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大隈記念講堂技術専門員としての6年間

玉谷 健一/大隈記念講堂 技術専門員・有限会社タツサウンド所属

大隈記念講堂

 私は、2007年10月1日より大隈記念講堂技術専門員をさせていただいています。まだ改装工事中の9月初旬に下見、打ち合わせに来たのが初めてで、当時、古い趣を残しつつも最新の機材が導入されたすごい講堂だなと思った事を記憶しております。

 打ち合わせで、私ども技術専門員が音響・照明・映像、全ての技術支援をするという業務内容を聞き、慌てました。なぜなら私どもは、音響しかやったことがなく、照明は多少解りますが、映像に至ってはさっぱりだったからです。

 市民会館等ではどうなのかというと、建物の管理をする人は大隈講堂と同様に常駐していますが、技術員は、舞台、音響、照明、各々1~2名の担当者がおり、業務内容が細分化されています。映像もありますが、ビデオ再生、PC接続程度の業務なので誰でも対応できます。

 大隈講堂の映像部門は、プロジェクターがハイスペックな機種であり、大隈講堂で撮影されている或いは任意の映像が、ボタン操作で映像設備のある学内施設へ配信できます。このボタン操作を理解するのに時間が必要でした。幸い映像に関しては、ポータルオフィススタッフに担当して頂けることとなり、事無きを得ました。音響は半日ほどで理解できたのですが、照明はひたすら勉強するしかありませんでした。

 私が配属された2007年10月1日は、1927年に竣工された大隈記念講堂が、改修工事を経てリニューアルオープンした初日でした。また、その年は早稲田大学創立125周年という記念の年で、10月21日の創立記念日を中心に様々な催し物が行われていました。大隈記念講堂リニューアルオープン初の催し物となった「早稲田大学創立125周年記念 祝賀能」(10/2)を始め、ソロ・ミュージカル「YAKUMO」(10/11)、緒形拳ひとり舞台「白野−シラノ−」(10/17)、ホームカミングデー・稲門祭(10/20−21)、歌舞伎「勧進帳」(10/28)、早稲田祭(11/3−4)と大きな催し物があり、その合間には125周年記念企画が続きました。そのためじっくりと機材に触れる時間も少なく、何をどうすべきなのかも解らないまま催し物が進行しておりました。企画建設課の方に「多少壊れても良いからいろいろと試して、何ができるのか早く理解してほしい」と言葉をかけて頂き、空いている時間に取り扱い説明書を見ながらあれこれと機材に触れ、一通り理解出来たのが1ヶ月半を過ぎた頃だったと思います。その後は、技術専門員、講堂管理スタッフ、ポータルオフィススタッフとの間で情報の共有をして、できる範囲で文書化に取り組みました。その後も修正は都度していますが、最近は全体的な見直しをする必要があるかなと感じています。

大隈講堂 調整室より

私の周辺の音響事情

 私は大隈記念講堂の勤務以外にも音響の仕事をしていまして、ここ2年、ドーム、アリーナクラスといった大きな現場に入ることが多くなってきました。こういった現場では、音響会社だけでも4~5社が入ります。会社によっては1社で賄える所もありますが、スピーカーを組む人、システム調整をする人、オペレートをする人、といった様に、たとえ1社で賄えるとしても業務の細分化が進んでいます。この細分化方式は海外では数十年前から導入されていましたが、近年日本でも導入されてきました。人員が増えるというデメリット(人件費、交通費、宿泊費等)はありますが、一人一人の負担が減るというメリットの方が大きいと思います。日本でも20年くらい前は、一人の人間が、スピーカーを組み、システム調整をし、オペレートするなど、一人で何役もこなさなければなりませんでした。現在でも市民会館等を使用してのコンサートですと、2~4人くらいで一人何役もこなしつつ、対応する場合がありますが、これも徐々に細分化されつつあります。

 音響機材の進歩にも目まぐるしいものがあります。デジタル化に伴い光ケーブル、LANケーブルでの音声伝送、アンプも効率の良い物が発売され、スピーカーもラインアレイというコンパクトでハイパワーな物が普及してきました。

 最近の舞台音響業界の話題は、ワイヤレスマイクの周波数移行問題です。地上デジタル放送、携帯電話の普及に伴い現行のA・AX帯が2019年3月31日をもって使用できなくなります(大隈記念講堂にあるワイヤレスマイクB帯はそのまま使用できます)。今後は、700MHz、1.2GHz、2.3GHz各帯域へと順次移行していく予定ですが、まだ新周波数帯のワイヤレスマイクは研究開発段階です。現行のワイヤレスマイク同様に音質、安定性が強く求められています。

早大生に思う事

 大隈記念講堂の技術専門員として6年勤めてきましたが、早大生に感じる事はほぼ全ての学生が礼儀正しい事、良き伝統が後輩へと受け継がれている事です。

 技術専門員になって学生と身近に接するようになり、私も実際の演出に関わる音響スタッフとしてサークルの発表会等に加わってみたいと思うようになりました。個人的な金銭目的や自己満足ではなく、私が技術的に関わることで大学、或いはサークルの古き良き伝統の中に新風を吹き込み、学生には新しいことを少しでも取り入れてもらうことで、また新たな伝統として受け継いでもらえればと思っています。学生が先輩から受け継がれた伝統を守っていくのも重要であることは重々承知していますが、時代のニーズは変わりつつあり、時にはもっとチャレンジ精神を持ってほしいと思うこともあります。

 学生達がチャレンジ精神を発揮する良い機会が毎年6月に行われる早稲田学生文化・芸術祭です。大隈記念講堂、小野記念講堂、ワセダギャラリーで約1週間の間、様々な学生サークルの発表が行われ、今年、大隈記念講堂では6月7日~16日にかけて、ダンス・演奏・お笑い・映画など20企画が実施されました。昨年は音響・照明共にプロの業者が入って行われましたが、今年は放送研究会の学生を中心に、学生自身が照明、音響、映像を担当し、より学生が主体的に関わるようになりました。あくまで学生主体のイベントなので、今後も学生の学生による学生のための文化・芸術祭であってほしいです。

 大隈記念講堂は2007年12月4日に国の重要文化財に指定されました。このような建造物が母校にあり、かつ利用できるという、他校には無いこの機会を学生の皆さんには十分に活用してほしいですし、誇りに思ってほしいと思います。

 この6年間でスタッフの人事異動もあり私が一番の古株になってしまいましたが、私は、早稲田大学、そして国の重要文化財に指定されている大隈記念講堂の技術専門員であることに誇りを持って今後も活動してゆく所存です。

玉谷 健一(たまたに・けんいち)/大隈記念講堂 技術専門員・有限会社タツサウンド所属

1990年4月より音響の仕事に従事する。以降16年間数々の歌手のコンサートツアーに同行。
2007年2月 有限会社タツサウンド入社。
2007年10月 大隈記念講堂技術専門員として勤務を始め、現在に至る。