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天皇陛下ゆかりの「育志賞」受賞 人権を保障できる国際法を目指して

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早稲田キャンパス2号館前で。ここには帰国した際に使用する専修室がある

根岸 陽太/法学研究科公法学専攻 博士後期課程 3年

「サッカーに例えればヨーロッパリーグ“ブンデスリーガ”!? 世界最高峰の研究所は、毎日が刺激的です」

 今年の3月に、若手研究者を支援する学術振興会特別研究員・第6回(平成27年度)育志賞を、早稲田大学で初めて受賞した根岸陽太さん。現在は、国際法の最高峰といわれるドイツ・ハイデルベルクにあるマックス・プランク比較公法・国際法研究所で日々研究に励んでいます。その根岸さんが国際法を専攻したのは、偶然手にしたサークル勧誘のビラがきっかけだったとか。育志賞で認められた研究や、国際法と恩師への思い、そしてドイツでの暮らしぶりなどを、博士論文提出のために一時帰国した早稲田キャンパスで語ってくれました。

育志賞…日本学術振興会は、天皇陛下の御即位20年に当たり、社会的に厳しい経済環境の中で、勉学や研究に励んでいる若手研究者を支援・奨励するための事業の資として、平成21年に陛下から御下賜金を賜りました。陛下のお気持ちを受けて、本会では、将来、我が国の学術研究の発展に寄与することが期待される優秀な大学院博士課程学生を顕彰することで、その勉学及び研究意欲を高め、若手研究者の養成を図ることを目的に、平成22年度に「日本学術振興会 育志賞」を創設しました。(出典:日本学術振興会HPより

根岸さんは、優れた研究を行い、将来的に期待される大学院博士課程の学生として、先進理工学研究科の藤原和将(ふじわらかずまさ)さんと共に、全国150人の中から18人の育志賞受賞者に選出されました。

――育士賞の受賞、おめでとうございます。どのような研究が評価されたのですか?

育志賞授賞式

 国際法は、例えば中国や韓国との領土問題など、国家間の問題を扱う分野ですが、私がテーマにしたのは人権保障や人道支援に焦点を当てたものです。内戦が起きた中南米諸国では、被害者の身元が分からない強制失踪が頻発しています。明らかに国際基準に反する国内法を適用して、構造的に人権侵害が起こっている国に対して、個人を守るための秩序作りを多面的に研究しているのですが、今回の賞では人権保障の枠組みや、被害者家族の救済など、国と個人の問題を長期的な視点で捉えたことを評価していただきました。

――そもそも国際法を専攻したのはなぜですか? どんなところに引かれたのでしょうか?

 法学部入学式の日に、ものすごい数のサークルが勧誘をしていたのですが、早稲田キャンパス南門で最初にもらったのが「国際法研究会」(公認サークル)のビラで、そのまま入会したのがきっかけです。模擬裁判の大会に数多く出場して、実績も収めているサークルですが、そのために早稲田大学のロースクールでも実践しているようなレベルの高い議論を行います。ある先生によれば年間20単位に相当する勉強量だそうで、入会したらもうやらざるを得ない状況でしたね(笑)。でもみんな楽しんでやっていました。

 国際法は、何が正しいのかまだ分からない状況です。だからこそ法の堅いイメージから脱却して将来を見据え、難民救済やテロリズムといった問題解決のために、あるべき姿から議論する。そして、必要なものを作り直していく…。そんなダイナミックでスケールの大きなところが一番の魅力です。

――法学部卒業後、修士、博士課程と研究者の道に進まれたのは?

 学部在学中に「ジェサップ国際法模擬裁判大会(Philip C. Jessup International Law Moot Court Competition)」という世界最大規模の大会で、個人弁論部門の国内予選を通過し、ワシントンでの世界大会に行ったのですが、裁判では既存の法を適用して、依頼主の短期的な利益のために意に反した代弁もしなければいけません。そのことに少し違和感を覚えていました。誰かの利益に縛られるのではなく、もっと自由に発信や主張をしていきたいと考えるようになり、「それをやるなら研究者だよ」と、先生方に導いていただきました。

――今はドイツのマックス・プランク比較公法・国際法研究所を拠点にされているそうですが、どうして海外へ行こうと思ったのですか?

