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障がいを越えて 憧れの早大ラグビー蹴球部レギュラー奪取への挑戦

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白ジャージは、早稲田大学ラグビー蹴球部の正装

岸野 楓/教育学部 1年

「名門校で活躍する姿を見せ、障がいをもつ子どもたちにエールを送りたい」

 今年4月に早稲田大学教育学部に入学し、ラグビー蹴球部に入部した岸野楓さんには、生まれたときから重度の難聴があります。小学校2年生のときに、お父さんがコーチをしているクラブチーム(岐阜・各務原ラグビースクール)でラグビーを始め、高校では合同チーム(※1)でプレー。普段の生活では両耳に付けている補聴器も、ラグビーの練習や試合では危険回避のため外すしかありません。そんな岸野さんがラグビー蹴球部に入部したのは、「自分への挑戦」であり「障がいを持つ子どもたちへのエール」と話します。創部98年のラグビー蹴球部において、聴覚障がい者の入部はおそらく初めてだとか。入部の夢を果たした岸野さんが、大学ラグビーの試合で感じたこと、レギュラーを取るための課題、そして将来への思いなど、ときどき手話を交えながら自分の言葉で話してくれました。

※1 部員数が少ない高校のメンバーが集まり、チームを編成するもの

新人戦(早明戦)後半、フランカーとして出場。同年代の選手のパワーにまだ追いついていないことを痛感させられた印象的な試合

上井草グラウンドにて練習着で。いつもこのグラウンドで練習に励んでいる

――高校2年生と3年生のときに、2年連続でU18合同チーム(※2)に選ばれたそうですね。印象に残っている試合はありますか?

 U18合同チーム東西対抗戦のメンバーになったときは、まさか自分が選ばれるとは思っていなかったので驚きました。今年の1月に、全国高等学校ラグビーフットボール大会準決勝戦の前哨戦として行われた「U18合同チーム東西対抗戦」では、東軍代表としてフル出場でき、終盤には約40メートルを独走することができました。試合には負けてしまいましたが、事前の合宿を通してチームメートと仲良くなることができ、そのことで試合中にとてもいいコミュニケーションを取ることができましたし、いいプレーにもつながりました。高校ラグビーの聖地といわれる花園ラグビー場で満足のいく試合ができ、とても印象に残っています。

※2 規定上「全国高等学校ラグビーフットボール大会」に出場できない合同チームの高校生ラガーメンのために、東西25名ずつの代表選手によるチームを編成。「U18合同チーム東西対抗戦」を、全国高校大会準決勝の前座試合として実施する。

上井草グラウンドのクラブハウスにて

――入部は簡単なことではないと聞いています。ラグビー部に入ろうと思ったのはなぜですか?

幼いころから難聴児通園施設で言語訓練を受け、言葉を話すことを身につけてきた

 高校は聴覚特別支援学校に通っていたのですが、U18合同チームに選ばれ、活躍の場が得られるようになって、大学でもラグビーをやりたいという気持ちが強くなりました。それは自分をもっと高めたいという思いと、障がいがある自分がレギュラーになって活躍する姿を見てもらうことで、他の障がい者にも「やればできるんだ」という気持ちを持ってほしいからです。そのころ進路の話を先生としたときに、学力面でよりレベルの高い大学に挑戦してみたらと勧められ、名門のラグビー蹴球部がある早稲田大学に入りたいと思うようになりました。もちろん学力が高く、ラグビーも強い大学は他にもありますが、赤黒ジャージーが一番かっこいいと思っていましたし、力強く連携して勝ち抜くプレーに小さいころから憧れていたので、早稲田大学しか考えられなかったです。

 入部テスト(新人練習会)は12日間あって、私はテスト中の指示が聞こえないので、始まる前にテスト内容をトレーナーの方にノートに書いてもらって理解していました。筋力、瞬発力、持久力などを見るテストがさまざまな形で行われましたが、一番つらかったのは、休憩なしでハードなメニューをこなさなければいけなかったことで、身体・精神面共に追い込まれました。脱落する選手もいて、私も途中で諦めそうになったこともありましたが、これまで自分は多くの方に支えられて成長できたという感謝の思いがあったので、ここからは自分の力で打ち勝っていかなければいけないと思い、気持ちを切り替えました。無事に合格し、早稲田カラーのウエアを着て入部式に出たときは、とてもうれしかったです。夢が1つかなった瞬間でした。

――入部して半年がたちましたが、憧れのラグビー蹴球部に入って感じたことは何ですか? 大変なことはありますか?

