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浅井 京子(あさい・きょうこ) 略歴はこちらから

富岡重憲コレクション展示室「実篤と赤絵磁器」展

浅井 京子/會津八一記念博物館特任教授

 2009年5月に開室した富岡重憲コレクション展示室では、この3月から4月にかけて「実篤と赤絵磁器」と題する展覧会を開催いたします。武者小路実篤→志賀直哉→万暦赤絵→明五彩磁器と連想ゲームのような発想から形になった展覧会です。

 南瓜や薔薇など身近な野菜や花に「日々是好日」などの言葉が添えてある武者小路実篤の絵画作品の色紙やカレンダー、絵皿などが昭和40~50年代多くの家庭に一つや二つはあったように記憶しています。小説家として知られる武者小路実篤(1885~1976)が絵を描き始めたのは38歳(1923年)のころからといわれています。初期作品は風景や身近な静物を鉛筆素描や墨画淡彩で描いたもので、なかにはデューラー作品の模写なども残っています。「文学は言葉の世界だが、画は沈黙の世界だ」(『六人の現代画家』序文、1963年)といい、言葉を使って表現する小説家であるからこそ、言葉から開放された世界で一心になれるものが画であり、それを沈黙の世界といったのでしょう。

 また実篤は「僕は夢中に好きになれる画を愛する。愛しないではいられないから愛するのだ。同時に僕は画をかく時も、材料に驚嘆しながらかく。馬鈴薯をかく時も、南瓜をかく時も、玉葱をかく時も、決してかかれるものを甘く見ない。どうかしてそのものを自分の能力のかぎりをつくして、写生したいと思う。これがほんとうにかければ、自分は大芸術家になれるのだが、まだ力がなくって、だめだが、全力だけは出したいと思う。僕の画にとり柄があれば、その点だ。そして僕はいつでも真剣な気持になれる点だ。しかしそれだけ、早く疲れる。もっと落ちついて全力を出したいと思うが、持って生まれた性質は殺したくない。
 僕は油画の方だと、くりかえしくりかえし目標に向って進もうとするが、日本画のほうは一ぺん勝負なので、それだけ注意を集めて、仕事をするが、注文も多すぎるせいもあって、端的な仕事が多い。しかし、くりかえしくりかえし同じ仕事をしてあきないのは、材料に対する愛と尊敬を失わないからである。

 人々が簡単に見て卒業した気になる材料を僕は実に尊重して、自分の全力を出してもまだ足下にもおよべない材料のように思えるところに、僕の特色があればあるのだと思っている。
 僕は画をかくことは、美の発見であり、また追求であると思っている。この世には美がありすぎることを僕は画をかくことで、知ったことを喜んでいるのである」(『畫をかく喜び』より 1957年)と自分が画を描くことの思いを記しています。

 富岡コレクションの実篤作品は60歳代の油画の小品1点のほかはすべて晩年70~80歳代のもので、台所にころがっている野菜や季節を彩る花々を墨で形の輪郭を描き、顔料で色を付けます。形を描く墨の線は形を刻むように慎重にひかれます。そして多くは「共に咲く喜び」などの言葉が添えられています。なかで「師よ師よ」と題された1点は画面中央下端の小さな達磨を取り囲むように言葉が書かれています。頑張れエールのつまったこの作品は当時闘病中だった富岡重憲夫人のために、実篤が描き贈った作品と聞いています。

 ところで、実篤は白樺派の同人であり、雑誌『白樺』ではロダン・ゴッホなどの西洋美術作品が紹介されました。また実篤が学習院中等科6年のときに同級となって以来の親友、志賀直哉(1883~1971)に「万暦赤絵」という小説があります。この小説にもみられるように白樺同人の間では万暦赤絵と称される中国明時代の五彩陶磁が愛好されました。実篤が『六人の現代画家』で取り上げている梅原龍三郎(1888~1986)の作品に万暦赤絵の花瓶に薔薇を挿した静物画があります。ここで使われている花瓶は富岡コレクションで「五彩龍鳳文尊式瓶」(高さ46.9㎝)といっている大明万暦年製銘の作品と同形のものです。尊と呼ばれる古銅器の形を写しており、膨らんだ胴の部分に龍と鳳凰が交互に描かれます。

 白磁の上に赤・黄・緑などの上絵の具で文様を描き低温で焼きつける五彩陶磁は、明時代に入り華やかに展開します。「五彩」といっても「たくさんの色で彩った」というほどの意味で五色に限られるわけではありません。中国の文献中にあらわれ、近代以降の陶磁史研究で使われるようになった言葉です。この技法はわが国では江戸時代から「赤絵」と呼ばれてきました。富岡のコレクションには明初の五彩や豆彩といわれる成化年代のものは入っていません。古赤絵といわれる正徳(1506~1521)から嘉靖(1522~1566)期に作られたとする五彩からです。古赤絵とは万暦赤絵より古いというほどの意味で江戸時代後期から文献資料にも現れます。マットな感じの赤・黄・緑の三色で絵付けされ、青花を使っていないことがほかのものと大きく違います。万暦赤絵は万暦年間(1573~1620)に作られたもので器形もさらに多岐にわたるようになります。なお、天啓(1621~1627)赤絵や呉州赤絵といわれる明末清初の作品は茶道の道具としても愛好される器形のものを多く含んでいます。

 このようにして、所蔵の実篤作品に古赤絵・万暦赤絵・天啓赤絵・呉州赤絵などの明時代中期から末期に至る五彩陶磁器を合わせた展覧会は作られました。ご来室をお待ちいたしております。

「実篤と赤絵磁器」

3月2日(水)~4月23日(土)

會津八一記念博物館 富岡重憲コレクション展示室(開室時間10:00~17:00)

浅井 京子(あさい・きょうこ)/早稲田大学會津八一記念博物館特任教授

元富岡美術館学芸課長。2004年4月早稲田大学に着任、現在會津八一記念博物館特任教授。