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文化

藤井 由理
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ル・コルビュジエ ロンシャンの丘との対話 展
―ル・コルビュジエの現場での息吹・吉阪隆正が学んだもの
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藤井 由理/早稲田大学創造理工学部建築学科 准教授

 2016年7月17日ユネスコ世界遺産委員会にてモダニズムの巨匠といわれたル・コルビュジエ(1887-1965)の建築17作品が世界の文化遺産に登録されることが正式に決定した。その17作品の中には、フランスにある<ノートル・ダム・デュ・オー礼拝堂>(ロンシャンの礼拝堂)と、日本では唯一のル・コルビュジエの作品である上野の<国立西洋美術館>も含まれている。この2作品を含む展覧会、「ロンシャンの丘との対話 展 —ル・コルビュジエの現場での息吹・吉阪隆正が学んだもの」が、早稲田大学會津八一記念博物館にて開催されている。ここでは、この展覧会の見どころを紹介すると共に、早稲田大学とル・コルビュジエとをめぐる点と点を線で結び、その糸をたぐってみたいと思う。

 まず展覧会の全体構成を簡単に説明する。展示は1階の企画展示室と2階の常設展の一部に分かれており、1階の展示室には、主にル・コルビュジエの<ロンシャンの礼拝堂>に関するものが展示されている。具体的には、礼拝堂の建設現場でル・コルビュジエが使用した青図と、早稲田大学ル・コルビュジエ実測調査研究会が作成した調査結果の図面。そして1/200の丘全体の配置模型(初期計画)と、内部の様子までわかる1/20の各模型。他に礼拝堂の屋根裏の映像や写真などが展示されている。2階には、早稲田大学の建築学科で教鞭を取り、ル・コルビュジエのもとで学んだ建築家の吉阪隆正に関連するものが展示されている。彼がル・コルビュジエのアトリエに在籍していた当時、担当したプロジェクトの図面やフランスでの生活や事務所での出来事を綴った日記などが並ぶ。

1階企画展示室展示風景(模型)
筆者撮影

1階企画展示室展示風景(青図)
筆者撮影

ロンシャンの礼拝堂とその建築群の実測調査

 早稲田大学ル・コルビュジエ実測調査研究会が2013年に発足されて以来、<ロンシャンの礼拝堂>と<司祭者の家><巡礼者の家>の実測調査が継続的に行われており、竣工後、初めてのロンシャンの丘全体にわたる建築群を対象にした実測となる。特に、白いモダニズムキューブの建築の印象の強いル・コルビュジエの作品に対して、彫塑的な形態であることで有名な<ロンシャンの礼拝堂>の特徴ある屋根の中に入った映像・写真は、いわゆる建築の裏側であるため人目に触れることもなく、これまで公開されてこなかった部分である。建築を学んだ人、そうでない人も含め、誰しも<ロンシャンの礼拝堂>の複雑で3次元的に自由な彫刻のような形態の建築をどのように施工したのか興味あるだろう。その一端を想像することが出来るのが、リブが剥き出しになり、自由な形態を支える構造が分かる、この屋根裏の内部の映像である。屋根裏に入ると、足元には薄くスリットがはいり、礼拝堂の内部光が漏れている。加えて礼拝堂の3つの塔のうちの1つ、内部が赤く塗られた塔と屋根裏の空間は穴で繋がっている。単にメンテナンスのための人通口か、通風のためか、または教会の音が響くようにとの工夫のためか、他の理由があるのか…想像を膨らませるときりがない。これらの建築群の実測調査は、まだ未完成の部分を残しており、今後、継続的な調査が予定されている。

<ロンシャンの礼拝堂>
©Tetsuyu Shiraishi

<ロンシャンの礼拝堂>の実測風景
©Tetsuyu Shiraishi

計画の経過が刻まれた青図

<ロンシャンの礼拝堂>青図
丘の全体配置図(ピラミッドなし)
©AONDH

 ル・コルビュジエが現場で実際に使用した13枚の青図のオリジナルが展示されている。青図のもとになるのは、トレーシングペーパーに描かれた原図で、それを特殊な機械(ジアゾ複写機)をつかって複製したものが青図である。原図には、ル・コルビュジエの現場での変更が加筆・修正され、設計の最終形が示されるが、途中経過はその時々に焼かれた青図にのみ記録される。つまり、その設計の経緯を追うことができるのが、まさに現場で使用されていた青図の面白さとも言える。 例えば、同じ4529という番号がふられた青図が2枚並んで展示されている。どちらも、ロンシャンの丘の全体配置図であるが、比べてみると、1枚目には描かれていない ‘ピラミッド’が2枚目では右下に描かれており、この‘ピラミッド’が計画の後半で加えられたことが分かる。他にも、アプローチ部分に丘に埋め込まれるように売店などが加えられている。青図を丁寧に読み解いてゆくと、その経緯や、どの寸法を重要に考えて設計していたのかなど、注釈なども含めて多くのことを読み取ることができる。

 ル・コルビュジエは、建築家であると同時にアーティストであり、午前中はアトリエでカンヴァスに向かって絵を描き、さらには彫刻を制作していたことでも知られている。彫刻については、家具職人であったジョセフ・サヴィーナ(1901-1983)との恊働であり、みずからが描いたスケッチを送り、それをサヴィーナが木彫で形にしていた。<ロンシャンの礼拝堂>の祭壇に設置する真鍮の台座にはめ込まれる木製のクロスの作成をサヴィーナに依頼しており、その際のスケッチが残されている。そこでは、材料や表面の加工などを細かく記すと共に、現地の家具職人の仕事への苛立とそれに満足出来なかった結果としてサヴィーナに依頼したことが推測される。

