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岡田武史さん・瀬古利彦さん・堀尾正明さん座談会

世界で勝つアスリート

 サッカー日本代表監督、マラソン指導者、フリースポーツアナウンサー。それぞれの違う分野で活躍する同年代の3名は、日本のスポーツのあり方を厳しい視点で見つめてきました。プライベートでも親しい早稲田大学校友の3名。早稲田大学に隣接するリーガロイヤルホテル東京にて、アスリートが世界で活躍するためには何が求められているのかをテーマに語っていただきました。

出演者
 

岡田 武史さん/サッカー日本代表監督

1956年8月25日、大阪府生まれ。76年早稲田大学入学。卒業後は古河電工サッカー部で活躍し、日本代表選出。90年引退。98年仏W杯で日本代表監督として采配を振るう。その後、Jリーグ監督を歴任。07年再び日本代表監督就任。09年6月南アフリカW杯出場を決める。

 

瀬古 利彦さん/マラソン指導者

1956年7月15日、三重県生まれ。76年早稲田大学入学。1年次より箱根駅伝、国内外のマラソン大会で活躍。卒業後は80年モスクワ五輪代表に選出されるが日本のボイコットで出場ならず。84年ロサンゼルス、88年ソウルの各五輪代表。88年引退。現役時代は数々の記録を残す。

 

堀尾 正明さん/フリースポーツアナウンサー

1955年4月25日、岡山県生まれ。早稲田大学出身。卒業後81年NHK入局。アナウンサーとして活躍。2008年フリーに。同年、日本体育大学客員教授就任。日韓・ドイツW杯、北京五輪のキャスターを務める。現在、日テレ「SUPERうるぐす」「誰だって波瀾爆笑」ほかに出演。

能力強化の基本は体幹トレーニング
堀尾

今回はサッカー日本代表監督の岡田武史さん、マラソン指導者の瀬古利彦さんと一緒に「日本のアスリートが世界で活躍するためには何が必要か」というテーマでお話を進めていきたいと思います。早速ですが、今期待を持たれているアスリートはいらっしゃいますか?

瀬古

今年8月15日からベルリンで世界陸上が開催されますが、注目は何と言っても早稲田のホープ江里口匡史選手ですね。短距離の選手ですが、6月に行われた日本選手権男子100メートル準決勝で、10秒07の日本歴代4位という記録を出しました。江里口は今伸び盛りで、非常に期待が持てます。

堀尾

日本選手権は世界陸上ベルリンの代表選考会を兼ねていたんですよね。長距離、マラソンはどうですか?

瀬古

早稲田出身者で言えば、箱根駅伝でも活躍し、昨年の北京オリンピックにも出場した竹澤健介選手(エスビー食品)です。今回の世界陸上へは、男子5000メートルで出場を目指しましたが、惜しくも代表入りを逃してしまいました。ですが、今後の注目選手のひとりであることは間違いありません。

岡田

世界陸上ベルリンの女子日本代表には福島大学出身の選手が多いですよね。

堀尾

女子400メートル日本記録保持者の丹野麻美選手(ナチュリル)をはじめ、福島大学出身者が5名います。

岡田

女子1600メートルリレーの代表選手はすべて福島大学出身。

瀬古

詳しいですね。福島大学は大学陸上の強豪です。陸上部は特に女子が強い。走り幅跳びや400メートルなど、様々な種目で学生記録、日本記録を塗り替える有力選手を次々に輩出しています。

岡田

実は、福島大学陸上部を強豪に育て上げた川本和久監督に教えを請いにいったんですよ。

瀬古

川本監督は理論家です。そういう指導者が日本には少ないんですよね。筑波大学大学院でコーチ学を学び、文部省の在外研究員としてカナダ・アメリカに留学もしています。

堀尾

陸上界のカリスマですね。何を教えてもらいに? もちろんサッカーに通じることですよね。

岡田

ではそのヒミツを少しだけ。川本監督は日本人の体幹、骨盤に注目したんですね。カール・ルイスが階段をとんとんと登る姿を見て、姿勢も足の運びも何もかも違うと。ルイスのコーチのトム・テレツ氏にも学んだそうです。そこで、体幹をバランスよく鍛える体幹トレーニングを取り入れた。

