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【早稲田街物語】早稲田どらま館―演劇人の夢の跡

 早稲田キャンパスの南門から戸山キャンパスへ向かう通りにある「早稲田文化芸術プラザ どらま館(旧名・早稲田小劇場。のちに早稲田銅鑼魔館)」。小劇場運動第一世代といわれる劇団「早稲田小劇場」の発祥の地であり、1966年以降、学生・市民演劇の中心となって多くの演劇人を輩出してきたが、2012年2月末、耐震強度の不足が判明し閉館、取り壊されることとなった。遠く離れた山間の村で今も精力的に演劇活動している創設者に、その思いを聞いた。
 【校友広報紙『西北の風 Vol.12』(2012年9月発行)より】

取り壊しが決まった早稲田どらま館

 富山空港の南西約35キロ、人口約700人の富山県南砺市の旧利賀村。長閑だが冬は豪雪に見舞われる自然の厳しい山の中に、「早稲田小劇場」の後身「SCOT」の活動拠点「利賀芸術公園」がある。日本最大級の合掌造りの劇場や、花火劇も催される背景に池が広がる野外劇場など、複数の劇場をもつ一大演劇拠点だ。SCOTが公演を開催すれば多くの観客が訪れ、新作を作れば海外で招待公演される。

 主宰・鈴木忠志さん(73)は、早稲田大学政治経済学部を卒業してまもない1966年、劇作家・別役実さん(政経出身)らとともに劇団「早稲田小劇場」を設立。懇意にしていた喫茶店「モンシェリ」店主の助けで、喫茶店2階に劇場を作った。 「学生の時、閉店後の6時以降はいつも稽古場として貸してくれていた。我々が卒業しちゃって、店主も寂しかったんだろうね。ばらばらになるか、結束してやっていこうか、劇団で激論を交わしていたころだった」

 100人がやっと入る劇場だったが、公演は連日満員。「井伏鱒二も、吉本隆明も来たし、全共闘の学生が来て、それを支持していた教授たちがずらっと並んでいた。唐十郎、寺山修司らと張り合った時代。白石加代子もあそこで10年演じていた。あの時代が懐かしいよ」

 1976年、建物の賃貸契約終了に伴い、鈴木さんらは利賀村に劇団の拠点を移し、「早稲田小劇場」を「SCOT」に改称した。その後、1979年までの3年間、鈴木さんは歌舞伎研究家の故・郡司正勝名誉教授に請われ、第一文学部で非常勤講師も務めたこともある。SCOTは『リア王』、『ディオニュソス』、『廃車長屋のカチカチ山』など多くの代表作を生み、世界30カ国80都市以上で公演。2012年夏も47か国、3000人の芸術家がパフォーマンスを披露するスコットランドの世界的な芸術祭「エジンバラ国際芸術祭」に招待され、ギリシャ悲劇『エレクトラ』を上演した。

劇場の舞台から見た客席

1966年11月、早稲田小劇場のこけら落としとなった公演『マッチ売りの少女』のチラシ(演劇博物館提供)

 そんな極まり知らずの鈴木さんは「清水邦夫や別役実、野村万作、加藤剛、渡辺浩子…。劇作家、俳優、演出家といった演劇人を、早稲田は無数に輩出している。なぜか。それは演劇といえば『早稲田』だと、みんなが思っていたからだ」と力を込め、早稲田演劇の現状を憂えて厳しい注文をつける。「しかし、今もそうだろうか?」

 文学部を創設したシェイクスピア研究で知られる坪内逍遙は、自ら劇団も設立し、ヨーロッパの演劇を日本に紹介した第一人者だった。また早稲田大学は今も演劇研究の中心であり、能や歌舞伎研究だけでも莫大な蓄積がある。

