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「保守と革新の近現代史データベース」の公開

「保守と革新の近現代史データベース」作成委員会

【写真①】「保守と革新の近現代史データベース」トップページ
タイトルの下、「検索画面へ」をクリックすると、最下段に全文検索ボックスが現れる。そこから検索結果一覧画面→資料詳細画面へと進むと、PDFファイルを閲覧・ダウンロードすることができる。

 2011年4月、早稲田大学が運用するデータベース横断検索サイト「早稲田大学文化資源情報ポータル」内に「保守と革新の近現代史データベース」(以下「保革DB」と略す)を開設し、広く一般への公開を開始した。

 2009年より運用が開始された「早稲田大学文化資源情報ポータル」は、演劇博物館・會津八一記念博物館・大学史資料センターが個別的に構築してきたデータベースを移管し、統合検索を可能とした新しいシステムである(その詳細については、バックナンバー記事を参照)。

 なお、この「保革DB」プロジェクトは、日本学術振興会科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の助成を受けて2010年度から開始されたものであり、大学史資料センター所長(吉田順一、2010年10月より大日方純夫)を委員長とするデータベース作成委員会がその実務に当たった。

 以下、「保革DB」の狙いと、データベースを構成する資料群について各々簡単にご紹介することとしたい。

「保守と革新の近現代史データベース」の狙い

 「保革DB」の作成目的は、大学史資料センターが所蔵する二つの大型資料群——「堤康次郎関係資料」(以下「堤資料」と略す)及び「日本社会党関係資料」(以下「社会党資料」と略す)——をデジタル画像(PDF)化し、インターネット上で公開することにより、日本近現代史の基礎資料を広く国内外に提供することにある。

 後述するように、「堤資料」が近代日本の政治史あるいは地域史をもっぱら保守勢力の側から明るみに出すのに対し、「社会党資料」は国内的ならびに国際的な運動の実態を革新勢力の側から照らし出す内容となっている。つまり「保革DB」の最大の特色は、これら二つの資料群を個別的にではなく、統合的にデータベース化することにより、日本近現代史をより複眼的・体系的に分析するためのツールたりうるという点にある(もちろん、資料群名を指定して検索することも可能である)。

 より具体的には、「保革DB」はとりわけ次のようなテーマや関心に対して、格好の基礎データを提供してくれることであろう。

・戦後民主主義の歴史及び政治体制の形成過程
・日本による植民地統治の時代から、戦後冷戦構造に再編されるまでの東アジア地域
・「平和と民主主義」という運動・文化の社会的象徴
・労働組合の職場・地域への拡大や遊説を通じた町や村などの公共空間への広がり
・戦後日本の経済発展過程における開発と地域社会・市民運動等との関係
・戦後日本の東アジア諸地域との「草の根」レベルでの交流 等々。

堤康次郎関係資料

 「堤資料」は、1999年に堤清二氏より大学史資料センターに寄贈された総資料点数15,000あまりの大型資料群である。堤康次郎(1889~1964)は西武鉄道をはじめとする西武グループの創始者として広く知られているが、戦前から戦後にかけて、公職追放の時期を除き13回連続で衆議院議員に当選しつづけた政治家としての業績も看過すべきではない。本資料群には、実業関係資料はもちろんのこと、そうした彼の政治家としての軌跡、あるいは彼が生きた時代・政治の軌跡を映し出す質量ともに第一級の資料が収められている。

 資料群は「書簡の部」と「書類の部」とに大きく分けられており、書類の部はさらに政治関係と実業関係とに分類される。「書簡の部」についてみると、戦前では親密な交際のあった永井柳太郎からの書簡をはじめとして、高田早苗や田中穂積といった早稲田関係者、俵孫一や江木翼といった民政党関係者などからの書簡が確認できる。

 戦後に入ると、吉田茂、緒方竹虎、芦田均、岸信介など要人からの書簡が増加する。特に、改進党と自由党との合同問題をめぐる緒方・芦田らとの往復書簡は、当該期における国内政治を窺う上で貴重な歴史資料である。

 「書類の部」についていえば、政治関係では戦前期の拓務省関係資料や帝国議会説明資料が目を引く。戦後に関しては、中央政界に関係する資料のほか、堤自身の選挙・外遊関係、滋賀県を中心とする地方政治関係、外国人の訪日関係などといったバラエティーに富んだ資料が存在する。

 実業関係としては、西武鉄道をはじめとするグループ各社に関する資料が残されており、なかには「箱根山戦争」とも呼ばれた東急グループとの対立に関する資料も確認することができる。もっとも実業関係の資料については、その多くが現在も西武グループ各社に保存されている可能性を排除することはできない。