瀬古

体幹トレーニングね。もともと欧米人は骨盤が前傾していて、日本人は後傾している。陸上競技などでは前傾骨盤の方が有利なんです。

岡田

そう。だから、まず後傾した骨盤を真っすぐにするような体幹トレーニングを行っています。その骨盤を支えるためのインナーマッスルを鍛えるトレーニングも取り入れています。体操や古武道の先生にも話を伺いましたが、同じことを言われました。

瀬古

サッカーにはどのような影響が?

岡田

体幹トレーニングは、走りはもちろん、キックにも影響があります。日本人のキックは脚が弓なりになるけれど、クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル代表)などは脚が真っすぐ伸びてバネをはじくようなキックをする。キックの精度も抜群に上がります。

堀尾

なるほど。ロングパスはもちろん、ゴール際のキックの精度が上がれば、得点力も高くなる。

岡田

そうなんです。

瀬古

体幹を真っすぐ。姿勢で言うとバレエのすっとした立ちポーズですよね。

堀尾

能もそうですね。

岡田

そう。骨盤を真っすぐにすると、正座の姿勢から真っすぐに立てるんです。

瀬古

走るときも体幹を真っすぐ伸ばし、ぽんと蹴り上げるようにするといいんです。そういえば、昔は速く走るトレーニングのために、ももを上げろと言われていましたが、あれは実は間違い。世界的アスリートを育てた著名なポーランド人のコーチが来日した時の講演で、解釈を間違ってしまった。それが広まってしまったんです。実は彼はそんなことは言っていなかった。

堀尾

もも上げは間違いなんですか。

岡田

そう、間違いなんですよね。

堀尾

サッカー日本代表は姿勢を正すところから始めているわけですね。ところで、瀬古さんの走るフォームはきれいですよね。

瀬古

無駄な動きをしませんでしたから。日本人と外国人とでは体型の差がありますから、辛いですね。基本的に日本人は足が遅い。長距離もそう。

堀尾

1万メートルなども不利ですよね。

瀬古

だからみんなマラソンに行くんです。

岡田

マラソンでもアフリカ勢は体型がすごいですね。

瀬古

サッカー選手でも、日本の選手は走り負けていますよね。江里口を呼んでこないと。

岡田

ボールを蹴って、あのスピードが出ればね。

堀尾

C・ロナウドも足が速い。

岡田

メッシ(アルゼンチン代表のサッカー選手)などもとても速い。

堀尾

バレーボールの植田監督がおっしゃっていたんですが、日本チームは身長2mを越えている選手が代表に1人。ロシアの選手は2m以上の選手200人の中から代表を絞る。身長ではかなわないので、ジャンプで補わなければならない。日本人の肉体的なハンデをどう補うかが課題だと。

岡田

サッカーは補える要素が、他のスポーツより多いと思います。骨盤矯正もひとつだし、合気道の「気」などもあると思うんです。

堀尾

骨盤や気は全てのスポーツにあてはまりますね。

瀬古

そうですね。

日本人が持つ特性をどういかしていくか

箱根路を走る現役時代の瀬古さん

堀尾

日本代表レベルの運動量はどうなんですか?

