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文化

浅井 京子(あさい・きょうこ) 略歴はこちらから

富岡重憲の蒐めた茶道具
—富岡重憲コレクション展示室「茶の道具」展—

浅井 京子/會津八一記念博物館特任教授

 5月の連休明けから約2ヶ月、富岡重憲コレクション展示室では「茶の道具」と題して展覧会を行います。富岡は客人のもてなしに抹茶を喫することを供しましたが、「茶碗と茶筅があればよい」といい、道具組みを整えての茶会にはあまり興味がなかったように聞いています。これを証するように茶碗は唐物、和物、高麗茶碗をあわせて50碗余が収蔵されています。当コレクション900件の約三分の一が陶磁器で、そのうち約六分の一が茶碗というのはコレクション中の割合として少ない量ではありません。

 それでもまったく茶碗以外の茶道具がないわけでもなく、今回は茶碗を中心に茶事に使われる道具達、陶磁器をはじめとする工芸品と禅僧の書、江戸時代の絵画を展示いたします。

〔茶碗〕

赤楽茶碗銘初ちぎり

 茶を喫するための碗です。茶道ではまず掛け幅そして茶入を格の高い道具としますが、茶碗は主人と客人のあいだを往来し、茶を喫するという行為の中心となる道具です。製作地によって唐物茶碗・和物茶碗・高麗茶碗と称され、中国・日本・韓半島でつくられた陶磁器です。当コレクションには唐物茶碗6件7碗、和物茶碗26件27碗、高麗茶碗20碗の計54碗を数えます。今回展示する唐物茶碗は禾目天目茶碗や油滴天目茶碗のように濃茶で使われるものがほとんどです。和物茶碗では唐津草文茶碗、長次郎の作と伝える黒楽茶碗 銘破れ窓、久田宗全(1647~1707)作の赤楽茶碗 銘初ちぎり、黄瀬戸茶碗 銘菊重、萩茶碗 銘白露を、高麗茶碗は堅手、伊羅保、雨漏、斗々屋茶碗を選びました。なお、写真の赤楽茶碗「初ちぎり」の銘は「渋かろか知らねど柿の初ちぎり」という加賀千代の句によっていると箱の貼紙から知ることができます。茶碗の色は銘の由来を知ればなおさらに秋空に映える熟柿がイメージされます(展示時期と季節がずれるのが残念ですが)。腰の部分に現れた緑色もこの茶碗に趣を添えています。

〔茶入〕

 濃茶のための抹茶を入れる陶製の小壺で、象牙で作られ裏側に金箔をはった蓋がつきます。そして仕覆と呼ばれる袋を着せています。古くからの伝世品には名物裂で作った仕覆がつき、これも鑑賞の対象となっています。茶碗と同様、中国で作られたものとわが国で作られたものがありますが、唐物を珍重します(残念ながら当コレクションの茶入はすべて日本製です)。桃山~江戸時代には一国一城にも匹敵するものとして扱われ、掛幅に次いで尊重される茶道具です。今回は「朝鮮唐津茶入 銘玉渕」、「備前茶入 伊部手」、「祖母懐耳付茶入 瀬戸」の3点を展示いたします。

〔茶杓〕

竹茶杓烏丸光廣

 茶入あるいは薄茶器の中の抹茶を掬って茶碗に入れるための匙です。竹で作ることがほとんどで、他に象牙・木地・塗物があり、鼈甲・銀製・陶製などもあります。長さはだいたい六寸余(18cm前後)で、先端を露、手元を切止、茶を掬う部分を櫂先といい、多くは半ばあたりに節をおきます。竹茶杓の初見は珠光といわれ無節、武野紹鷗は切止に節を置き、利休が中節にしたとされ、節の位置で真行草と区別しています。現在は多く中節、草の茶杓が使われ、真と行の茶杓が使われるのは特別の場合です。茶杓を納める筒は主に竹で作られ、杉材の栓がつきます。竹の皮を削ったものを真筒、皮を残したものを草筒といっています。また茶杓と同一の人が筒を作り署名のあるものを共筒、別人が筒を作った場合を替筒といいます。蒲生氏郷(1556~95)、烏丸光廣(1579~1638)、杉木普斎(1628~1708)と筒に江月宗玩の書がある甫竹(利休と同時代の茶杓師)作の茶杓を展示いたします。茶杓はどうみればよいかわからないといわれることが多いのですが、まず茶杓全体の姿を、そしてそれぞれの部位の違いなどを見ていくと一本の竹の匙にも興味をかきたてられるのではないかと思います。それぞれの作者が武家・公家・茶人・茶杓師であることも頭の片隅においてごらんください。

