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文化

「早稲田大学芸術功労者 阿刀田 高 展
 —短編小説を知っていますか—」

山本 さぎり/文化推進部 文化企画課

1.開催にあたり

阿刀田高展ポスター

 本展は、阿刀田高が2011年に第28回早稲田大学芸術功労者として表彰されたことを記念し開催します。「早稲田大学芸術功労者」とは創立百周年を記念して制定、本学校友のうち芸術の振興に顕著な功績のあった70歳以上の校友から、芸術功労者として選定し表彰、2012年で第29回を迎えています。

 阿刀田高は著名な作家であり多作、そのうえ活動も多岐にわたり、多くのファンがいます。そこで、本展を開催するにあたり、業績を顕彰することや本学への貢献を紹介することはもちろんですが、これまでの経歴が創作へと活かされていることも取り上げます。それは阿刀田高の言葉を借りれば”サムシング”でしょうか、活動のテーマであったり個々のネタであったりさまざまです。そして短編小説、ひいては日本語、書籍や図書館への想いについてもピックアップします。

2.略歴

早稲田大学第一文学部文学科仏文学専修 昭和34年度卒業論文 「アンフィトリオン」試論—モリエールとジロドゥ— 1960年

 阿刀田高は1935年1月13日に新潟県長岡市で生まれます(一般には東京生まれとされる)。16歳のときに父を亡くし苦学を重ね、1954年早稲田大学第一文学部文学科仏文学専修に進学しますが、1955年結核のため休学し16カ月間の療養生活を送ります。この間に盛んに短篇小説を読んだことが、後年の文筆活動の礎となります。大学卒業後、1961年から11年間、国立国会図書館に上級職員として勤務するかたわら、次々と作品を発表していきます。

 1976年「冷蔵庫より愛をこめて」でデビュー、1979年「来訪者」で日本推理作家協会賞、同年短編集『ナポレオン狂』で直木三十五賞を受賞します。1995年に直木三十五賞の選考委員に就任、同年『新トロイア物語』で吉川英治文学賞を受賞します。ほか日本推理作家協会、日本ペンクラブ、文化庁文化審議会、文字・活字文化推進機構など数々の委員・役員を歴任するいっぽう、2001年に朗読を通じて短編小説の魅力を訴えるグループ「朗読21の会」を慶子夫人らと発足、毎年公演を行っています。2003年紫綬褒章、2009年旭日中綬褒章を受章、日本ペンクラブ会長時の2010年に「国際ペン東京大会2010」を開催、2011年に「早稲田大学芸術功労者」として表彰、2012年リニューアルオープンした山梨県立図書館館長に就任するなど、精力的に活動を続けています。

「来訪者」で第32回日本推理作家協会賞受賞時の正賞 エドガー・アラン・ポーのブロンズ像 後藤光行作 1979年

 生い立ちは、出生時は双子でしたが、弟は1年足らずで亡くなります。そのことは間接であれ『闇彦』などの作品に見て取れます。父は工場を経営、叔父に西洋史学者(ナポレオン研究)で旧制第二高等学校(東北大学の前身校の一つ)の第九代校長を務め名校長と言われた阿刀田令造がいます。小学生から高校生までを、東京と長岡市での疎開生活とで過ごしますが、16歳で父が亡くなると一家は困窮生活に陥ります。

 中学校では科学部に入るなど自然科学に興味を持っていましたが、やがて文学への興味も持ち始めます。応用化学を志望する時期があったものの、1954年に早稲田大学第一文学部文学科仏文学専修に進学しました。

 ここで分かるように、自然科学への関心も創作へのヒントになっています。一例ですが、本展関連催事で12月12日(水)に開催する講演・朗読会での演目、『大きな夢』では「ピタゴラスの定理」がカギになっています(本催事の案内は下部参照)。

 早稲田大学では、アルバイトで学費や生活費をまかなう生活のなか、20歳の時に奨学金申請のための健康検査で肺結核の診断を受け休学・入院。16カ月にわたる療養生活を送るなかで、欧米の短編小説を盛んに読むことになります。

 治癒し復学後はフランス文学研究会に所属、メンバーに市川慎一(早稲田大学名誉教授)、鈴木志郎康(詩人、映像作家)、西江雅之(文化人類学者)、有働薫(詩人)らがおり、演劇公演を行っています。卒業研究は、フランスの作家モリエールとジロドゥの、ギリシア神話のモチーフ“ アンフィトリオン”の戯曲について論じています。この療養生活を経た学生生活で、「短編小説」「フランス文学」「ギリシア神話」というキーワードが見えてきます。

