なかば神話化されるほどに演劇史上重要視されている。実際のところ、今日の文化政策の基盤が、彼らアングラ演劇の活動によってつくられたと言っても過言ではないほど、演劇史上で彼らが果たした役割は大きく、とりわけ日本の場合、多くの公共劇場の開館に彼らが携わっているのがその証左ではないだろうか。しかしながら、アングラ演劇は神格化される一方で、当事者はいったい何を目指したのか、また、後世の演劇人の目にはどのように映ったのかといった具体的検証はこれまで積極的になされてこなかったように思う。昭和30年代が郷愁を誘う歌謡曲や遊具といったかたちで断片的に今日存在しているように、アングラ演劇もまた舞台の断片が浮遊している状態にあって、その全貌はあきらかになっていない。

言葉の奔流から見えてくるもの

状況劇場「腰巻おぼろ 妖鯨篇」(1975年、篠原勝之デザイン)(演劇博物館所蔵)

 アングラ演劇と総称される演劇集団には、状況劇場や早稲田小劇場、自由劇場、発見の会、六月劇場、転形劇場、そして演劇実験室天井桟敷などがあげられる。それぞれの出自は異なり、独自の劇世界を創造していたにもかかわらず、大部分が先行芸術である新劇に批判姿勢をとったために、反近代・反新劇の演劇と解釈されている。また、「肉体の復権」ということばが象徴するように、アングラ演劇はことばよりも俳優の身体を重要視した演劇であったとも考えられている。80年代生まれのわたしは、当然ながらアングラ演劇の神話化された舞台に立ち会っていない。わたしのアングラ体験はポスターや機関紙を介したものである。状況劇場や演劇センター68/71のポスターの大きさに圧倒され、機関紙・誌の文字の多さに唖然とさせられた。横浜国立大学で誕生した唐ゼミ☆のメンバーと同世代のわたしは、同じく大学でアングラの旗手と呼ばれた演劇人と出会っている。そして発言の場がポスターや機関紙であっても、大学であってもわたしが痛感したのは「アングラはよくしゃべる」ということだった。こうしたわたしの体験は先ほどの定説に照らし合わせてみれば、アングラ演劇の誤読ということになるだろう。しかしながら、今回のプログラムを構成するにあたってわたしはこの「誤読」にこだわってみたいと考えた。実際のところアングラ演劇の言語過多状態は存在したのだと思う。どの演劇人も今日では信じられないほど多くの演劇論、詩、評論を執筆しては機関誌・紙を通じて社会に発信している。戯曲も同様、息つく暇なくことばを吐き出す人間が多く登場する。先述の横浜国立大学の例のとおり、アングラ演劇の旗手たちは、現在、創作現場のみならず大学の教壇に立って後進の教育にあたっている。当時、「デモへは絶対参加しない」という立場も含め、なにがしかのかたちで学生運動と緊張関係にあった演劇人を教育現場へむかわせたのはなぜなのか。結果的に教育現場や公共劇場へ活動の場を広げたアングラの運動は、そもそも何を目指した運動だったのか。アングラが言語過多状態にあったにもかかわらず、「肉体の復権」と感じさせたのはなぜなのか。こうした謎が本研究集会によって少しでもあきらかになることを期待している。

時代を代表する演劇人の競演—より確かな検証のために—

状況劇場公演「唐版・風の又三郎」状況劇場編『唐組:状況劇場全記録写真集』(パルコ出版、1982)

 本研究集会の特徴はこのような先駆性にあるだけでなく、若手の研究者、演劇人を巻き込んだ企画という点にもある。早稲田大学演劇博物館グローバルCOEプログラムでは「演劇・映像の国際的教育研究拠点」の確立を目指し、様々な国際規模の研究集会を企画している。2002年度から2006年度にかけて採択された21世紀COEプログラムよりもさらに充実した研究を進めており、なかでも若手研究者の育成に重点的に取り組んでいる。本研究集会の企画には、若手研究者や演劇制作に携わる若手の演劇人が携わっている。まず、初日である17日には三名の研究員による研究発表を予定している。ラ・ママ実験劇場の招聘企画は、若手制作者・二ノ宮祥子氏(杉並芸術会館「座・高円寺」準備室スタッフ)の手によるものである。また三日間の運営を支えているのは事務局スタッフと助手の方々、そして多くの学生スタッフである。当事者のオーラル・ヒストリーを聴くことを主とする本研究集会であるが、単に話を聴くだけでは回顧録に終わってしまうだろう。そこへ批評的な視線を送り、検証へと導くのが当日の聴衆も含め、こうした学生たちの存在である。実行委員長の岡室美奈子教授は、本研究集会を60年代演劇の旗手たちの「現在もなお衰えることのない凄まじいエネルギー」と「60年代の記憶や憧憬とは無縁なクールなまなざし」を対峙させる場であると述べている。

 当日は登壇いただく方々には存分に「ことばを発する」場にしたい。そして本研究集会が若手にとって60年代的精神をどのように受け継ぐのか、また、今日の演劇状況とどのように向き合っていくのか、「ことばを引き受ける」場になることを願っている。

「国際研究集会・60年代演劇再考」詳細情報

http://www.waseda.jp/prj-gcoe-enpaku/project/index.html

早稲田大学坪内博士記念演劇博物館

http://www.waseda.jp/enpaku/index.html

梅山 いつき(うめやま・いつき)/早稲田大学坪内博士記念演劇博物館助手

1981年新潟県生まれ。早稲田大学文学研究科博士後期課程在籍。早稲田大学演劇博物館助手、グローバルCOE研究員。本研究集会副実行委員長。