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川名 はつ子
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絵本から見る子どもの権利 ~スウェーデン人作家の贈り物~

川名 はつ子/早稲田大学人間科学学術院教授

 皆さんは子どもの権利条約をご存知でしょうか。地球上のすべての子どもたちが幸せに暮らせるようにと世界中の英知を集めて1989年の国連総会で採択されたこの条約を、日本も5年後の1994年に批准しました。しかし、条約にうたわれている子どもの基本的人権、意見表明権、自己決定権を尊重し、子どもの最善の利益を擁護するという理念が日本ではまだまだ根付いておらず、児童虐待、貧困、不登校、いじめ、自殺、非行などが社会問題化して多くの子どもたちが悩み苦しんでいます。そこで子どもの権利を基盤に据えた子育てや教育の実現をめざして、スウェーデン人の画家チャーリー・ノーマンさんの子どもの権利を描いたイラスト展を2月いっぱいワセダギャラリー(27号館)で開催する運びになりました。

 展示される10数点のシンプルなイラストをご覧になって、地球上の子どもたちの厳しい暮らしぶりや楽しい夢に想いをはせてください。それが、家庭で、学校で、地域で、子どもの権利条約を基盤に据えた子ども支援に取り組んでいく第一歩になれば幸いです。

イラスト展開催までの経緯

 この展覧会開催は、私が2005年秋にストックホルム郊外に住む共同研究者谷沢英夫さん宅にホームステイした折、おつれあいのインゲルさんが見せてくださった1冊のブックレット『Barnens Lag』との出会いがきっかけでした。スウェーデン語を全く知らない私ですが、この冊子(1990年、国際NGO Save the Cildren Sweden 発行)に収録されていた13点のシンプルなイラストに、私は一目ぼれしてしまったのです。

 私は夢中でその冊子の全ページをカメラに収めて帰国し、担当する人間科学部の学生向け「子ども家庭福祉論」や、e-schoolの社会人学生向け「子どもと家庭の福祉」などの授業で教材として使いはじめました。リアクションペーパーへの記述から、このイラストが子どもたちの置かれた状況に想いをはせるイメージ喚起力に優れ、子どもの権利を基盤にした支援の行動に結び付きそうな手応えを感じていました。そして日本でも「子どもの権利絵本」を出版したりパネル展を開いたりして、もっと多くの人に「子どもの権利」を考えるきっかけにしてほしいと願うようになりました。

 チャンス到来! 2015年夏、大学院生を連れてストックホルムを再訪した際、イラストを描いた画家のチャーリー・ノーマン氏と巡りあって10年来の思いを伝え、イラストの使用許可をいただくことができました。その時に知ったのですが、ノーマンさんはスウェーデン国内だけでなく南米や南アフリカなどからも乞われて子どもの権利に関するイラストを提供するような著名な画家だったのです。

 聞くところによれば、この冊子は、1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」を、翌1990年にすぐさま批准したスウェーデンが、当時国内外の子どもたちの置かれた状況に対処するため、子どもの権利について、子ども支援に携わる大人たちに普及啓発する目的で作成され、多大な効果をもたらしたとのことでした。

 もとの冊子には、イラストのほかに写真とその説明文もついているのですが、当時のカメラマンや執筆者全員を探し当てて版権を取得することは現実的ではありません。今回は画家のチャーリー・ノーマンさんのイラストに絞り、日本における使用権を入手して絵本を出版することや、パネルに仕立てて全国巡回展覧会を開催することにしました。

子どもの権利形成の歴史と子どもの権利条約の成立

 1942年にトレブリンカのユダヤ人強制収容所に送られ、養育していた200名の孤児たちと運命を共にしたヤヌシュ・コルチャック先生などを先駆者として子どもの権利は形成されてきて、全54条の条文に結晶したのだと私は学びました。