岡田

まだまだ足りません。体力はあるけれど試合で走れない選手、体力はないのに試合で走れる選手などいろいろ。体力よりも試合勘が大切ですね。どこをどう走っていいかわからない選手もいますから。

堀尾

石川直宏(FC東京のMF)などはポテンシャルが高いでしょうね。

岡田

守備ができますからね。日本代表は全員攻撃、全員守備ですから。守備も攻撃もするチームが勝つんです。FWなら試合出場数の半分=1/2は点を取らないと。これまで代表クラスで1/2の割合で点を取っているのは、ゴン(中山雅史・ジュビロ磐田)とカズ(三浦知良・横浜FC)、高原(高原直泰・浦和)しかいない。1/3でも5人くらい。せめて半分は取ってほしい。C・ロナウドは守備をほとんどしませんが、彼に守備までされたら勝ち目がない。守備をしないからまだ勝ち目があるんです。

瀬古

マラソンも一緒です。ケニアの選手は練習で30km以上走らない。もともとの能力は違いますが、それでも世界レベルに対応できるんです。日本の選手はもっと練習する。もしケニア勢が40km以上の練習をした勝てません。もっともっと練習量を増やさないと。

岡田

日本人のスタミナは?

瀬古

スタミナという点では、やはりマラソンは日本人にあっていると思います。練習で補える部分ですから。

岡田

スタミナ面では、ローパワートレーニングをやらせています。サッカーの試合を分析すると、全体の運動量としては、90分で12kmのジョギングをしている程度。サッカーは緩急あるスポーツなので、グリコーゲンも充分持つはずなのに、なぜバテるのか。調べてみると、ローパワーのスピード時速8.3km以下の時でもグリコーゲンを使っている。緩急つきすぎて、ハイからローになった時に対応が追いつかず、脳の指令で常にグリコーゲンを使う状態になっていたんです。それで、ローの時にグリコーゲンを燃やさないトレーニングをしています。

瀬古

陸上のインターバルトレーニングを取り入れてみたら?

岡田

そこまでやるとボールを扱うトレーニングができなくなっちゃう。代表レベルこそ時間がないですから。

堀尾

Jリーグもありますからね。

岡田

時間を補う意味でも、各チームに協力してもらっているし、個々の選手に練習メニューを紙に書かせ提出させたりして、コミュニケーションを密に取るようにしています。陸上の場合、オリンピックなどの目標に向け、調整トレーニングをする時期はどれくらいですか?

瀬古

マラソンなどの場合、半年かけて体を作りますが、ピークに持ってくるための走り込みは3か月前くらいから始めます。短距離は違いますが。

岡田

今度、小出監督に会わせてくださいよ。彼はピーキングが得意でしょ。

瀬古

上手ですね。

堀尾

サッカーに応用できるんですか?

岡田

それを探るために話を聞きたいんですよ。

堀尾

サッカーで、フィジカルではなくテクニックのレベルはどうですか?

岡田

クローズドスキル・スモールスキル……狭いエリアでのスキルは高い。でも、オープンエリアでのスキルは低い。だから、ショートパスをつなげていくしかありません。スモールスキルでもキックの詰めの部分、ゴール際でのキックの精度が海外の選手と全く違うんです。

堀尾

そのスキルの違いは? 体幹ですか。

岡田

文化の違いもあると思います。日本は、トラップやフェイントの技術は学ぶけれど、キックをきちんと蹴る文化がないのではと思っています。子どもの頃からキックの重要性をもっと認識しないと。

瀬古

C・ロナウドなどはボールが脚に吸い付いてる。

岡田

もうひとつはリスクを恐れ、ミスを怖がる。リスクを保障するとチャレンジするのに、自己責任にすると消極的になる。スポーツはリスクを冒せないと強くならない。そこをサッカーで変えていきたいです。

(校友広報紙「西北の風」続きはこちらから)

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堀尾

トータルに見た日本のレベルは?

岡田

1999年にナイジェリアで開催されたワールドユースでは、日本はスペインに次いで世界第2位になってるんですよ。稲本潤一(スタッド・レンヌ/仏)や小野伸二(VfLボーフム/独)、高原などがいた、いわゆるゴールデンエイジの時代ですが、そういう時代もあった。だから自信を持っていいと思うんです。

瀬古

ワールドカップでベスト4を目指すって発言が話題になっていましたね。なぜベスト4?

