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地下街にいても地上が見える ドーム型3次元地図をデザイン

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大石 諸兄/大学院基幹理工学研究科 修士課程2年

「『もの』ではなく、『人の体験』を形にしたい」

 1954年から毎年開催されている「Red Dot Award」は、「iF design award」と並び世界的に権威のあるプロダクトデザインの二大国際コンペティションのうちの一つです。現在活躍する多くのデザイナー、優れた製品を生み出す多くの企業がこのコンペティションで受賞しています。

 大石諸兄さんは、同コンペティションの「デザインコンセプト」部門で「Best of the Best」賞(2015年)を受賞しました。受賞作「Groundarium」は、いつも地下街で迷子になってしまう人には画期的な装置です。目的地までの方角と距離をビジュアルで示してくれるので、細かい地図を解読しなくても、スムーズに目的地まで到着できるようになります。そのデザインコンセプトと自身の将来について、語ってもらいました。

受賞作「Groundarium」

――「Best of the Best」賞受賞おめでとうございます。今回このコンペティションに応募したきっかけを教えてください。

「Red Dot Award」は、3つの部門賞から成っているのですが、今回私が受賞した「デザインコンセプト」部門は、その他2部門と異なり、デザインしたものが実際に製品化できるかどうかは不問で、そのコンセプトが審査対象となるので、学生でも応募しやすい賞となっています。デザインを学ぶ学生の中では、在学中にこの賞を受賞することを目標とする人が多く、いわば新人デザイナーの登竜門のようなものです。私も在学中の受賞を目指してきた一人で、今回初めて応募しました。受賞できたことを大変光栄に思っています。

シンガポールでの授賞式の模様

――受賞作「Groundarium」ですが、この名前は何に由来するものですか?

 「Groundarium」は、地面や地上の「Ground」と、アクアリウムやプラネタリウムなどに付く「~rium」を組み合わせた造語です。その名の通り、プラネタリウムの地上版のようなもので、地下街にいながらにして、地上の様子がリアルかつ立体的に分かるという、いわゆる「3次元の標識」となっています。

――「3次元の標識」というアイデアはどのようにして思い付いたのですか?

 私は長幾朗先生(理工学術院)の研究室で、「どのようにすれば人に分かりやすく情報を伝えられるか」について研究していますが、この作品も、まずは「分かりやすく情報を伝える」ことをコンセプトにしています。例えば、新宿や渋谷の地下街は複雑に入り組んでいて、迷う人が多いです。人々が迷わないようにするにはどうすればいいのか、地下街にいる人たちにどのようにして、どのような情報を伝達すれば迷わなくなるのか、と考えて、その解決策をデザインしてみようと思い付きました。

――3次元化したことのメリットは?

 今一番普及している情報形態は文字です。それに伴い、情報を媒介するメディアも標識や地図などの平面構成という2次元に基づいた形をしています。でも私たちは3次元の世界にいますし、情報も3次元の世界の中にあるのですから、標識や地図などのように、わざわざ2次元にして情報を表現したものよりは、3次元のまま、3次元のメディアで情報を受け取れるようにした方が分かりやすいのではないかと考えました。そこで、情報媒体を3次元化できるメディアをどうデザインすればよいか、考えて思いついたのがドーム型の「Groundarium」です。現在地や目的の建物までの位置関係がどうなっているか、3次元で空間的に捉えられるようになるので、より分かりやすく情報が伝えられると思ったのです。

――作品のコンセプトを説明してもらえますか?

 例えば新宿の地下街にいて、伊勢丹を目指して歩くとします。2次元媒体の地図を見ながらだと、「伊勢丹がここで、現在地はここで、それならまず右に曲がって、100mくらい歩いて…」となるのが、3次元媒体の「Groundarium」なら、すでに地上にある伊勢丹の建物が見えるので、そちらに向かって歩いていけばいいということになります。ここからどれくらい歩けばいいかということも、直感的に分かります。つまり、目的地もしくはその周辺の景色さえ分かっていれば、2次元の「地図」や「標識」より、この「Groundarium」の方が、目的地までの行き方・所要時間がずっと容易に把握できるようになるということです。それに、地図だと日本語が読めることが必要になるかもしれませんが、「Groundarium」は風景を表示しますので、日本語は不要です。日本語の分からない外国人観光客にも、一目瞭然の道案内になると思います。「Groundarium」の映像作品は、東京オリンピックが開催される2020年を想定して作ってみました。海外から大勢の観客が来日すると思いますので、もし「Groundarium」が製品化されたら、言葉によらなくても道案内することが可能となります。

――来年修士課程を修了されますが、その後は?

 企業にデザイナーとして就職することが決まっています。私がデザインしたいのは、家電製品や電子部品などの「もの」ではなく、いわば「人の体験」です。例えば、人がスムーズに移動するにはどうしたらよいか、電車やエレベーターなどいろいろな方法が考えられますが、人々が求めているものを最も合理的で実現可能な方法で実現するにはどうすればいいかを考えて、デザインするような仕事に携わる予定です。形のある「もの」でなく、形のない「こと」を考案するデザイナーになりたいですね。

(提供:早稲田ウィークリー

天井の高い長幾朗教授の研究室にて

大石 諸兄(おおいし・もろえ)/大学院基幹理工学研究科 修士課程2年

東京都出身。佼成学園高等学校卒業。子供の頃から絵を描くことと数学が好きで、それを両立できる基幹理工学部表現工学科に入学。現在在籍している長幾朗教授の研究室では、芸術と工学の複合を実践形式で学んでいる。2015年度小野梓記念芸術賞受賞。