 「理想を言えば、だからこそ、演劇博物館だけでなく、絶えずライブを行い、実験的なものに挑戦する、演劇のための専用劇場を持てばよかったと思う。早稲田は演劇の実技を教えなかった。パフォーミングアーツの学部をつくって演博の資料を英文化して、世界にむかって演劇を発信する。身体芸術系の研究所も設立し、在野の芸術家を講師として迎えて、演劇の国際的な一大センターを作り、世界的な演劇人を育てる。海外にはこうした大学があるのだから」と、険しい表情で語る。

 そして、「この利賀芸術公園を見てほしい。こんな山の中に、海外の大学からも寄付が集まる。毎年、世界から演劇人が集って稽古に励んでいる。海外に招待される演劇人、世界に通用する演劇人が今の日本にどれだけいるか? 日本の演劇の国際化というものを早稲田ならできたはず。演劇を学ぶ留学生を、世界中から集めることも夢ではなかったでしょう」と続けた。

劇団SCOT主宰・鈴木忠志さん

 演劇活動を通じ、今でも早稲田の学生と接する機会があるという鈴木さん。しかし、そうした学生たちに「昔の『型にはまらない』という気風がなくなってきた気がする。一般的に成功すれば良いのだという空気を感じる」と、寂しげに語る。

 「建物がなくなることは仕方がない。それは別にいいんですよ。しかし、演劇なんて在野精神そのもの。古くから様々な弾圧を受けながらやってきた。移転して36年間、演劇を続けて、国内外からたくさんの応援をもらってきた。こんなことは早稲田精神がなかったらできないことなんですよ。東大は官僚、慶應なら経済人。早稲田は何か? 進取の精神、在野精神ですよ。それを忘れてはいけない」

 早稲田小劇場が去ったあと、建物は貸劇場として経営され、紆余曲折を経て1997年、早稲田大学が買い取った。日本の現代演劇の記念碑的劇場は取り壊し後、学生の演劇活動の場として再活用できるかどうか検討が始まる。はたして、世界の演劇人としてこの地から巣立った“鈴木忠志”を、早稲田は再び生み出すことができるか?

『大人のための児童劇 シンデレラからサド侯爵夫人へ(一幕)』上演
2012年12月8日(土)~24日(月・祝)、吉祥寺シアターで

劇団SCOTは12月8日(土)から24日(月・祝)まで、東京・吉祥寺の吉祥寺シアターで、新作『大人のための児童劇 シンデレラからサド侯爵夫人へ(一幕)』を上演する。『シンデレラ』と『サド侯爵夫人』という2つの戯曲を同じ舞台で次々に稽古するところを見せる、という新たな試み。合計11回上演し、期間中は渡辺保氏(伝統芸能評論)、金森穣氏(現代ダンス)、菅孝行氏(現代演劇評論)、大澤真幸氏(社会評論)、水野和夫氏(経済評論)らと鈴木忠志氏との対談なども行われる。

■SCOT 吉祥寺シアター公演 2012
 『大人のための児童劇 シンデレラからサド侯爵夫人へ(一幕)』

【公演演目】
二人の姉と義父に虐げられながらも、自分の幸せの物語を書き続けるシンデレラ。
サド侯爵という異端の男。
 その男を軸にそれぞれの物語を創り、その中を生きる四人の女。
 世界に知られるお伽話「シンデレラ」と三島由紀夫の「サド侯爵夫人(第2幕)」。
 この二つが、舞台の稽古風景の中に新たな貌で出現する。
■演出:
鈴木忠志
■グリム原作・三島由紀夫作

■主催:
劇団SCOT
■共催:
武蔵野市、公益財団法人 武蔵野文化事業団
■WEB:
http://www.scot-suzukicompany.com/kichijoji/
■期間:
2012年12月8日(土)~24日(月・祝)
■場所:
吉祥寺シアター(http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/index.html
■チケット料金:
[全席指定]一般 5,000円、学生 4,000円
※学生割引については劇団SCOT(03-3445-8013)までお問合せ下さい。
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劇団SCOT