岡田

あれはミーティングで話したことが外部にもれたんです。選手のモチベーションをあげるために言ったこと。昨年8月にウルグアイ戦で負けた時に、代表チームのロイヤリティが下がってしまった。代表という意識も責任もなく、まとまりもなかった。そこで、日韓ワールドカップで韓国もベスト4になっている。我々も本気でベスト4を目指してみないかと問いかけたんです。最初、動いたのは数人でしたが、だんだんと意識が広がり、選手が次々と変化していきましたね。

瀬古

ワールドカップでベスト4ですか。岡田監督の時代はワールドカップ出場を目指していたのに。

岡田

そこなんですよ。今20歳の選手は、日本代表がワールドカップに出ていない時代のことを知らないんじゃないかな。出場して当たり前。そういう世代が増えてきて、経験値も上がってきていると思います。

堀尾

経験値は確かに上がっているでしょうね。

瀬古

話は変わりますが、6月のワールドカップ、アジア予選ウズベキスタン戦。あの試合、見に行ったんですよ。勝ったなと思って、ちょっと席を外して戻ったら、岡田監督がいない。退場しちゃってた。

堀尾

あの試合は、審判が厳しかったですね。

岡田

あの時は、長谷部が退場になって、ポジションの指示を大声で出していたら、文句を言ったと思われて退場になっちゃった。

堀尾

陸上では審判の判定についてはどうなんですか?

岡田

審判に意見できるんですか?

瀬古

お金を出せば異議は唱えられます。日本では1万円程度。世界では100ドル程度。意見は言えるけど、大抵は通りませんね。

早稲田大学有力選手と大学スポーツの今後

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堀尾

早稲田の現役、または出身選手で活躍しているアスリートも多いですが、いかがですか。

岡田

サッカーでは渡邉千真(横浜F.マリノス)がいますが、代表にはあと少しかな。

瀬古

陸上では、やはり短距離の江里口が大注目です。それから長距離の竹澤。

堀尾

竹澤は現早稲田大学陸上部駅伝監督の渡辺監督に憧れて入学したとか。

瀬古

竹澤あたりが長距離で世界と競り合い、その経験値を持ってマラソンに挑戦してほしい。

堀尾

その他のスポーツはいかがですか?

瀬古

早稲田はフィギュアスケートも強いよね。引退したけれど、荒川静香も早稲田出身。卒業生では村主章枝、中野友加里、現役では武田奈也。

岡田

野球は斎藤佑樹がいる。ちなみに野球の岡ちゃん、前阪神監督の岡田彰布さんも早稲田出身。

瀬古

2006年の入試からスポーツ科学部にトップアスリート入試制度を実施していますよね。それで卓球の愛ちゃん(福原愛)も入学したでしょ。

岡田

有力選手をどんどん入れればいい。

瀬古

だめだよ、早稲田は文武両道だから。

岡田

スポーツだけでもいいと思うけど(笑)。全体の底上げになるし。

堀尾

早稲田大学は昨年創立125周年を迎えましたが、これに向けてスポーツも強化しましたよね。

瀬古

昨年度は、ラグビーも野球も優勝しました。あと優勝が残っているのは箱根駅伝なんですよ。今年は惜しくも優勝を逃し、総合2位でした。まずは箱根に勝つことが大切ですね。

岡田

大変ですね。

堀尾

大学スポーツは世界で活躍するアスリートを育てるためにも重要な位置づけであると考えます。お二人の立場からも期待があると思いますが。

岡田

そうですね。大学サッカーからも有力選手が輩出されています。それ以上に、スポーツの地場を広げる役割も大きいと思います。

瀬古

陸上界では大きな位置を占めていると思います。世界で活躍するアスリートが登場すれば、子どもたちの憧れにもなるし、そのスポーツの底辺も広がるはず。早稲田で箱根を走りたいというように、大学に憧れて力のある選手も入学してくるでしょう。早稲田からもどんどん有力選手が登場することを期待しています。

堀尾

今日はどうもありがとうございました。