 2008年に東洋大学で開かれたシンポジウムで国連子どもの権利員会の委員長李亮喜(イ・ヤンヒ)教授の特別講演をお聞きし、子どもの権利擁護のため、ジュネーブの美しい景色を楽しむ暇もなく、批准した国々が子どもとの約束を守っているかどうかを監視し、違反や不足があれば是正するよう勧告を送り続けているというお話に心打たれ、私は遅まきながら子どもの権利擁護にめざめました。理念の普及啓発だけでなく、大学教員として、子どもに関する政策の立案や実行に参画しなければと考え始めるようになりました。

企画展の準備過程

 イラストをA1サイズに拡大印刷しパネルに収めて展示してくれる場を探し、ポスターやチラシの作成配布等、すべて初体験の学生たちとの共同作業です。2016年10月末には、所沢キャンパス祭で「知ってる? 子どもの権利条約」と題してゼミ展示を行ないましたが、奥まった会場と宣伝不足のため来場者はまばら。すぐに気を取り直して埼玉トヨペットの社会貢献課の多大なご支援により、ショールーム内のギャラリーで11月一杯展示させていただきました。この時ご覧になった埼玉県内の里親会などから、地元の子どもフェスティバルに設けるブースでの展示用にパネルを借用したいとの要請が3件届き、喜んで貸し出すことにしています。

 そこへ、夢のような話が舞い込みました。京都府の観桜祭の企画として、京都府庁の旧本館(重要文化財)の中庭に咲く花盛りの桜を見下ろす2F会議室で、会期中の3月25日―4月2日の9日間パネル展開催が決まりました。

ワセダギャラリーでの展示内容

 2月は入試のシーズン。早稲田キャンパスは受験生と監督の教職員以外立ち入り禁止となってしまいます。しかし、受験生に付き添ってきて、大隈講堂に設けられる控室でお過ごしの保護者の方々を27号館のギャラリーにご案内し、ぜひ子どもの権利条約のパネルをご覧いただきたいと思っています。

 私は「親はなくても子は育つ、親があっても子は育つ?!」と題して講演することがあり、児童虐待は親の教育ネグレクトだけでなく、大人の過干渉も度を越すと子どもの権利を侵害することがあると大人たちに警告しています。早稲田大学の受験生も様々で、ごく少数にせよ、遠方から里子・養子の受験生に付き添ってこられる里親・養親さんもいらっしゃるようです。

 早稲田大学が、児童養護施設の卒園生対象に2017年度から新設した“紺碧の空奨学金”が当事者の間で話題になっていますが、この奨学金を施設で育つ子どもだけでなく、里子・養子にも拡大してほしいと学生部奨学課に申し入れて拡充に乗り出していただいているので、こうした社会的養護下の受験生やその付き添いの里親・養親さんたちにも、受験のついでにワセダギャラリーでの展示を見ていただけたらと願っている次第です。

「誰しも昔は子どもだった」… 一人でも多くの方が、子ども時代を自らのうちによみがえらせ、子どもの権利を自分のこととして考え、子ども支援に携わっていただくきっかけになれば、初心者の苦労も吹っ飛ぶことでしょう。

 ご来場をお待ちしています。

展覧会「絵本から見る子どもの権利~スウェーデン人作家の贈り物~」
【会 期】:
2017年2月1日(水)~28日(火)10:00~17:00 ※日曜日は休室
【場 所】:
27号館B1F ワセダギャラリー
【主 催】:
早稲田大学人間科学部 川名研究室
【問い合わせ】:
川名はつ子(早稲田大学人間科学学術院健康福祉科学科)
kawana@waseda.jp

川名 はつ子(かわな・はつこ)/早稲田大学人間科学学術院教授

お茶の水女子大学文教育学部卒業後、出版社編集部、帝京大学医学部勤務等を経て、2003年より早稲田大学人間科学学術院で子ども家庭福祉(児童福祉)を担当。専門は障害のある子どもたちの社会的養護で、実親と離れて暮らす子どもたちが、家庭的環境のなかで育つよう、施設養護から里親養育・特別養子縁組への転換に「早稲田大学里親研究会」の学生たちとともに取り組んでいる。社会福祉士資格と博士(医学)の学位を活かして、ソーシャルワーカーの養成に当たっている。