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関根 勝(せきね・まさる) 略歴はこちらから

早稲田文化芸術週間2012参加企画
Theatre Project Si 新作現代能 『骨の夢』

関根 勝/早稲田大学国際教養学術院教授(Performing Arts) 観世流能楽師・師範

 10月17日~11月1日の間、早稲田大学では「早稲田文化芸術週間2012」として、様々な文化イベントが開催される。その参加企画として、17日に豪華キャストによる新作現代能『骨の夢』が大隈記念講堂にて上演される。

 本作は実験演劇プロジェクトTheatre Project Siの作・演出家であり、早稲田大学教授でもある関根勝が、古典の能の枠組みをはみ出し、能の囃子の代わりに尺八と琴を使って、現代風に演出した画期的作品である。

背景

 アイルランドと日本は地形的によく似ている。この二つの国は大陸の両端に位置する小さな国でありながら、豊かな文化を育んできた。その二つの文化が明治維新直後に明治政府により雇用されたE.フェノロサによって20世紀初頭に初めて結びつけられた。フェノロサは東京美術学校の設立運動を起こし、日本美術の再興に大きく貢献した人であるが、日本滞在中に観世流能楽師・梅若実から能を習った。フェノロサは3度目の来日の後、日本からの帰途、ロンドンで失意のうちに客死する。フェノロサが翻訳した能の手書き原稿が第二夫人のメアリーから同じアメリカ人詩人のE.パウンドに出版の為に手渡された。これをアイルランドのノーベル賞受賞詩人W.B.イェイツが目にした。イェイツはレイディ・グレゴリーと共にアイルランド国の劇場アベイ座を設立したばかりであり、真にアイルランド的演劇を探していた。イェイツは以来能に強い関心を持ち、能に影響を受けた“Four Plays for Dancers”(4つの舞踏家のための戯曲)を書いている。今回の新作現代能『骨の夢』はその一つ、 ”The Dreaming of the Bones”を翻案・創作したものであるが、それを私が日本に場所を移して、能の形式に基づき、翻案したものである。

原作

 W.B.イェイツ作 “The Dreaming of the Bones”はアイルランドとイングランドの因縁の歴史に関わる伝説を基にして書かれた戯曲である。男・Diarmuidと女・Dervorgillaのカップルが不倫の恋ゆえに国を裏切り、イングランド軍をアイルランドに連れてきたことにより、アイルランドは700年間に及びイングランドの支配を受けることになる。イェイツはこの呪われたカップルの亡霊を主人公とし、二人は700年にわたりアイルランドを彷徨い、アイルランド人の許しを乞い続けてきたという条件設定をした。ただ一人でも、「許す」と言ってくれれば二人の魂は救われる。アイルランドでは1916年の復活祭の時に、武装活動家達が中央郵便局に立て籠もり、イギリスからの独立を求めて反乱を起こした。この武装蜂起は武力の差ですぐに鎮定され、首謀者は処刑された。イェイツはこの武装蜂起の直後に命からがら逃れてきた若者を脇役とした。二人の亡霊は若者を安全なコネマラの山中に案内し、そこで若者に許しを乞う。能のワキである旅の僧侶が彷徨う霊魂を救うように、若者が許せば、二人の呪われた恋人たちの魂は救われるのである。若者は女・Dervorgillaの説得に許しそうになるが、現在のイギリスによる支配の原因を作った二人を許すことはできないとし、断固拒否する。アベイ座で初演されたのが14年後の1931年で、劇的には緊迫感のある優れた作品であり、イェイツの舞踏家のための戯曲の中では抜群の作品であるが、その政治色ゆえに現代でもあまり上演されることはない。

リア王

ロミオとジュリエット

翻案の背景

 『骨の夢』創作に当たり、まず日本の歴史的状況を考察したが、琉球をアイルランドと見立てれば、イギリスによるアイルランド支配に近いことがあった。1609年、島津藩は琉球に兵を送り、琉球を制圧し、以来250年にわたり琉球王朝を支配下に置いた。翻案に際してこの歴史的事実を採用した。史実とは異なるが、イェイツの原作の展開通りとするために、不倫の関係で琉球にいられず、島津(現在の鹿児島)に流れ着いた琉球王朝の男と女をDiarmuidとDervorgillaの代わりに登場させた。イェイツの原作ではイギリスの支配が700年続いた後の事となっているが翻案では200年後の、1810年代に時代を設定した。しかし琉球王朝には独立をめぐる大規模な蜂起がないので、ワキを琉球王朝から島津に派遣された宮廷人とした。劇の内容に関してはイェイツの原作に沿ったために、翻案では史実から遠く離れた。

翻案の構成

 舞台制作であるが、2008年から2010年にかけて行った東西文化融合を根幹に置いたTheatre Project Siの実験結果をそのままこの舞台に生かすことにした。能に翻案したものである故に、主役のシテを観世流シテ方の浅見慈一に依頼し、ツレを二期会の高名なソプラノ蒲原史子に、ワキを同じく二期会のバスバリトンの畠山茂に依頼した。また、間狂言を善竹忠重に依頼することで、能楽界とオペラ界のバランスを取った。囃子方に相当する音楽は尺八を青木彰時に、琴を青木麻衣子に依頼した。能楽の囃子は舞台に緊迫感を生み出すのには適しているが、情感を添えることは不可能に近い。それに比較して尺八には深い情感が、琴には強弱・音程の工程の自在さがあり、さらに強い音を出すことにより、舞台に緊迫感を出すことも出来る楽器である。尺八と琴を背景にしたシテ方の演技と謡はオペラ歌手の歌と見事な融合を生み出し、舞台を進展させていく。間狂言は能の前半と後半の間に入り、分かりやすい言葉を使い前半で起こったことについてワキに話す。神戸の狂言界の重鎮である善竹忠重の風格のある演技は、独立した語りの場面とも考えられる。後半に能ではありえないソプラノのアリアが2つある。アリアは美しく豊かな情感を舞台に創造すると同時に、2つ目のアリアでは切羽詰った切なさを表現し、舞台の緊張感を急激に高める。見所はシテとツレの亡霊が切なく、必死の思いを込めて説得する場面と、ツレがアリアを歌う場面である。