マックス・プランク比較公法・国際法研究所所長アンネ・ピータース先生の公開講演会看板横で

 古谷修一先生(法学学術院教授)の影響が大きいです。「国際法を勉強するなら海外の標準を知っておいた方がいい」と、アドバイスをくださいました。それまでは国内で地盤を固めてから海外に出るというのがスタンダードでしたが、これからはまず外に出て、英語を使って経験を積んでいくことで、海外で発表できたり、国内に還元できることもあると教えてくれました。これは私の好きなサッカーにも共通しています。国内と海外では、サッカーの質が違います。本田圭佑選手や香川真司選手が海外に出てスキルを高め、日本代表として活躍するのと同じことだと思います。

 もう1人、影響を受けたのが政治学研究科の最上敏樹教授です。研究科は違いますが、国際法を長期的な視点で捉える日本では数少ない先生です。学部生1年の時からゼミに出させていただいたのですが、将来を見込んでくれて現在のマックス・プランク比較公法・国際法研究所のアンネ・ピータース所長の助手に推薦してくれました。

 お二人には人生の基軸を提供していただきました。言葉にならない程感謝していますし、期待に背かないようにしたいというのが研究への志につながっています。時々メールを見返して、先生方の言葉に立ち返ったりしています。

カナダ国際法学会での報告(中央が根岸さん)

欧州国際法学会で使用したポスターの前で

今年10月、根岸さんの講義に耳を傾けるナポリ大学の学生

――ドイツへは1年半ほど前に行かれたそうですが、現地での研究、生活はいかがですか?

 マックス・プランク比較公法・国際法研究所は、国際法を専攻する学生にとって憧れの場所です。世界中から一流の知能が集まり、常に世界標準が見えます。ここで議論の立て方や論文の発表の仕方などを学び、研究できていること、そして国際会議に参加できる機会をたくさんいただいていることはとても有り難いです。

 ハイデルベルクの街の中心にはネッカー川が流れ、周囲の山々や有名なハイデルベルク城を毎日見ることができ、環境にも恵まれています。ランチタイムには、研究所内の学生食堂のようなところへメンバーと一緒に行くことが多いですね。優秀で個性的なメンバーばかりなので、ちょっとしたニュースでも議論の質がとても高くて(笑)。でもリラックスした場では、思いもよらない新たなアイデアが生まれることもあるので、とても貴重な時間です。みんなオンとオフを切り替え、プライベートをとても大事にしますので、私もメンバーと夜食事をしたり、週末は河原でバーベキューをしたりサッカーをしたりと、日本にいるとき以上に楽しんで研究に集中できているかもしれません。

欧州国際法学会(ラトビア国リーガ市)後に、会議参加者と観光

フィレンツェ・サマースクールでの食事会

サッカー観戦

――とても充実した研究生活を送られていますね。最後に将来についてお聞かせください。

 学問に関わっていきたいです。可能であれば学生にも教えたいですね。これまで経験した国際会議での立ち振る舞いやマナー、研究をどう発信していけばいいかということを伝えていきたいです。国際法のマーケットは世界中どこにでもあるので、自分のスキルさえ磨いていけば、日本に限らずどこででも活躍できると考えています。いろいろな可能性を見ながら、今はひたすら研究に打ち込んでいるところです。

(提供:早稲田ウィークリー

根岸 陽太(ねぎし・ようた)/法学研究科公法学専攻 博士後期課程 3年

【プロフィール】
 東京都出身。早稲田高等学校卒業。学術振興会特別研究員DC1、マックス・プランク比較公法・国際法研究所客員研究員。第6回(平成27年度)育士賞では、研究テーマである「国内法の条約適合性統制-地域的人権条約の実施における国際裁判の立憲化と憲法裁判の国際化-」が受賞につながった。趣味はサッカーなど球技全般。国籍・立場が違う人と、文化や研究・仕事について会話をするのが好き。休暇を利用して、両親とヨーロッパ旅行を楽しむこともあるそう。
代表作:The Pro Homine Principle’s Role in Regulating the Relationship between Conventionality Control and Constitutionality Control
European Journal of International Law (forthcoming)