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早稲田文学が英語圏最大の文芸誌とコラボレーション

窪木 竜也/早稲田文学編集室

 今から120年あまり前のことです。早稲田大学文学部の前身である東京専門学校文学科の講師だった坪内逍遙が、大学の知を広く世間に届けるべく、最初期の文芸雑誌として「早稲田文学」を創刊します。それに2年先立つ1889年、海の向こうのイギリスはケンブリッジ大学で、ひとつの文芸雑誌が産声をあげました。その地に流れる川の名前からとったという雑誌の名は「ザ・グランタ」。寄稿者として、『クマのプーさん』シリーズなどで知られるA・A・ミルンや、米国でもっとも権威ある賞のひとつピューリッツァー賞詩人のシルヴィア・プラスらが名を連ねる同誌は、創刊からおよそ1世紀のあいだ、大学生たちによって発行されていました。

「GRANTA JAPAN」創刊号のタワー 東京国際文芸フェスティバル2014の一つとして行われた創刊記念イベントで撮影。

 そんな「ザ・グランタ」と「早稲田文学」という、誕生の年も近く、大学や学生によって発行されるという共通点をもつ二誌が協力して、ひとつの文芸雑誌をつくりました。それが「早稲田文学」の増刊である「GRANTA JAPAN with 早稲田文学」(以下、「GJ」)です。

 120年もの歴史のなかには紆余曲折もありました。「早稲田文学」についてはこのシリーズの第一回目で、本誌編集委員・製作総指揮をつとめる市川真人・文学学術院准教授が記しているのでぜひそちらをご覧いただきたいのですが、「ザ・グランタ」も休刊と復刊をくり返したのちの1979年、リバイバルしました。それが今につづく季刊の文芸雑誌「グランタ」です。イギリスやアメリカの作家はもちろんのこと、ノーベル文学賞作家のガルシア=マルケス(コロンビア)やオルハン・パムク(トルコ)、さらには村上春樹といった作家たちの素晴らしい短篇を掲載しつづけ、国際的に読まれる文芸雑誌となっていきました。

 それとともに同誌は、スペイン、イタリア、ブラジル、中国、ノルウェー、スウェーデン、トルコ、ポルトガル、フィンランド、ブルガリア、イスラエルの出版社と提携しており、それぞれの編集部が「グランタ」国際版を刊行しています。

 その国際版のひとつとして、「GJ」は2014年3月に創刊しました(発行:早稲田文学会/発売:早川書房/翻訳・出版協力:日本財団Read Japan Program)。創刊号では、イギリス編集部と日本編集部が密に連携して一から企画を立ち上げ、日本語・英語・スペイン語と使用言語の異なる、出自も居住地も多様な20人の作家が書き下ろす、世界文学色の強い誌面をつくりあげました(英「グランタ」本誌は127号日本特集として、「GJ」創刊号と同時刊行)。

「GRANTA JAPAN with 早稲田文学」第1号(2014年) 表紙イラストは、イギリス在住のジュディット・フェレンツの描き下ろし。

「GRANTA」第127号*日本特集(2014年) この号と、「GRANTA JAPAN」第1号の表紙には同じ「山」のモチーフがあしらわれている。

 英「グランタ」本誌が、世界的に知られるようになった要因の一つに、「若手ベスト作家」特集という名物企画があります。現代イギリスを代表する作家のイアン・マキューアン(当時35歳)、カズオ・イシグロ(当時29歳)らが選ばれ、評価を高めることになった若手作家の登竜門的な企画です。この企画には、すでに第一線で活躍している実力派はもとより、次代を担うと目される新人作家が選ばれます。ここに登場する前はほとんど無名でありながら、この企画を機に活躍の場を広げる作家も少なくありません。実際、イシグロは、「若手ベスト作家」に数えられる前年にデビューしたばかり。同号では、出世作の長篇小説『浮世の画家』につながる瑞々しい短篇を発表しています。

 同誌の元編集長であるジョン・フリーマンが、この企画によって新人発掘を行うことで、長い歴史をもつ雑誌ながらも「今でも若々しくいられる」と語るように、媒体自体がつねに清新であり、毎号、新しい作品を世に送ることが「グランタ」の思想です。「若手ベスト作家」特集は同誌の核となるものです。