〔釜〕

 茶席で使われる茶釜は主に鉄を鋳造したものです。共蓋あるいは唐銅蓋がつき、胴や肩の部分に文様があるものもあります。胴に鐶付が二つ付けられます。形は真形釜のほかいろいろです。今回展示している釜は胴が三角形であることから焼飯釜といわれます。蓋の撮みは松茸を、鐶付は松茸と琴柱のような折松葉をかたどって作られます。仙叟(1622~97 宗旦の四男)好みといわれ、仙叟が金沢の卯辰山に寒雉を伴い松茸狩りをしたときの考案とされます。展示作品は箱蓋裏に「釜師 木越玄清三右衛門」の墨書銘があり作者がわかります。なお木越三右衛門は初代宮崎寒雉の弟子といわれ、その後数代続いたとされます。箱書きからは何代目の三右衛門かわかりませんが、この釜が作られたのは17世紀後半~18世紀前半といえます。

〔水指〕

 釜に補給する水や、茶碗・茶筅を漱ぐ水を貯えておく器物です。金属・陶磁器・木竹工品などがあります。陶磁器ではいろいろな場所で作られた壷や鉢を見立てて使われることも多く、今回展示の「白釉褐彩双耳壺」(磁州窯系 北宋時代)、「黒釉貼花文瓜形双耳壺」(南宋時代)はそれぞれ真塗の蓋を誂えて水指に見立てたものです。

〔花生〕

 花を生ける器。金属・陶磁・竹木製があります。それぞれに季節や茶会の性格によって使い分けられます。富岡の陶磁コレクションは明清時代の大きな作品が特色のひとつでもあり、花生になりそうな瓶壺の数は以外に少ないのです。今回は凛とした「青磁牡丹唐草文瓶」(龍泉窯 南宋~元時代)、筮竹の卦を文様化した「五彩算木文花生」(天啓赤絵 明時代末期)を展示します。

〔鉢〕

 懐石の道具あるいは主菓子を盛ること想定して、中国のものと日本のものを一点ずつ選んでみました。「青花龍猿図洲浜形鉢」(古染付 明時代末期)は器の形も面白い古染付の作品、「黄瀬戸四方鉢」(桃山時代)は入角がアクセントの四方鉢です。

〔香合〕

菱牛香合

 香をいれる合子(蓋物)です。炭手前のときに盆にのせて持出したり、炭斗に仕組んだり、棚などに飾っておくこともあります。また炭手前と関係なく、香合だけを待合などに飾ることもあります。掌に乗るほどの小さな器ですが、産地・材質・意匠・手法などさまざまな変化に富んでいます。風呂の季節には木地・漆器を、炉の季節には陶磁器のものを用います。両用として貝・金属・象牙などがあります。安政2年(1855)には「形物香合一覧」も作られました。ともに明時代末期に作られた「青花瓢形香合」「青花菱牛香合」と蓋表に鉄釉で梅ヶ枝が描かれた「唐津分銅型香合」を展示します。

〔香炉〕

 香を炷く器で、元来仏具でした。茶事では床の間の飾りに用いられます。中国で作られた「五彩獅子蓋香炉」(古赤絵 明時代 重要美術品)と「青磁袴腰香炉」(龍泉窯 南宋時代)を展示します。

〔掛幅〕

古溪宗陳

 茶事の床を飾る掛幅はいろいろですが、なかでも大徳寺にかかわる禅僧の書が多く用いられるようです。今回は春浦宗熈(1409~1499)「瑞松寺開筵祝偈」、澤庵宗彭(1573~1645)「投機之偈」、古溪宗陳(1532~1597)「偈頌」と白隠慧鶴の孫弟子にあたる卓洲胡僊(1760~1833)の書「喫茶去」を展示します。

 今回の展示で茶の道具をすべて紹介できたわけではありませんが、陶磁器を中心にさまざまな地域や時代の工芸品と禅僧の書、狩野探雪の絵画を見ていただきます。ぜひ、會津八一記念博物館1階ホール奥の富岡重憲コレクション展示室にお出かけください。

浅井 京子(あさい・きょうこ)/早稲田大学會津八一記念博物館特任教授

元富岡美術館学芸課長。2004年4月早稲田大学に着任、現在會津八一記念博物館特任教授。