 大学卒業後、文部省図書館職員養成所を経て、1961年国立国会図書館に上級職員として奉職。ここで学者でもある諸先輩たちからの影響や、業務で多くの図書整理をこなしたことも、以降の著作や活動へと繋がっていきます。勤務のかたわらアルバイトとして文筆活動を始め、34歳で刊行した『ブラックユーモア入門』がベストセラーになるなどを経て、フリーの文筆家としてデビューします。

3.短編小説への想い

 先にあげたとおり、結核療養中の入院生活で欧米の短編小説を盛んに読むことになりますが、著作から引用すれば「小説入門もほとんどの場合短編を読むことから(以下略)」(『短編小説のレシピ』より)は、およそ通じることでしょう。

 読者であったのが、自身が執筆をし「短編小説の名手」と称されるまでになります。そのこだわりは国内外の短編小説の魅力を伝え、短編小説と長編小説の考察し、やがて「読む」だけでなく、「聴く短編小説」である「朗読21の会」公演活動と続けていくまでになります。「短編小説」へのこだわりは、たびたび著書やインタビューで語られており、本展ではこれまでの全著作を展示するなかで、短編小説、ひいては文章・文字について、引用形式で紹介します。

4.図書館・図書へのこだわり

 学生時は新聞記者を志望していたものの、既住歴のため就職先が絞られ、文部省図書館職員養成所を経て国立国会図書館に奉職します。この時の業務や知識のストックが小説に活かされていきますが、プロの文筆家となってからも、言葉、図書、そして図書館への関心は深く、日常での図書館とのつきあい、図書館運営の変化、図書館と専門員の減少していくなか、その弊害や「こういう図書館であって欲しい」という想いを語り、また活動しています。文字・文章については文化庁文化審議会の委員となり2007年から2011年まで会長を務め、また『子どもの読書活動推進法』と『文字・活字文化振興法』を具現化する団体、「公益財団法人 文字・活字文化推進機構」では副会長を務めています。

 そして、山梨県立図書館がリニューアル構想をたてていくなか館長就任の打診をうけ、2012年4月の館長就任、40年ぶりに図書館の現場へ戻ることになりました。本図書館は11月11日(日)に開館、県民に親しまれる図書館づくりを目指します。

5.早稲田大学への貢献

「第76回国際ペン東京大会2010」 9月30日外人記者クラブ記者会見
向って左からマリアン・フレーザー国際ペン獄中作家委員会委員長、ジョン・ラルストン・サウル国際ペン会長、阿刀田高日本ペンクラブ会長(当時)堀武昭国際ペン専務理事(写真提供:日本ペンクラブ・杉山晃造) 2010年

 大学卒業後の本学とのかかわりは、2000年度に第一文学部・第二文学部の客員教授に就任、<小説の構造と作法>などの講義を受けもちました。2007年より文化推進部アドバイザリー・コミッティー委員として本学の文化推進に尽力、25年ぶりの東京での開催となった2010年の「国際ペン東京大会2010」では本学も会場となり話題になったことは記憶に新しいです。そして2011年に「早稲田大学芸術功労者」として表彰、現在も本学での文化活動への助言・協力や講演会・朗読会開催など、学生・校友への貢献に寄与しています。

 以上ご案内しましたが、この他、さまざまな人物との交流や思い出・記念の品、今回初公開となる自筆原稿や備忘録なども展示します。創作だけでなく人生においても“サムシング”は身の回りに溢れていること、それをどのように引き出し活用するのかを感じ取っていただきたい、さらに素敵なサムシングを見つけるきっかけとなれば幸いです。

 そして阿刀田作品はもとより、短編小説、長編小説へと読書の幅を広げていただくことを期待します。残念ながら出版社で在庫切れの書籍もありますが、その際はぜひ図書館をご活用ください。

 最後に、本展の開催にあたり関係各位には、心より深謝の意を表します。
 ※なお、人物名については敬称略としています。

展覧会情報
会期:
2012年12月3日(月)~2013年1月26日(土)
会場:
早稲田大学 26号館(大隈記念タワー)10階 125記念展示室
主催:
早稲田大学文化推進部

※展覧会・関連催事・お問い合わせ等は本展紹介ページをご覧ください。
http://www.wasedabunka.jp/event/exhn/archive/2012/ex125log_20121001.php

また、関連催事のうち12月12日(水)16時30分開催、
阿刀田高講演・朗読会「小説のカレードスコープ —『大きな夢』を聞いて」—
の内容・申し込み方法などは下記ページをご覧ください。
http://www.wasedabunka.jp/event/lecture/2012/news121212.php

山本 さぎり/文化推進部 文化企画課

学生時の専攻は文化財科学。美術館・博物館勤務を経て2008年4月より現職。