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平原 信崇(ひらはら・のぶたか)/早稲田大学文化推進部文化企画課 略歴はこちらから

オセアニア民族造形美術品展 −あらわれたる霊のかたち−

平原 信崇/早稲田大学文化推進部文化企画課

 2010年度に、埼玉県鶴ヶ島市から早稲田大学文化推進部へ計1,089点のオセアニア民族造形美術品が寄贈されました。このたび、早稲田大学文化推進部文化企画課と早稲田大学會津八一記念博物館との共催による「オセアニア民族造形美術品展」を開催し、様々な角度からオセアニア民族造形美術品をご紹介いたします。

「オセアニア民族造形美術品」

 早稲田大学文化推進部へ寄贈された美術品は、新潟県石打村(現南魚沼市)出身の故・今泉隆平氏が美術品の輸入販売を行っていた大橋昭夫氏を通じて収集した品々のうち、特にパプアニューギニアのセピック川流域からニューギニア島北東部にかけての地域で収集された品々で構成されています。計1,089点の美術品のうち、パプアニューギニアの民族芸術を代表するセピック川流域で収集された品々が最も豊富で842点を数えます。その量もさることながら、それらの種類も豊富です。象徴的な建築物である精霊の家の建築材をはじめ、仮面、彫像、楽器、装身具、生業関連の品や調理用具などの生活用具、武器や楯などの武具、航海用具、嗜好品など多岐にわたります。

 大隈タワー10階125記念室では、セピック川流域から収集された資料を中心に展示を構成しています。2月29日までの期間は、当地域の多様な造形とそれを制作した人々の世界観を感じることができる空間を目指し、精霊の家(写真1)を装飾する品(写真2)をはじめ仮面(写真3)や精霊像(写真4)などの精霊の姿が表現される品々を展示しています。その後、陳列品を入れ替え、3月10日から4月21日までの期間は、人々の暮らしの一端を知ることができる空間を目指し、主食として重用されるサゴデンプンの採集などに関連する品々や部族間の抗争に使用されていた武具、ヤムイモの収穫とその収穫儀礼に使用される品々、装身具を展示します。両展示を通して、造形美術品からパプアニューギニアの世界観や暮らしの一端を堪能していただければ幸いです。

写真1

写真2

写真3

写真4

パプアニューギニア

 パプアニューギニアは、赤道下の南太平洋上に位置し、世界第二の大きさをもつニューギニア島の東半分と周辺の大小700もの島々からなる国家です。日本から南に約6,000kmの距離にあり、首都ポートモレスビーと成田空港とをつなぐ航空機の直行便では6時間半を要します。総面積46.2万㎢(日本の約1.25倍)を測る国土に、800にも及ぶ様々な部族から構成される約645万人の人々が暮らしています。現在では、英語とピジン語が公用語として共通のコミュニケーションツールとなっていますが、伝統的には、各部族は固有の言語を有するため隣接する部族間でさえ言葉が通じないという事態も間々あったと言います。雄大な自然環境を背景に、ニューギニア島外からの人類の断続的な移住や親族集団の強い紐帯、部族間の抗争に起因する言語の意図的な改変など、実に様々な要因が相互に関連し合って今日に見られる多様性に富む部族社会が形成されたと考えられています。

精霊の家

 精霊の家は、その名の通り、とりわけセピック川流域に暮らす人々の精神世界の根幹を担う象徴的な建築物です。また、パプアニューギニアの国会議事堂のモチーフにも採用されており、同国を代表する建築物とも言えるでしょう。英語では一般的にスピリットハウス(spirit house)と呼ばれ、ピジン語ではハウスタンバラン(haus tambaran)と呼ばれています。その外観や内観に地域や部族ごとの特色がありますが、次に挙げる諸点は通常の家屋とは質的に大きく異なる点として共通しています。それは、通常の家屋の数倍もの規模があることやクランによって所有されること、通過儀礼をはじめ様々な儀礼を執り行う神聖な空間であること、そして通過儀礼を経験した男性だけが内部への立ち入りを許されること、などです。クランとは、ある共通の祖先から出自を辿ることができると考える人々で組織される親族集団です。一棟の精霊の家は、一つのクランに所有される場合もあれば、その集落に居住する複数のクランに共同で所有される場合もあります。後者の場合、各クランは精霊の家の建設からそこで執り行う儀礼までを協同して行うことが多く、精霊の家は複数の集団を社会的に統合する役割をも担っていると考えることもできるでしょう。