11月6日、秩父宮ラグビー場で帝京大戦に臨むAチーム。このグラウンドで活躍することが自分の目標だ (C)Waseda University Rugby Football Club/Ken Shimizu

 高校までは練習は週に数回でしたが、今は毎日ラグビーに集中できる環境にいるのでとても充実しています。監督はじめ、周囲の方が私の障がいのことを理解してくれているのもうれしいです。試合にも何度か出場しましたが、そこでは課題もたくさん見えました。印象に残っているのは新人戦の早慶戦と早明戦で、試合終盤に出場したのですが、私は他の選手と比べて圧倒的にパワーが足りないと痛感させられました。豊富な運動量や高い能力が求められるフランカー(※3)という重要なポジションを任されていますが、レギュラーを取るには体を大きくして、スキルを高めていくことが必要と考えています。

 あとは、コミュニケーションの部分でまだ苦労しています。練習や試合では補聴器を外すので、何も聞こえなくなります。必要なことはトレーナーが筆談で説明してくれますが、試合中はそうもいかず、仲間や相手の動きを目で確認したり、予測して動かなければいけません。練習の内容や試合の戦略を自分なりに理解するために、動画を見て自分自身の動きを確認したり、チームの戦術に合ったプレーができているか振り返ったり、チームメートのプレーをしっかり見て、それぞれの特徴を覚えたりしながら試合に臨めるように努力しているところです。

※3 フォワードの花形。スクラムから真っ先に飛び出して相手にプレッシャーをかけたり、激しいタックルで相手のボールを奪い取ったりする役割。気の強さとスピードが要求されるポジションといわれている。代表的な選手は、ラグビーワールドカップ2015日本代表キャプテンのリーチ マイケル(東芝)

――コミュニケーションの部分で、他に周囲のサポートはありますか?

 チームメートが「手話を教えて」と言ってくれて、簡単な手話を覚えてくれていますのでとても有り難いと思っています。

 大学では、障がい学生支援室から授業の形態に応じてPC通訳や記録(※4)、手話通訳などの支援を受けているので、授業中の情報漏れなど困ることはほとんどありません。ただ、授業中にみんなが笑ったときなど、ちょっと間が開いて遅れて笑ったりすることはよくありますね(笑)。

 ラグビー蹴球部にもスマートフォンなどで使える音声通訳アプリを導入してもらえたら、練習中のコーチの話も、もっと多くの情報をリアルタイムに得ることができるので、そんなふうになればいいなと個人的には思っています。

※4 聴覚障がいをもつ学生などが授業を受ける際に、支援ボランティアが隣に座り、教員の講義内容やその場で起きていることを、PCまたは手書で文字通訳すること。

―――今後の目標、将来の夢を聞かせてください。

練習場の出入り口に掲げられた新スローガン。個の力を高め、「鎖」のようにつながって強いチームを目指す

 もちろんレギュラーになって、赤黒ジャージーを着て関東大学ラグビー対抗戦で優勝することです。ラグビー蹴球部はレベルによってA~Eチームまで分けられていますが、今はCDチームです。レギュラーになるにはAに入らなければいけないので、まずは2年生でBに入ることを目指して頑張っています。

 卒業後は聴覚特別支援学校の教員になるのが夢で、教育学部に入学したのもそのためです。教員になって、障がい者として自分がこれまで経験したことを伝え、同じような子どもが将来への希望を持てるようにサポートしていきたいですし、お世話になった地元のスクールで、ラグビーのコーチとして次世代の育成にも関わりたいです。

(提供:早稲田ウィークリー

岸野 楓(きしの・かえで)/教育学部 1年

【プロフィール】
 岐阜県出身。岐阜県立岐阜聾学校卒業。高校時代は週末のみ合同チームの練習に参加。U-18合同チーム選抜代表では、高校2年生でフランカー、3年生でロックとして活躍した。現在は大学の一般学部生向けの寮で生活しているため、ラグビー選手の体をつくるには食事の量が足りず、自分で買って補っている。平日は大学の授業と練習で、寮に帰るのは21~22時。食事、入浴、洗濯を済ませて就寝する。大学ラグビーの選手経験もあるお父さんからは「自分の持ち味を発揮して、アピールして、頑張れよ」「けがに気を付けて」といつも応援の言葉をもらっている。