 これらの資料は、<ロンシャンの礼拝堂>を営繕・管理・運営している、ノートル・ダム・デュ・オーの慈善事業協会が所蔵しているもので、実測研究会が礼拝堂の調査時にお伺いした際に貴重な資料を見せていただき、今回の展覧会で展示させていただくまでに至った。展覧会の開催を快く承諾してくださり、ご尽力いただいた協会の副プレジデントのジャン−フランソワ・マテ氏には、シンポジウムでも来日していただき、<ロンシャンの礼拝堂>の建設までの経緯や、建設が始まった後のル・コルビュジエが向き合った困難とその完成にまつわる貴重なお話などについて聞かせていただいた。

吉阪隆正とル・コルビュジエ

2階展示風景 手前:吉阪隆正の日記、奥:吉阪がル・コルビュジエのアトリエで描いた図面
筆者撮影

 ル・コルビュジエのもとで学んだ日本人建築家は3人いる。前川國男(1905-1986)、坂倉準三(1901-1969)、そして吉阪隆正(1917-1980)である。この中では吉阪が一番若く、渡仏時期も1950-52年と前川、坂倉が渡仏した1928,29年から20年のずれがある。<ロンシャンの礼拝堂>の計画が始まったのが1950年であったことを考えると、吉阪はアトリエで、ル・コルビュジエが礼拝堂の設計をしている姿をみながら、自らの担当プロジェクト、<ユニテ・ダビダシオン(ナント・レゼ)>や<平和と免罪の教会堂(ラ・サント・ボーム)><ロクとロブ、カプ・マルタン(地中海)海岸地の宅地割>などの図面を描いていたはずである。特に、<ロクとロブ>の住戸配置のスタディにあらわれている曲線は吉阪らしいようにも感じる。これら担当した図面には、TAKA(または隆)のサインが入っている。

 そして吉阪は、多くの日記や旅行のスケッチブック、妻の富久子への手紙を残している。日記には、渡仏のために日本を発つ日から、初めてル・コルビュジエの事務所で本人に会った時のこと、また、そろそろ帰国をしようか…と考えはじめた頃までも、詳細に記録されている。ル・コルビュジエが64歳の誕生日を迎えた1951年10月6日に自分のトレードマークであるカラスの絵と共に描いた走り書きが、吉阪のスケッチブックの中に残されている。日本人の弟子3人を信頼していることを記し、いつか富士山を見に日本に行きたいと書く。そして、後の1955年に<国立西洋美術館>の設計が決まり、マエ(前川)サカ(坂倉)タカ(吉阪)が設計協力者となり、年内に来日を果たすその一方で、同年、<ロンシャンの礼拝堂>が竣工する。

 私たちはこの展覧会でル・コルビュジエとロンシャンの丘との対話、吉阪隆正のル・コルビュジエとの対話を通して、ル・コルビュジエと吉阪隆正の息吹を感じる。そして吉阪の背中越しに、かすかにしかし確かに早稲田建築にあらわれるル・コルビュジエの姿とも対話できるのかもしれない。

ル・コルビュジエ
ロンシャンの丘との対話 展
ル・コルビュジエの現場での息吹・吉阪隆正が学んだもの
会期 2016年6月29日(水)~8月7日(日)
会場 早稲田大学會津八一記念博物館
開館時間 10:00〜17:00(入館は16:30まで)
料金 入場無料
休館日 日曜日・祝日 但し7/18(祝)、8/7(日)は開館
共催 早稲田大学理工学術院創造理工学部建築学科、早稲田大学理工学研究所、早稲田大学建築学研究所、早稲田大学會津八一記念博物館
企画 早稲田大学「ル・コルビュジエ ロンシャンの丘との対話」展実行委員会
後援 Foundation Le Corbusier、Association Œuvre Notre-Dame du Haut、在日スイス大使館、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、日本建築学会
協賛 株式会社大林組、鹿島建設株式会社、清水建設株式会社、大成建設株式会社、株式会社竹中工務店
関連行事 シンポジウムⅠ「ロンシャンの丘の実測調査 + ル・コルビュジエと吉阪隆正」
日時:2016年7月2日(土)14:30-17:00
会場:早稲田大学 小野記念講堂
シンポジウムⅡ「ロンシャンの丘との対話」
日時:2016年7月16日(土) 14:30-17:30
会場:早稲田大学 大隈記念講堂 小講堂
基調講演:
ジャン-フランソワ・マテ
ノートル・ダム・デュ・オーの慈善事業協会 副プレジデント

藤井 由理(ふじい・ゆり)/早稲田大学創造理工学部建築学科 准教授

専門は建築デザイン、建築理論研究。主な建築作品は「新宮島邸」(2012)、「H邸」(2014)など。共監訳「世界の名建築解剖図鑑(著者オーウェン・ホプキンス)」(2013)、翻訳協力「輝ける都市(著者ル・コルビュジエ)」(2016)。2001~04年に在籍したStudio Daniel Libeskindでの主な担当作品「ロイヤルオンタリオ博物館」など。