 仮面や精霊像、楽器などの多くは精霊の家の内部に保管されており、人々はそこで様々な儀礼を執り行うことで精霊の力を得て豊猟や豊作、戦争での勝利、無病息災などを祈願します。精霊の家で執り行われる儀礼の一つに、10歳半ばの男性(地域によっては女性を含む)を対象に実施される通過儀礼があります。その内容は様々ですが、特にセピック川流域では身体に傷をつけてワニの鱗のような瘢痕分身を作り出す例が多く見られます。これは、当地域の人々がワニを勇敢さの象徴と考えていることに起因しており、ワニは造形の対象としても多く取り上げられています。セピック川流域に限らず、精霊の家は女性の胎内と見なされ、その内部で通過儀礼を受けることで青年男性は一人前の男として生まれ変わると考えられています。

あらわれたる霊のかたち

 では、パプアニューギニアの人々が信仰し、造形として表現する「精霊」とはいったい何者でしょうか。ピジン語では「tambaran」と呼ばれ、英語では「spirits」と翻訳されます。現地での調査の際に、人々が実に様々な存在を「精霊」と考えていることが分かりました。水や大地、森といった自然環境から、太陽や三日月、星といった天体までも「精霊」としてとらえています。また、各自の祖先やクランの始祖も「精霊」であり、例えば人間の上半身とヘビの下半身をもつ実在しない生き物(スネークマン)もまた「精霊」であると言います。これらの存在に共通することは、実在するかしないかに関わらず「ストーリー(story)」に登場する、ということです。「ストーリー」とは、クランに伝わる神話や伝説などを含む口頭で伝承される物語全般のことを指していると思われます。言い換えれば、「ストーリー」とは人々が身の回りの存在や現象などを自身の世界観に則して解釈し表現したものと考えられます。「ストーリー」を理解できなければ仮面や精霊像を制作できず制作されたものの意味を理解することもできない、という現地の人々の言葉から、造形に「ストーリー」が重要な役割を果たしていることも理解できます。制作者は通過儀礼を経験した男性のみに限られますが、想像力が優れていなければ彫ることすらできないと言われ、優れた制作者は「アーティスト」と称され人々の尊敬と威信を得ています。

埼玉県鶴ヶ島市寄贈 オセアニア民族造形美術品展
  1. 共催:早稲田大学文化企画課・早稲田大学會津八一記念博物館
  2. 協力:埼玉県鶴ヶ島市・鶴ヶ島市教育委員会
  1. —多様な民族世界—
  2. 2011年11月21日(月)~2012年1月12日(木)
  3. 開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで) 入館無料
  4. ※日曜祝日、12月23日~1月5日の期間、1月10日は休館
  5. 会場:早稲田大学會津八一記念博物館 1階企画展示室
  6. http://www.waseda.jp/aizu/index-j.html
  1. —あらわれたる霊のかたち—
  2. 2011年12月12日(月)~2012年2月29日(水)
  1. —現代(いま)に伝う暮らしのかけら—
  2. 2012年3月10日(土)~2012年4月21日(土)
  3. 開館時間 10:00~18:00 入館無料
  4. ※日曜祝日、12月29日~1月5日の期間、1月10日は休館(ただし3月25日、4月1日は開館)
  5. 会場:早稲田大学大隈記念タワー 10階125記念室
  6. http://wasedabunka.jp/event/exhn/archive/2011/ex125log_20111108.php
【関連企画】
  1. ポリトライブ特別展~パプアニューギニア精霊の森の暮らし
  2. 2011年12月13日(火)~12月22日(木)
  3. 開館時間 9:30~17:45
  4. ※12月19日(月)は閉館
  5. 会場:鶴ヶ島市立中央図書館 2階展示室

平原 信崇(ひらはら・のぶたか)/早稲田大学文化推進部文化企画課

1986年生まれ。2010年早稲田大学大学院文学研究科修士課程入学、2011年から現職。専門は日本考古学、民族考古学。