翻案のあらすじ

 前半は幕開きでワキ役の琉球王朝の使者・大城光雲が能の展開通りに舞台の設定をする。名ノリの後大城光雲は、「琉球王朝に仕えた男と女の裏切りにより200年前より琉球が島津の支配下に置かれてしまったので、これより島津に琉球王の使者として島津に赴く途中である」と告げる。大城光雲は道行を謡った後、島津の指宿に着いたと伝える。そこに地元の老夫婦が現れたので、大城光雲はこの土地の旧跡や伝説などを問う。老夫婦は島津を琉球制覇に導き、琉球を裏切った恋人たちの事を詳しく語る。大城光雲に問い詰められて、老夫婦は実は自分たちが琉球から逃れてきた恋人たちの亡霊であると認める。二人は大城光雲に自分たちの後を弔ってほしいと願い、姿を消す。

 間狂言では村人に扮する狂言師が出て、この琉球王朝を逃れてきた伝説の恋人について、平明な言葉で詳しく、大城光雲に物語る。そして、供養を頼み、姿を消す。

 後半は大城光雲がその場に留まり、夜の海を見ていると、小舟が漕ぎ寄せられ、若い男と女が舟を引き揚げる。大城光雲が二人に話しかけると、二人は今琉球より流れ着いたばかりであると告げる。大城光雲に問われるままに、若い恋人たちは琉球王朝を追われて、指宿に流れ着いた仔細を語る。二人が結ばれたのは、鹿狩りの最中に大鹿に襲われた王を助けようとして負傷した若い家臣の許に、王が自分が寵愛する姫を見舞いに派遣した時である。二人の密通は王宮に知れ渡り、琉球にいられなくなった二人は小舟に乗って、大海に漕ぎ出だす。黒潮に流されて、二人は三日三晩漂流したのち、指宿に着いた。男は琉球を支配下に置こうとしていた島津の軍隊を誘導して、島津が琉球を平定するのを助けた。この功労ゆえに男は指宿の土地を与えられる。この時から、二人は罪の意識に苛なまれ始める。二人は間もなく死ぬが、犯した罪故に二人の魂は亡霊として残り、指宿の地を彷徨う。二人の若い恋人は200年の後もいまだに成仏できないでいるが、琉球人がたった一人でも許すと言ってくれれば成仏してあの世で結ばれるので許してほしいと大城光雲に嘆願する。大城光雲は許しそうになるが、現在でも島津により琉球支配が続いている以上許すわけにはいかないと言って、二人を断罪する。二人の亡霊はつかず離れず、踊りながら消えていく。

舞台制作の狙い

 演出の狙いは新作現代能『骨の夢』の舞台に世阿弥が探究した「花」を舞台に創造することである。世阿弥の美の概念は末法思想の影響を受けており、健康的な明るい美ではない。「朝霧にぬれた間垣」や、「憂いを帯びた楊貴妃」に例えられる、わずかな悲しみをたたえた悲劇的な登場人物の描写に世阿弥は美を見た。この『骨の夢』の「花」は、大城光雲が二人の亡霊の嘆願を拒絶した直後に、二人の亡霊が結ばれることなく、悲しく引き付け合いながら舞いを舞い橋掛かりに消えていく中に表現される。

オセロー

マクベス

早稲田文化芸術週間2012参加企画

Theatre Project Si 新作現代能 『骨の夢』

日時:
2012年10月17日(水)18:00~19:50(開場 17:30)
会場:
早稲田大学大隈記念講堂 大講堂
原作:
W.B.イェイツ  翻案・演出: 関根勝
 
入場無料・全席自由・未就学児入場不可
予約不要。直接会場へお越しください。
出演:
浅見慈一、蒲原史子、畠山茂、善竹忠重、青木彰時、青木麻衣子
プログラム:
18:00-18:15 解説(関根勝)
18:15-19:50 公演『骨の夢』
お問い合わせ:
関根 勝 TEL: 03−5286−1261
Email:art-culture@list.waseda.jp
主催:
早稲田大学国際教養学術院
協賛:
早稲田大学文化推進部

浅見慈一

蒲原史子

※早稲田文化芸術週間2012(10月17日~11月1日)の詳細は9月下旬より、学内設置のリーフレットおよび「早稲田文化」ホームページに掲載されます。
http://www.wasedabunka.jp/

関根 勝(せきね・まさる)/早稲田大学国際教養学術院教授(Performing Arts)観世流能楽師・師範

1945年5月に生まれ。早稲田大学院博士課程を修了後、British Council Scholarとして英国の大学院に留学。 2011年観世流能楽師師範。 ジャン・ギユーと「パイプオルガンと能」の演奏会。 ローマ狂言一座を主宰し、日本ツアー。『日伊喜劇の祭典』でイタリア喜劇『Bilora』翻案・上演。 2008年舞台上での東西文化融合実験のTheatre Project Siを立上げ、Hamlet, King Lear, Othello, Falstaff, Romeo and Julietを翻案・演出、日本各地で上演した。