 なお現在、「堤資料」の目録は、大学史資料センターのホームページ上で閲覧可能となっている。

【写真②】吉田茂・池田勇人らと会談する堤康次郎(「書類の部」目録ID:1012)

【写真③】朝鮮総督府第六十二回帝国議会説明資料 表紙(「書類の部」目録ID:185)

日本社会党関係資料

 「社会党資料」は戦後の日本社会党に関する資料群であり、1940年代後半から50年代、なかでも社会党分裂時(1951~55年)の右派社会党関係の資料がその大半を占めている。本資料群の来歴については本記事末尾に付記した他稿に譲り、ここではその整理分類及び特徴的な内容についてのみ簡単に触れておきたい。

 まず整理分類であるが、本資料群は大きく次のように分類することができる。

 ①各種通達類、活動報告、調査資料など党本部関係資料。
 ②本部への要請書や報告書・名簿など地方支部関係資料。
 ③広報、国会本会議・委員会議事録。
 ④要請書・陳情書など労働組合・協同組合関係資料。
 ⑤各種機関誌や党発行の冊子類。
 ⑥アジア社会党会議・国際社会主義運動関係資料を含む外国語資料等。
 ⑦その他早稲田大学関係資料。

 上記の資料分類にも現れているように、本資料群の特色は、従来研究の立ち遅れていた右派社会党について、党中央はいうまでもなく、「支部」「支部連合会」「地方協議会」といった地方組織の活動をも含めて明らかにすることができるという点に存する。

 さらにいえば、アジア社会党会議に関する資料が象徴するように、その射程は国内に留まってはいない。なお、アジア社会党会議とは、植民地主義や低開発からの脱出を模索するアジア各国の社会党が、西欧主導の社会主義インターとは独立して構築を試みた国際ネットワークであり、1953年1月にビルマのラングーンで、10カ国11機関の正式参加、5機関のオブザーバー、4機関の友好団体の参加をえて開催されたものである(社会党はこの会議に左右両派から代表を派遣した)。

 こうした資料を活用することによって、日本社会党の対外政策やアジア連帯への取り組みといった、これまで看過されてきた側面に新たな光が注がれることを期待したい。

 なお、「社会党資料」の整理は現在もつづけられており、その資料目録は整理が終わり次第速やかに公開したいと考えている。

【写真④】アジア社会党会議報告書附録(資料)表紙(「党中央」目録ID0017−4)

【写真⑤】破壊活動防止法案に対する声明(「党中央」目録ID0097)

公開状況と今後の見通し

 これまで述べてきたように、「保革DB」は日本近現代史を新たな角度から切り拓く大きな可能性を秘めている。しかしながら、それが厖大な数の資料(総点数約20,000)によって構成されているということもあり、2012年1月現在、いまだその全面公開にまでは至っていない。具体的には、公開済みの「堤資料」は2,149点(「書類の部」・政治の一部)、「社会党資料」は521点(「党中央」の一部)にとどまっており、ここに現在公開準備作業を進めている5,610点を加えても総資料点数の半数にも満たないというのが現状である。

 とはいえ、資料群の中には図書館などに所蔵のある定期刊行物の類も数多く含まれていることから、全面公開とはいっても、デジタル化対象資料の取捨選択という作業も現実的には必要となってくるであろう。いずれにしても、今後は外部資金の継続的な獲得を図りつつ、段階的に整理・公開の歩を速めるとともに、データベースの広報活動にも意を払いたいと考えている。

[付記]本記事は下記原稿をもとに、若干の補筆を加えたものである。
・データベース作成委員会「『保守と革新の近現代史データベース』について」『早稲田大学史記要』第42巻、2011年3月
・同上「『保守と革新の近現代史データベース』の一部公開と進捗状況」同誌第43巻、2012年2月

(文責:伊東 久智)

早稲田大学文化資源情報ポータル

http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/cr/portal/

保守と革新の近現代史データベース

http://www.enpaku.waseda.ac.jp/db/damjh/

早稲田大学大学史資料センター

http://www.waseda.jp/archives/

「保守と革新の近現代史データベース」作成委員会(2012年1月現在)

委員長:
大日方純夫(大学史資料センター所長)
委 員:
谷藤悦史(政治経済学術院教授)、梅森直之(政治経済学術院教授)、篠田徹(社会科学総合学術院教授)、真辺将之(文学学術院准教授)、鬼嶋淳(佐賀大学文化教育学部講師)、加藤聖文(国文学研究資料館研究部助教)、檜皮瑞樹(大学史資料センター助教)、伊東久智(大学史資料センター助手)