早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

YOMIURI ONLINE

ホーム > ニュース > 世界最古となるマイルカ科の化石が判明 マイルカ上科の系統関係や起源・世界の海洋への分布経路

ニュース

世界最古となるマイルカ科の化石が判明
マイルカ上科の系統関係や起源・世界の海洋への分布経路

 早稲田大学教育・総合科学学術院教育学部理学科地球科学教室(平野弘道研究室・村上瑞季助手)を中心とした研究チームは、北海道新十津川町で発見されたイルカの頭骨でスジイルカ属の化石種「ステネラ・カバテンシス(“Stenella” kabatensis)」として1977年に記載されていた化石(発見は1961年以前)について解剖学・系統学・地質学的な再検討を行いました。その結果、本種が世界最古のマイルカ科(バンドウイルカ、シャチなどを含む狭義のイルカの仲間)の化石であったことが判明し、これまで分類されていたスジイルカ属とは異なる「エオデルフィス“Eodelphis”」という、より原始的な新属を提唱し、同属に分類し直しました。

 これまでに発見されたマイルカの最古の化石種は530万年前のものでしたが、今回の化石が産出された地層の年代は850~1300万年前の中新世後期であり、古生物学だけではなく分子系統学・生物地理学・形態進化学などイルカの進化に関するあらゆる学問分野で非常に重要な研究となります。また、系統解析の結果を基に世界で初めて科学的な方法に則ったマイルカ上科の古生物地理解析を行ったところ、マイルカ上科に属する各科の起源や世界の海洋にどのように分布を拡げていったのかといったことも明らかになりました。

 これらの研究成果は、イギリスのTaylor & Francis社より刊行されている学術雑誌「Journal of Vertebrate Paleontology」に、論文『Eodelphis kabatensis, a new name for the oldest true dolphin Stenella kabatensis Horikawa, 1977 (Cetacea, Odontoceti, Delphinidae), from the upper Miocene of Japan, and the phylogeny and paleobiogeography of Delphinoidea』として発表されました。論文タイトルの日本語訳は『日本の中新統上部から産出した世界最古のマイルカ科化石ステネラ・カバテンシス(鯨目,歯鯨亜目)の新名称エオデルフィス・カバテンシス並びにマイルカ上科の系統と古生物地理』となり、無料で公開されています。

研究概要

 今回報告したエオデルフィス・カバテンシス(“Eodelphis” kabatensis)は世界最古のマイルカ科の化石です(マイルカ科はバンドウイルカ、シャチなどを含む狭義のイルカの仲間)。この化石の産出した地層の年代は次に古い化石種より約300~800万年も古く、古生物学だけではなく分子系統学・生物地理学・形態進化学などイルカの進化に関するあらゆる学問分野で非常に重要な研究です。 当該化石はもとともと1977年にスジイルカ属の化石種ステネラ・カバテンシス(“Stenella” kabatensis)として記載されました。本研究では解剖学・系統学的な再検討を詳細に行い、これまで分類されていたスジイルカ属とは異なるエオデルフィス“Eodelphis”という新しい属に分類し直しました*1。また、マイルカ科を含むマイルカ上科(シロイルカやスナメリなども含む広義のイルカの仲間)の最も詳しい系統解析と、初めての古生物地理解析を行いました。

“Eodelphis” kabatensisの頭骨化石と頭骨全体の復元図(村上瑞季原図)。
©Society of Vertebrate Paleontology(古脊椎動物学会)

“Eodelphis” kabatensis の生態復元図。Robert W. Boessenecker(ロバート・ボゼネッカー)原図。
©Society of Vertebrate Paleontology (古脊椎動物学会)

研究詳細

 今回報告した化石は1977年にステネラ・カバテンシスとして記載されていましたが、日本語で発表されていたため国外の研究者には認知されていませんでした。一方,日本国内では化石の年代と解剖学的な観点から、スジイルカ(ステネラ)属に属するという分類学的な位置づけについて疑問がもたれていました。本研究では、まず化石のクリーニング作業をやり直し、正確な解剖学的特徴を明らかにしました。これにより当該化石が現生のステネラ属を含む既存の属とは明確に異なることがわかりました。そのためエオデルフィス属という新しい属を提唱し、化石の学名をエオデルフィス・カバテンシスと改めました(学名は「樺戸地域から産出した暁のイルカ」という意味)*1。  エオデルフィス・カバテンシスは北海道新十津川町に分布する増毛層から産出しました。化石の産出した地層の年代は850~1300万年前の中新世後期で世界最古のマイルカ科の化石です。分子系統学からはマイルカ科の共通祖先は900~1100万年前に遡ると考えられてきましたが、(国外で知られていなかったエオデルフィスを除くと)これまで最古の化石種は530万年前のもので、マイルカ科の起源をめぐる分子系統学研究と古生物学研究の間には大きな時間的ギャップがありました。本研究の結果が国際的な学術雑誌に掲載されたことで、この時間的なギャップが解消されることが世界中の研究者のあいだで共有されました。

