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▼こんな授業! どんなゼミ?

象徴の諸相(理工学部共通複合領域科目)~『薔薇の名前』を知っているか~

稲垣 光隆/理工学部5年

 記号学者ウンベルト・エーコ原作の『薔薇の名前』(1980)を知っているだろうか。修道院が舞台のこの作品の中では、さまざまなものが何らかの象徴として機能している。例えば、探偵役の修道士「バスカヴィルのウィリアム」の名は、バスカヴィルをシャーロック・ホームズシリーズの『バスカヴィル家の犬』(1901)から、ウィリアムを中世の普遍論争で知られる修道士オッカムのウィリアムからそれぞれとっている。このように作品に登場するキーワードは、無数の書物などから引用されている。

  この講義では、『薔薇の名前』の中に登場する「象徴的なもの」や「舞台背景」を学び、主人公がとる謎の殺人事件の真相究明の態度を手がかりに探求の「記号論」が展開された。まず、最初の2回で映画『薔薇の名前』を観賞し、次の4回は村井浩一先生の講義で「普遍論争」について学んだ。オッカムのウィリアムはこの中に唯名論者として登場する。

 『オッカムの剃刀』に代表されるような彼の論理的な考え方は、近現代科学に影響を与えている。この考え方は確かに現代日本人には当たり前に見え、劇中のバスカヴィルのウィリアムの性格を思わせる。しかし、普遍論争の「実在論」と対比するものとして「唯名論」が現われたとき、科学的なものがよそよそしく感じられ、科学と宗教の関わり方に今まで感じなかったあり方を知った。

 次に担当された井上明久先生は、映画に登場するキーワード「清貧」、「笑い」、「図書館」などについてほかの映画も参照しながら講義を進めた。思った以上にそれぞれに深い意味があり、非常に興味深かった。

 

 最後の4回で山田泰完先生によるまとめの講義が行われた。途中さまざまなエピソードが交えられ面白く、時たま余談なのかを見分けるのは難しかった。聖杯はいずこに。

 象徴(記号)の現れ方を学べる機会が持てる授業である。他学部の学生も興味があれば『薔薇の名前』を読んでみてはいかがだろうか。
※この講義のコーディネーターは、理工学術院山田泰完教授。

普遍論争…同じ種類の個物が普遍的な何かを共有していると考えるのが実在論。多数の個物を人間の知性の働きによって分類した時に共通する名前(普通名)を付けただけなので、個物が共通な何かを持っているわけではないとしたのが唯名論。

『バスカヴィル家の犬』(1901)…アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ作品の1つ。

記号論…記号学とも言う。他の事物を代理し表現する記号の機能に着目し、信号・図像・指標・象徴・観念と表象といった、多様な記号が織りなす構造を手がかりとして、文化全体の分析をめざす学問。

『オッカムの剃刀』…「より広範囲の事象を説明できる、より単純な理論がよい」という論理的な考え方。

『薔薇の名前』上・下
ウンベルト・エーコ/著 河島英昭/訳
初版:1990年1月25日 東京創元社
各2,415円(税込価格)

(提供:早稲田ウィークリー