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三十一文字に思いを込めて

田口 綾子/第一文学部4年 短歌研究新人賞受賞

―みずいろのらせん階段を降りてくるあなたは冬を燃やす火になる

 斬新な言葉選びの恋の歌30首。審査員には「清新で透徹した恋のまなざし」と評された。「ふとした瞬間に言葉が浮かぶんです」と、田口さんは知的な瞳を輝かせる。前掲の歌と並んで評価の高かった―すきなひとがいつでも怖い どの角を曲がってもチキンライスのにおい―の歌については、「最初は、チキンカレー・ビーフカレー・ポークカレーで迷っていたのですが、甘酸っぱいチキンライスのにおいの方が、何となく恋の切なさに通じるところがあると思って」

 短歌研究新人賞受賞の知らせを受けたのは7月半ば。戸山キャンパスのカフェテリアで夕食をとっていた時に、担当者からの留守番電話メッセージに気がついた。「予想外のことで、腰を抜かしそうになりました(笑)」。息をつく間もなく、今度は受賞後第1作として『短歌研究』10月号に新作30首掲載の依頼が来る。抽象的な作風の受賞作『冬の火』とは一転、自身の教育実習体験をテーマにした連作『実習日誌』を書き上げた。締め切りの時期は夏季集中講座の博物館実習と大学院試験の勉強が重なったため、「本当に時間がなくて泣きながら作りました」と笑うが、作品のレベルの高さを見ると、忙しい中作ったとはとても信じがたい。

 「『技術はあるが、気持ちが伝わってこない』とよく評されるので、感情が読み手にしっかり伝わるような歌を作ることが今後の課題です」と田口さん。今回の受賞作も、審査段階では応募者のプロフィールが明かされないため、審査員に「年配の人が若者のふりをして詠んだ」と思われていたという。「マイナスの感情が読み手の負担になるのが怖くて、雰囲気の良い言葉で二重三重にオブラートに包んでしまいがちで。結局、肝心の感情が伝わらないんです」。現在所属中の「早稲田短歌会」では、学生同士で意見をぶつけ合い、感性を磨く毎日だ。

「独りよがりにならないように感情を表現したい。そしていずれは自分自身についてだけではなく、自分の周りの世界のことも表現できたら……」。田口さんの歌は、ゆっくりと確実に進化を続けている。

受賞作『冬の火』三十首より
いくつかの「もし」が交錯するなかでスプーンだけが輪郭をもつベランダのはるか遠くで日は暮れて追伸に書くかささぎのこと

『実習日誌』三十首より
便覧の文学年表めくりおり君のささくれにふれるように一コマの授業でチョークは板書から黄色い粉へとはらはら変わる

※短歌研究新人賞
若手歌人の登竜門。主催は短歌研究社。月刊短歌総合誌『短歌研究』で、未発表の近作短歌30首を毎年公募する。受賞作品と選考結果は、同誌9月号に掲載。1954年より「短歌研究50首詠」として始まり、58年に「短歌研究新人賞」に改称。「短歌研究賞」「現代短歌評論賞」と共に、毎年9月下旬に授賞式が行われる。

(提供:早稲田ウィークリー

田口 綾子(たぐち・あやこ)/第一文学部4年 短歌研究新人賞受賞

1986年茨城県生まれ。県立水戸第一高校卒業。第一文学部4年。早稲田短歌会所属。高校3年生の時、全国高等学校文芸コンクール短歌部門で優秀賞。2008年、『冬の火』30首が第51回短歌研究新人賞。月刊誌『短歌研究』10月号(短歌研究社)に、受賞後第一作として『実習日誌』30首を掲載。11月号には、『新進気鋭の歌人たち』特集で10首とエッセイを掲載。好きな歌人は、永井陽子・東直子・栗木京子ほか多数。