 マイルカ科を含むマイルカ上科(シロイルカ(イッカク科)やスナメリ(ネズミイルカ科)なども含む広義のイルカの仲間)の系統関係については、形態による系統解析と分子系統学との結果が一致せず長らく論争が続いてきました。そこで今回の研究では,形態による系統解析と分子系統学の結果を考慮した形態系統解析の2種類の系統解析を行いました。後者は分子系統学によって得られた系統樹において、化石種がどのような系統学的位置に配置されるかという解析です。これにより分子系統学と矛盾しない化石種と現生種を合わせた統合的なマイルカ上科の系統樹を構築することができました。これらの系統解析はこれまでで最も多くの種類数を含む系統解析でもあり、解析結果は今後のマイルカ上科の進化に関するあらゆる研究に活用されていくと期待されます。

 系統解析の結果を基に世界で初めて科学的な方法に則ったマイルカ上科の古生物地理解析を行いました。これにより、マイルカ上科に属する各科の起源や世界の海洋にどのように分布を拡げていったのかといったことが明らかになりました。例えば、マイルカ上科のうちイッカク科・ネズミイルカ科・アルビレオ科・オドベノセトプスは太平洋起源であり、ネズミイルカ科は少なくとも2回以上太平洋からその他の海域に進出している、といった具合です。

 本研究はイギリスのTaylor & Francis社より刊行されている学術雑誌Journal of Vertebrate Paleontologyに5月6日付け(米国時間)で出版されました。論文タイトルは『Eodelphis kabatensis, a new name for the oldest true dolphin Stenella kabatensis Horikawa, 1977 (Cetacea, Odontoceti, Delphinidae), from the upper Miocene of Japan, and the phylogeny and paleobiogeography of Delphinoidea』です。日本語訳は『日本の中新統上部から産出した世界最古のマイルカ科化石ステネラ・カバテンシス(鯨目,歯鯨亜目)の新名称エオデルフィス・カバテンシス並びにマイルカ上科の系統と古生物地理』となり、無料で公開されています 。 本論文では世界最古のマイルカ化石の解剖学的および系統学的位置の再検討を行っています。また、マイルカ科を含むマイルカ上科全体の系統や起源と放散過程なども議論しています。本論文は最古のイルカに関する古生物学と分子系統学の時間的ギャップを埋める化石として大きく注目されており、ハイライト論文(Featured article)として復元画が雑誌の表紙を飾るほど高い評価を受けています(これは日本人の著者としては2回目の快挙です)。Journal of Vertebrate Paleontology誌では今回の日本向けのプレスリリースとは別に、既に世界向けのプレスリリースを行っています。標本を所有する北海道開拓記念館(札幌)では、今回のプレスリリースに合わせて期間限定で「北海道庁別館赤れんが庁舎2階・北海道の歴史ギャラリー」にて7/2(水)~8/18(月)まで実物化石を展示いたします。なお、7/3(木)の8時45分〜14時30分までは、現地報道機関対応として、同館の添田雄二学芸員が展示会場に待機しております(12時〜13時は除く)。

 以上、化石の展示に関しては北海道開拓記念館展示課までお問い合わせください。展示施設の入場は無料で、開館時間は8時45分-18時です。その他詳細は以下URLでもご確認できます。

展示施設

北海道庁別館赤レンガ庁舎2階に展示中の化石

また、化石は来春にリニューアルオープンする北海道博物館(仮称)でも展示される予定です。

1. 学名について:今回の論文では世界最古のマイルカ科の化石に対してStenella kabatensisの代わりにEodelphis kabatensisという新しい学名を与えました。しかしながら、残念なことにEodelphisという新しい属名はカナダの白亜紀の地層から見つかっている哺乳類に使われていることが論文発表後にわかりました。異なる動物に同じ名前を用いることはできませんので、Eodelphis kabatensisには新たに別の名前を付ける必要があります。Eodelphis kabatensisに代わる新しい学名は9月発行のJournal of Vertebrate Paleontology誌にて発表されることが決まっています。新しい学名は綴りだけの変更で名前の意味自体は「樺戸地域から産出した暁のイルカ」で変りません。