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国際シンポ「東アジアから1968年をみつめなおす」が開催されました

 11月8日、アジア研究機構第12回国際シンポジウム「東アジアから1968年をみつめなおす」が国際会議場井深大記念ホールにて開催されました。戦後レジームに対するグローバルな叛乱のひとつの象徴となった「1968年」をめぐって、基調講演者としてニューヨーク大学のクリスティン・ロス教授を、また総括コメントにコロンビア大学のハリー・ハルトゥーニアン教授を迎え、10名を超える歴史学・政治学・地域研究・文学・思想の研究者が、それぞれのフィールドにおける社会的状況と、自身の経験とを報告しました。今回のシンポジウムは、文学学術院総合人文科学研究センター・日米研究機構・日欧研究機構、および文部科学省・平成26年度 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(プログラム名:近代日本の人文学と東アジア文化圏―東アジアにおける人文学の危機と再生)の共催によるものです。

 チェルシー・シーダー明治大学特任講師が全体司会を務め、アジア研究機構長の小口彦太・法学学術院教授が開会の辞を述べました。「1968年、私は法学部3年生でした。大学の権威に対するプロテストの意識はありましたが、日本社会の真の権威の所在とその特質を全く捉えていませんでした。中国の権力機構が可視的であるのに対して、日本はそのようには現象しない、という特質があります。その特質がどのような帰結を現代日本社会にもたらしているのか、今日はその答えを得ることができたら、と思います」。

報告セッションⅠ

 報告セッションⅠでは、アジア研究機構の八尾祥平研究助手の司会により、白井聡・文化学園大学助教と思想史研究者のマニュエル・ヤン氏が報告。白井氏は、戦後日本を通貫する保守支配の正当性原理を「敗戦の否認」と捉える展望のもと、1960年代までのさまざまな社会的・政治的運動には「敗戦をどのように引き受けるか」という「戦後処理」の問題が通底しており、特に1968年前後の安保闘争には屈折した形で抄出された「本土決戦」のモチーフを読み取りうる、と指摘しました。ヤン氏は、吉本隆明とE・P・トムスンの時間に関する思索、すなわち時間と死とが接合したイデオロギーは古代のみならず現代のものでもあると語る吉本隆明の『共同幻想論』(1968年)と、産業資本主義の台頭によって抽象化された時間、搾取のための時間が生まれたと語るトムスンの「時間・労働規律・工業資本主義」(1967年)を対置し、二人の論者の二つの時間概念を統合的に解釈することによって、当時のグローバルな思想的課題を明らかにしました。これらの報告をうけ、政治学研究科の平井新氏は台湾における民主化運動の歴史とヒマワリ運動について、クリス・パク氏は韓国における1968年の持つ意味を、そして安藤丈将・武蔵大学准教授は香港の民主化運動に底流する脱近代社会への希求について述べました。

ロス教授の基調講演

 午後は、クリスティン・ロス教授の基調講演「1968 and the Contingency of Power」が行われ、氏の主著『May ’68 and Its Afterlives』(邦訳『68年5月とその後反乱の記憶・表象・現在』)を導く理論的な関心について説明しました。1968年がどう描かれたのか、メディアやさまざまな組織によってどのように再生産され、そして1968年にかかわる表象が現実においてどのような力を発揮しているのか──という歴史叙述の政治的効果の問題を導き手に、過去を国民国家の登録遺産というポジションから奪還し、現在の経験を異化する力をもつものとして扱うための方法として、ひとつの国民国家の枠を越えた、全世界的で普遍的な出来事として理解する比較史的視座の重要性を力説しました。

 報告セッションⅡでは、梅森直之・政治経済学術院教授の司会により、塚原史・法学学術院教授、王前・東京大学特任准教授、山崎孝史・大阪市立大学教授が報告。塚原氏は自身が吉本隆明とボードリヤールから受けた影響を、1968年の経験とともに語りました。王前氏は「文革の遺産を再考する」と題し、文化大革命後の新啓蒙運動とその終焉、さらに重慶事件についても言及しました。山崎氏はアンソニー・ギデンズのフレームワークを参照しつつ、1970年のコザ暴動の具体的分析を一部紹介しました。コメンテータとして登壇した篠田徹・社会科学総合学術院教授は、「北爆停止」の新聞報道に衝撃を受けた幼少期から筑摩書房『現代革命の思想』の紹介へと至ったのち、三人の報告者に示唆的な問いかけを行いました。

 総合討論では報告セッションⅡの登壇者に山田満・社会科学総合学術院教授、坪井善明・政治経済学術院教授が加わりました。東南アジアにとっての歴史的画期は1965年、すなわち革命第一世代の指導者からの政権交代と経済開発志向の権威主義的支配体制が成立した時期にある、と山田氏は指摘。また坪井氏は、1968年ごろ東大在学中に参加したデモでベトナム戦争反対の叫びを聞き、ふとベトナムのひとびとの日常生活が気になり、それがベトナム研究のきっかけとなった、というみずからの原点を語りました。

ハルトゥーニアン教授の総括コメント

 総括コメントとしてハルトゥーニアン教授は、日本史研究が蛸壺化している現状を批判しつつ、ローカルな出来事とグローバルな事象を接合して考察すること、知識人やパラダイム的人物の国際比較にとどまることなく、広範なひとびとに沈殿する政治史的無意識を比較することの必要性を強調しました。

 このシンポジウムは、次号『ワセダアジアレビュー』(アジア研究機構発行)にて特集が組まれる予定です。