 1983年に始まるこの企画は、現在ではイギリスやアメリカ合衆国だけでなく、スペイン語圏、ブラジル、フィンランドにまで広がって、各国の「若手ベスト作家」をとりあげています。

「GRANTA JAPAN」第2号(2015年) 英語圏、スペイン語圏、ブラジルの「若手ベスト作家」を特集。さらに日本の実力派作家8人の新作書き下ろしも。

 今春刊行の「GJ」第2号では、そんな「若手ベスト作家」たちを大特集。各国の歴代の傑作を本邦初訳しました。

 そして2016年春の刊行に向けて、いよいよ待望の「若手ベスト日本語作家」特集が、「GJ」オリジナル企画として始動。「40歳以下のもっとも注目すべき日本語作家」10人を、新たに結成されたプロジェクト・チームが精選し、国内外に向けて発信します。

 プロジェクト・チームのメンバーは、堀江敏幸(文学学術院教授/早稲田文学編集委員)、市川真人(文学学術院准教授/早稲田文学編集委員)、山口晶(早川書房編集本部長)、辛島デイヴィッド(国際学術院講師/「グランタ・ジャパン」国際編集者)、貝澤哉(文学学術院教授/早稲田文学編集人)、窪木竜也(「グランタ・ジャパン」副編集長)の6人です。ジャンルの枠を越えた多彩で魅力的なラインナップにするべく鋭意進行中です。

 この「若手ベスト日本語作家」企画に向けて、今年9月からはじまるのが、「プラス1コンペティション」という公募プロジェクトです。プロジェクト・チーム選出の10人の作家にくわえ、「新しい才能」を求めて設けたこの一枠では、投稿作品を募り、最優秀作品を選び掲載します。さらに、その作品を英語に翻訳して、世界中の読者に送り届けようというものです。日本国内には数多の小説公募がありますが、類例のほとんどない試みです。

 この公募の発案者である早川書房の山口編集本部長は、企画の狙いとして、未知の才能を発掘したり、GJを周知したりすることと同時に、「日本に住む私たちとは共有している知識の異なる外国の読者を視野に入れることで、小説の書き方が変わったら面白い」と期待を語っています。

 募集対象は短篇小説。書き手の性別や国籍を問いません。プロ/アマも不問です。唯一、「若手」=刊行時40歳以下という年齢制限がありますが、日本語を創作言語とする作家を広く求めます。

 第一次予選では、プロジェクトに関わる若手編集者が週ごとに交代で選考を担当し、選考後すぐにオンラインで結果発表します。応募期間中であれば、一度落選したとしても、違う担当者に向けて、同じ作品あるいは改稿して何度でもチャレンジすることができます(投稿ごとに応募券1枚が必要です)。

 第一次予選を通過した作品は、さらに何段階かで精査され、最終的に上記のプロジェクト・チームの審査を経て、最優秀作が選ばれます。

 「プラス1」に選ばれた作品は「若手ベスト日本語作家」企画の10作とともに、「GJ」第3号に掲載。その後の英訳を経て、「グランタ」本誌および国際版の各編集部に送られることで、掲載される可能性があります。

 過去の「GJ」掲載作では、第1号所収の全作が英訳、「グランタ」本誌の「日本」特集に掲載されました。そのうち村田沙耶香「清潔な結婚」はブラジル版「裏切り」特集とフィンランド版「セックス」特集に、同じく第1号の本谷有希子「〈この町から〉」は、イタリア版「悪」特集にそれぞれ掲載され、世界各国に広がっています。

 応募方法の詳細は、現在発売中の『早稲田文学』秋号と早稲田文学編集室のサイト(http://www.bungaku.net/wasebun/)で公開しています。

 書き手として、読み手として、「早稲田文学」から世界へ羽ばたく逸材の誕生の瞬間に、ぜひ立ち会ってください!

窪木 竜也(くぼき・たつや)/早稲田文学編集室

2006年に早稲田大学第一文学部卒業後、08年から「早稲田文学」の編集に加わり、30歳以下の書き手だけを集めた若手増刊「U30」などを担当。2013年から東京大学大学院現代文芸論研究室に在籍しつつ、「GRANTA Japan with 早稲田文学」プロジェクトの日本側実務担当者(副編集長)として、ロンドンの「GRANTA」編集部をはじめとする多様な価値観を、雑誌のかたちにまとめあげている。