早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

YOMIURI ONLINE

ホーム > 文化 > 東北弁によるユニークなシェイクスピア

文化

山路 けいと(やまじ・けいと)/シェイクスピア・カンパニー 制作担当 略歴はこちらから

東北弁によるユニークなシェイクスピア
「破無礼(はむれ)~奥州幕末のハムレット」

山路 けいと/シェイクスピア・カンパニー 制作担当

 2010年6月19日(土)に早稲田大学大隈記念講堂にて、早稲田大学校友会設立125周年記念行事として、講演会と作品の上演を行う機会を頂戴しました。ここでは、私たちの劇団の活動歴と、今回上演する「破無礼~奥州幕末のハムレット」の作品についてご紹介します。

シェイクスピア・カンパニーのプロフィール

 シェイクスピア・カンパニーは、下館和巳主宰の「東北にグローブ座のような木造の劇場を作ろう」という夢に賛同する人たちで1992年に結成されました。最初に観客が集まったというユニークなスタートです。しかし劇場を作るにはお金も時間も必要、まずは芝居を作ってみようと決めた段階で、主宰は本人二度目の英国留学へ旅立ち、一年後に「仙台弁でシェイクスピア作るべ」という構想を抱えて戻ってきました。

下館和巳 シェイクスピア・カンパニー主宰、東北学院大学教養学部言語文化学科教授

 一見単純に思われるこの着想を得たのは、一つにはイギリスで数多く見たシェイクスピア作品に感じた「言葉の豊かさ」でした。同じ英語とはいえ、貴族、庶民、商人などの多様な言語を駆使して幅広い階層の人々が楽しめるようにできている。これは東京で見る日本語のシェイクスピアでは意外に気付きにくいことです。もう一つは、ロンドンで大人気のラーメン屋に入ったらスープがぬるくてまずかった、という出来事。根っからのラーメン好きの主宰は、この味でもロンドンでは行列ができるとはどういうことか?と考えました。オリジナルにこだわるよりも、仙台で作るなら地元のお客さんに喜んでもらえる味付けにしたい。従来の翻訳言語から離れて、観客にとって親しみのある、多様な言葉を取り入れよう。翻訳の実践においては、実家の家業の関係で東北中から集まっていた従業員に囲まれて育った幼少期からの言語体験が非常に役に立ちました。

 さて、方言を使うことに対して当初、劇団の中では特に役者経験者が反対し、激論が重ねられました。「シェイクスピアのイメージと合わない」「田舎くさい」「奇をてらいすぎ」など、普段演技をする時にはいわゆる標準語で台詞を話すよう努力することが彼らの習慣となっていました。ところが主宰が稽古場に毎週持ち込む数ページずつの翻訳を読み始めてみると、そこで力を発揮したのは役者経験のない者たちでした。青森、秋田、宮城などの言葉を彼らが使う時、台詞らしくない熱気と生々しさが表出して仲間を惹き付けていきました。そして作品ができるより先に、この構想は地元のメディアと、すでにできていた観客グループに支持されていました。

「恐山の播部蘇(マクベス)」英国エジンバラ公演 2000年

 それらのことに背中を押されるように1995年9月、全編東北弁の第一作「ロミオとジュリエット」を発表しました。私たちの台詞を聞いて、稲穂のように波うつ客席、懐かしい方言が出てくると喜んで口まねを繰り返す観客のざわめきを体感して初めて、舞台上の役者たちはこの取り組みの意味を理解したのではないかと思います。

 以降現在まで、非常にゆっくりとしたペースですが、下館和巳主宰の翻訳・演出による7つのシェイクスピア作品を、仙台を中心に東北各地、東京、エジンバラ(英国)で公演してきました。

上演作品「破無礼~奥州幕末のハムレット」について

「新・温泉旅館のお気に召すまま」鳴子温泉早稲田桟敷湯公演 2008年

「恐山の播部蘇(マクベス)」恐山菩提寺での公演 1999年

 シェイクスピア・カンパニーでは作品ごとに、原作のストーリーを東北の歴史上のある時代と場所に置き換えて翻案を行っています。例えば、「から騒ぎ」は縄文時代、「マクベス」は11世紀の恐山、「お気に召すまま」は昭和30年代の温泉旅館など、作品のイメージを東北的に膨らませる土壌を探してきました。そして劇場での公演の他に、背景となった現地での公演を行い、様々な世界観を吸収してきました。

 そして、「ハムレット」。デンマーク王子が、父親である王の急死から時をおかず、母親と父の弟が再婚するという不可解な出来事に疑念を抱き、復讐に向かう物語です。今回上演する「破無礼」(はむれ)の舞台は幕末、戊辰戦争の渦中にあった奥州(東北地方)に設定しました。西洋から開国を迫られる日本と、薩長を中心とした新政府軍により劣勢に追い込まれる東北諸藩の悲哀を背景に、前仙台藩主の嫡男「破無礼」の苦悩の物語を描きます。

 世界演劇の最高峰とされる非常に人気の高いこの作品をどう置き換えるか、下館主宰を始めとする脚本構想チームは長い時間をかけて検討しました。最終的にはこのドラマで描くハムレットの硬直状態は、デンマークと周辺国との政治的緊張関係が大きく影響していることから、「大きな歴史の転換点」というインパクトを求めて幕末を選びました。2006年初演の脚本では、当時東北で活躍した実在の人物のエピソードを数多く挿入しましたが、今回のリニューアル90分バージョンでは唯一「玉虫」という奥羽越列藩同盟の計画を先導した仙台藩の人物が生き残り、東北人の心意気を代弁してくれます。

「破無礼」ハムレット(岩住浩一)とオフィーリア(星奈美)2006年

 尚、作品の上演に先立ち、下館主宰の講演(30分)を行います。早稲田大学は、日本のシェイクスピア翻訳のパイオニアである坪内逍遙が活躍された拠点であることに敬意を込めて、坪内先生が現代に残したメッセージとは何か、私たちの視点から読み解いてみたいと思っています。キーワードは「言葉の多様性」です。

 最後に、イベントの概要を下記にまとめます。皆様のご来場をお待ちしております。

イベント概要
早稲田大学校友会125周年記念
「破無礼~奥州幕末のハムレット」
日時:
2010年6月19日(土)16:30開演(15:30開場)
会場:
早稲田大学 大隈記念講堂
入場:
無料・全席自由・予約不要
内容:
<第一部>講演会「坪内逍遙のメッセージ」(30分)劇団主宰 下館和巳
<第二部>作品上演「破無礼~奥州幕末のハムレット」(90分)
脚本・演出 下館和巳
出演 岩住浩一、星奈美、他
主催・問合せ先:
早稲田大学 文化推進部文化企画課
Tel)03−5272−4783(月~金 9:00−17:00)
E−mail)art-culture@list.waseda.jp
HP)http://www.wasedabunka.jp/
シェイクスピア・カンパニーHP:
http://www.age.ne.jp/x/umi/index2.htm

山路 けいと(やまじ・けいと)/シェイクスピア・カンパニー 制作担当

1994年、シェイクスピアカンパニーの立ち上げ期より活動に参加。役者、衣装デザイン、演出等に担当を広げ、制作面では東京やエジンバラ公演のプロデュースを主導。2001年より東京へ移り、演出や制作のサポートを続けている。仙台生まれ、岩手育ち、学生時代にアメリカ中西部と京都での生活を経験し、様々な土地や人に根付くことばの愛らしさとその文化的背景に関心が高い。